might be

さて旅行前に全旅行行程を管理してた、
Excel表を前に腕組み。

直島→屋久島の駒をどう進めるか。
紙面でも悩める旅の醍醐味。

直島→高松港→高松空港→鹿児島空港→屋久島空港が最高値で最速。

でもそれではおもしろくないので
直島→高松港→高松駅→（夜行バス）→福岡駅→（バス）→鹿児島駅→谷山港→屋久島と
陸路と海路を駆使して
車泊と船泊の２連夜、宿いらずの強行スケジュールに決定。

飛行機であっちゅうまに屋久島に飛ぶより
だんだん屋久島に近づいてく段階的興奮の高まり。

なんとか僻地、谷山港にたどり着いて
わくわくしながら貨物船「はいびすかす」に乗り込む。

はいびすかすは種子島経由屋久島行きで
18時に出航、22時に種子島着、
翌朝5時に種子島を出航、７時に屋久島に到着で3000円ぽっきり。

13時間の航海に備えて
食料は鹿児島駅付近でたくさん買い込んだ。

意気揚々と出航間際のはいびすかすの甲板に昇り
風を感じる。
海の匂いにわくわくする。

と、魔法使いみたいなマスタッシュを蓄えた外人に
背後から話しかけられる。

名前：アリ
国籍：カナダ人
年齢：31歳
入国理由：５週間のヴァケーション
日本での滞在場所：練馬
職業：日本車の中古車販売
眼の色：水色、ときどき緑色
行先：種子島→京都→北海道
将来の夢：建築家
趣味：サーフィン、スノボ

軽く世間話の予定が
意気投合という言葉はまさにこいうときに使うのだというくらい盛り上がって

種子島までの４時間ぶっ通しで甲板でおしゃべり。

建築の話
サーフィンの話
人生の話
神の存在の話
アメリカ人の詐欺師の話
フランス人のハシシジャンキーの話・・・

海はどんどん濃さを増して
星はどんどん自己主張を始めた。

アリに「カレシはいるの？」と聞かれたので
「１週間前にフられてから旅に出てきた」と言ったら

「なんでフられたの？」とさらに聞かれた。

いろいろな理由が頭を過ぎったけれど

一番説明しやすい
「言語的コミュニケーションに頼りすぎたからかな」と答えた。

アリは種子島でサーフィンするために来たのに
あたしが屋久島に行くと言ったら
チケットを種子島から屋久島に変更した。

22時に種子島について
１時間ほどなら外出してもいいというので
おっかなびっくり種子島に初上陸。

西之表港から徒歩１分のところにある、
名も無いやきとり屋でアリと夕ご飯。

アリはほとんど日本語が喋れないくせに
日本人とコミュニケーションできちゃうひと。
事務的な日本語はシチュエーションで理解してた凄腕。

23時にはいびすかすに戻って寝ることにした。
雑魚寝。

女性優先スペースという４畳ほどの個室チックなところが空いてた。

屋久島まで行く女性はあたししかいないようだったので
「ここに居たいなら居てもいいと思うよ」と言ったら
アリもそこで眠ることになった。

簡易枕と簡易毛布で簡易寝床を作って
リの字に横になった。

アリとは旅の高揚感も手伝ってか
言語を超えたコミュニケーションができたと思ってた。

心が通じてる気がしたから
そいうことになってもいいかなとも思った。

20代だったら自分から押し倒してただろう。

30代になるとガツガツしなくなるんだな。
自分から仕掛けようとは思わなかった。

おやすみと言ったあと

アリが話しかけてきた。

「さっきの話だけれど
　アキ男。は言語コミュニケーションが
　アキ男。と同じよにできるひとと付き合えばいいんじゃないの？」と。

「僕はそういう類の男だと思わない？」とアリは付け加えた。

あたしは「I'm not sure.」と返答した。

しばらく経ってから
それがどういう意味かわかってきて徐々に後悔の味が広がった。

もし「might be」と言ってたら
あたしとアリはどうなっていたんだろう。

気がつくと波のよな眠りに落ちていた。

翌朝5時の種子島出航の大音量放送で強制的に起床。
甲板に出てみると夜が明けたばかりだった。

雲間から顔を出した途切れ途切れの紅すぎる太陽に目を細めた。

アリとはそいう縁なのだ、と思った。

7時過ぎに屋久島に到着。

縄文杉を見に行くことにするというアリとそこでバイバイ。

旅で出会ったひととの出会いは色褪せなくするために
連絡先は交換すまいと常々思ってるけれど

「何かあったら電話して」と
ついついアリとは連絡先を交換してしまった。

ところでアリはその日の午後
早々と種子島に向かうフェリーに乗っていた。