扇子と手拭い

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御見逸れしやした

2014-07-31 11:36:48 | 日記
▼無類の読書家正蔵
 林家正蔵が本好きとは知らなかった。「感じてほしい“言葉の香り”」と題して、
毎日新聞の夏の読書特集に、私と本について語った。九代目正蔵と言うより、「タレント こぶ平」のイメージが強過ぎて、私の頭からはいまだに抜け切らない。だから無類の読書家と聞き、別の顔を知った。

 本と親しむようになったのは、読書好きだった父、故三平と母の影響が大きい。「小学生のころ、フィクション、ノンフィクションに限らず、週刊誌や漫画雑誌以外はどんな本でも無制限に買ってくれました。本はいくらでも読みなさいって。小学校高学年からいろいろ読みました」と正蔵。

▼小学時代に落語全集
 手にした本は遠藤周作、吉川英治、池波正太郎、アーネスト・ヘミングウェイ、レイモンド・チャンドラー、小林秀雄……。「たまたま小学校の恩師が埼玉大学の落研(落語研究会)の人だったんです。本の話になって青蛙房から出ている落語全集も読みましたね。小さん、金馬、文楽、志ん生」。

 驚くほど多岐にわたっている。「意味が分からないところがあっても、文字を追っているだけで楽しかったですね」。最近の子供は本を読まないとよく言うが、正蔵の話を聞いて、原因は親にあることを改めて確信した。

▼心に留める「言葉の香り」
 落語協会会長になったばかりの柳亭市馬の下で、副会長に就任。古典落語にも一層、磨きがかかってきた。最近は滑稽噺だけでなく、人情噺や三遊亭円朝物へと芸の幅を広げている。正蔵が心に留めているのが「言葉の香り」。

 「古典落語に力を入れてやり始めた時に、(春風亭)小朝兄さんに『言葉って香るよね。名人上手の噺を聴くと、言葉に香りがある。すごく重要な要素なんだよ』って言われたんです」。

▼「お艶殺し」と「鼠小僧次郎吉」
 それは文学にも当てはまると言って、正蔵は谷崎潤一郎の「お艶殺し」と芥川龍之介の「鼠小僧次郎吉」を挙げた。「とにかく読んでごらん」と人に薦められたという。

 正蔵は続けた。「見事な江戸言葉で、江戸の風、香りがプンプンしてくるんです。自然と文章から湧き立つんです。こんな語りができる落語家になれたら素敵だろうなあ。この二つは手放せない。いい本に出会えたと思います」。

▼「いつになってもひってんだ」
 「江戸の香りがプンプン」なんと書かれたら、拝見しないわけにはいかない。早々に近くの図書館に駆け込んだ。あった。「鼠小僧次郎吉」は手元に、そして「お艶殺し」は、数日中に届く手はずだ。

 「おれが3年見ねえ間(ま)に、江戸もめっきり変わったようだ」「変わらねえのはあっち(私)ばかりさ。へへ、いつになってもひってんだ」―。汐留の船宿、伊豆屋の表二階。遊び人らしい2人の会話である。

▼御見逸れしやした
 この「いつになってもひってんだ」の「ひってんだ」が、分からない。と思っていたら、ちゃんと解説があった。ピーピーしている、貧乏から抜け出せないでいるという意味だそうだ。

 この本にはこんな江戸言葉、粋な会話が随所に登場する。なるほど落語をやる者にはいい教科書だ。芸の肥しになる。御見逸(そ)れしやした。


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