扇子と手拭い

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堅物の倅を女郎買に

2014-12-28 00:26:06 | 落語
▼落語は実に難しい
 落語というものは実に難しいものだ。何しろ手拭いと扇子1本で、聴き手を納得させないといけない。そこが「想像芸」の面白いところだ。稽古会では仲間から弱点をビシッと突っ込まれた。とにかく稽古に夢中で、指摘を受けるまで肝心なことに気付かなかった。

 昼どきなので稽古前にチョイト、JR新宿駅近くの天ぷら屋に飛び込んだ。思っていた以上に待たせた。時間がない、早く願いたい。カウンターの目の前で揚げてくれんのはいいが、海老が2本出たところで、次がなかなか出て来ない。メシを食ってる最中に、箸が止まっちゃあしょーがない。

▼堅物の息子を女郎屋へ
 おかげで稽古の時間に遅れちまった。開口一番を務めた。演目は「明烏」。この噺は落語好きなら誰でも知っている艶笑噺。真面目一本の堅物息子を案じた親父が、町内の札付きの遊び人・源兵衛と太助に「吉原へ連れてってくれ」と頼む。

 2人はガッテン承知の助と快諾。お稲荷さんに尾籠(おこもり)に行くと偽って、若旦那を誘い出す。「お巫女のうち」とウソをついた茶屋までは上手くいったが、おお店で、あの里特有の格好した女を見て、ここが吉原だとばれてしまう。

▼短く縮めるのが至難
 あとは源兵衛と太助に茶屋の女将も加わって、丁々発止の大騒動。一夜明けて2人が帰ろううと呼びに行く。ところが、あれだけ吉原を嫌っていた堅物が帰ろうとしない。挙句の果ては???

 この噺は40分近くの長い噺。素人がそのままやれば1時間近くかかる。それを20分に短縮してやろう、てんだ。半年前から取り組んでいるが、なかなか覚えられない。カットするのが至難の業。闇雲にぶった切ると噺がかすむ。どこをどう切るか30回以上、試みた。

▼若旦那の立ち位置違う
 10日ばかり前にやっと、まとまった噺をみんなの前で披露し、感想を聞いた。いわく。源兵衛、太助と顔を合わす若旦那の立ち位置が違う。花道から出て来て2人に声を掛けるのだから若旦那は左を向いて話さないと、と助言。

 さらに、相方の花魁が「若旦那、お起きなんし」と声を掛ける場面は、花魁が立って話している感じ。寝床で話しているなら、もうひと工夫欲しいところ、と指摘された。

▼言葉と仕草で情景を
 このあたりが落語の難しいところ。高座の上から話す言葉と仕草で、情景を思い浮かべてもらう。どんな場面で、誰が、だれと何を話しているか想像してもらう。

 その時、落語の友が言った。背を低くして両手で布団を持ち上げるふりをして話す。なるほど、これで寝ている場面が想像できる。この辺りが息の合った友との稽古会のよさである。

▼1月の初席「明烏」披露
 もう一つ、大事なのは「目線」。源兵衛と太助は座って呼びかける。他方、若旦那と花魁は、まだ寝床の中という設定だ。目線が上から下と、下から見上げる違いを演じ分けることで位置関係が鮮明になる。

 半年かけて練り上げた「明烏」を新春1月の初席、文七迷人会にかけるつもりだ。どんな「明烏」になるか、ご期待願いたい。

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 初春寄席
第18回文七迷人会
開演は1月16日(金曜日)午後6時30分。終演は8時30分予定。

演目は「明烏」のほかに、「大仏餅」「時そば」「宮戸川」「初音の鼓」。
このほか新春を寿ぎ粋な「三味線の弾き唄い」があります。

場所は東京・浅草の「茶や あさくさ文七」 
オレンジ通り浅草公会堂並び
電話03-6231-6711  地下鉄浅草下車5分
料金は無料 ただし飲食代は別。

「茶や あさくさ文七」はここをクリック
http://www.localplace.jp/t000235240/

ここもクリック
http://profile.ameba.jp/asakusabunshichi/

高倉健の「昭和残侠伝」

2014-12-25 14:23:57 | 落語
▼トキがあのころ戻った
 スクリーンに「終」の文字が浮かぶと場内から拍手が起きたー。丸の内東映で高倉健追悼の特別興行「昭和残侠伝」が上映された。客の大半は、高倉健とともに青春時代を過ごした世代だ。この一瞬だけは、トキがあのころに戻ったようだ。

 上映は24日午前10時30分からのたった1回限り。ウイキペディアによると、「昭和残侠伝 唐獅子牡丹」は1966年1月公開というから48年も前。道理で健さんが若いはずだ。

▼映画館の風景も一変
 当時は学生運動が華やかなりし時代で、全共闘の学生たちに混じって、競輪やパチンコですられた連中もこのシリーズを観に来ていた。理不尽な世界にたった1人で乗り込んでいく主人公に共感を覚え、観客は喝さいを送った。

 あれから随分と時が経ち、映画館の風景も一変。この日は身なりを整えた初老の男性や着物姿の女性が目立った。私は落語仲間と待ち合わせしたが寝過ごした。詫びの電話を入れ、ギリギリに丸の内東映に駆け込んだ。

▼つい、落語会のクセで
 なんと指定席だ。空いてる席は前方のE席16番と、後方のなんとか、と窓口の女性が言った。「前の席を」と私。これが大シクジリ。E席といえば前から5列目。

 落語会は前でないと仕草がよく見えないので、出来るだけ前の席を確保する。ついそのクセが出て、「前を」と言ってしまった。ところが、この劇場のスクリーンは大きくて横に広い。5列目だと首を持ち上げて観ないといけないので、くたびれる。だから前の席が空いていた。ちっともいい(E)席ではなかった。

▼高倉健に釘づけ
 E席16番の席を見つけて座ろうとしたら、なんと隣に落語仲間が座っている。私を見るなり「あれっ、何? どうしたの?」と彼。どうしたも、こうしたもない。偶然だ。こういうことがあるのだと、2人で大笑い。

 そうこうするうちに映画が始まった。ワイドなスクリーン。音響効果も申し分ない。レンタルビデオ屋からDVDを借りてきて、うちで観てもこの迫力は出ない。咳払いひとつ聞えない。みんな高倉健に釘づけだ。

▼目から鼻水が垂れる
 雪の降りしきる中を高倉健がひとりで悪玉をやっつけに行く。池部良と白雪を背に交わすセリフが泣かせる。そこに「唐獅子牡丹」のバックミュージックが流れる

 ♪♪義理と人情を秤にかけりゃ 義理が重たい男の世界・・・。
私たちの世代は、こんなのに弱い。観ていてなぜかグッとくる。知らず知らずのうちに目から鼻水が垂れる場面だ。

▼ありがとう健さん!
 あっという間に1時間30分が過ぎた。涙のあとを隠そうと、照れ隠しにしきりにまばたきをする人。満足そうな表情を浮かべる人。高倉健は間違いなく銀幕の英雄だ。ありがとう健さん!

会場沸かせた「片棒」

2014-12-21 21:20:05 | 落語
▼突然「片棒」に替えた
 「龍志 高座納め」と銘打った独演会を聴きに行った。お目当ての噺家の落語を3席も聴けるなんてありがたい。入り口でもらった番組表には「家見舞い」とあった演目を、突然「片棒」に替えた。うれしいじゃないかい。「片棒」は古典落語の代表作だ。明日、22日は冬至。正月がすぐそばまで来てる。

 いつもは地下鉄の三越前で降りるが、今日はJRで行った。神田駅から日本橋に向かう道路沿いのビル正面には、すがすがしい青竹を切った門松が飾ってあった。「もー、いーくつ寝ると・・・」というわけだ。

▼暮れだからカネの噺
 開演の30分前には九分通り、客席が埋まった。龍志の落語が好きだと言う隣の30代の夫婦と会話した。他には談四桜がお気に入りだそうだ。

 午後1時30分、開演の幕が開いた。前座の後、「家見舞い」に替えて龍志が、暮れは何かとおカネの動きが激しい時期ですのでカネの噺、「片棒」をやります、と言った。結構ですな。

▼倅3人に葬式テスト
 この噺は、大たな(店)のダンナ、赤螺屋(あかにしや)ケチ兵衛が3人の倅の誰に、後を継がせるか迷っている噺で、自分が死んだ時、どんな葬式を出すかテストする。長男は、来た人に酒肴を振る舞った上に、漆塗りの重箱にたっぷりご馳走を詰め込んで、別封、お車代として2万円を包むと言う。

 「そんな葬式ならあたしが出たいよ」と、とっつあん。続いて「何人、ひとを呼ぶのだ」と聞くと、「さようで御座いますな。ざっと5000人」と長男。「バカ野郎、あっちへ行け」と怒り心頭のオヤジ。

▼後棒はワシが担ぐ
 次ぎは、派手で粋な葬式を出すと二男。白黒の幕は陰気臭いので、そこら中に紅白の幕を張って、鳶の頭の木遣りを先頭に芸者衆。次に親父に似せたからくり人形の山車を繰り出し、お囃子で賑やかしくやる。最後は、威勢のいい若い衆が担ぐ神輿と打ち上げ花火だ、と言う。

 三男は、「おとっつあん、おらあ、無駄な銭は使わないよ」。会葬者に出棺時間は午前10時と通知して、実際の出棺は8時にやるんだ、と三男。これなら料理も酒も出さずに済むと倅。とどのつまりは、棺桶代がもったいないので漬物樽で代用すると提案。「エライ!」とオヤジは大感激。

 「で、桶は誰が担ぐ」と聞くと、「先棒はオレが担ぐので、後棒だけ1人雇ってくれ」と倅が言ったところ、「そんな余計な銭を使うことはない。後棒はワシが担ぐ」とオヤジ。

 この噺に会場が沸いた。龍志は他に「文七元結」と「五貫裁き」を披露した。3席ともいわゆる大ネタだが、見事に演じ分け、客を満足させた。終演は午後4時。

「分かった」と二つ返事

2014-12-20 22:37:22 | 落語
▼何とかもくずり込もう
 この人の落語に惚れ込んだ。こないだ聴きに行った3人の落語仲間も「立川龍志はいい」と絶賛。独演会を探していたらあった。21日の「龍志 四季の会」。しかも「文七元結」をかけるという。だが、チケットは「完売御礼」。こうなると、ますます聴きたくなる。何とか「もくずり込もう」と考えた。

 龍志のアドレスを見つけた。既に19日の午後10時を過ぎている。遅いのでメールを送った。「夜遅くに大変失礼いたします。たったいま、師匠のパソコンのページを拝見いたしました。21日の四季の会のことを初めて知りました。完売御礼となっています。聴きに行きたいのですが、1人で結構ですので何とかなりませんか」と強引に頼み込んだ。

▼「分かった」と二つ返事
 「実は先日、上野で初めて師匠の噺を聴き、本寸法の落語に心が動きました。文七元結は私が一番好きな噺です。ですから龍志師匠の文七元結をなんとしても聴きたいと思い、失礼ながらお願いする次第です」とたたんだ。

 一夜明けた20日、起床時間を狙って電話をかけた。電話口に本人が出た。ついてる。事情を説明すると、「よーく分かりました。(チケットを)ご用意いたしましょう」と二つ返事。嬉しいね。有難い。これで「文七元結」が聴ける。

▼いぶし銀の龍志落語
 龍志は生まれも育ちも向島。本物の江戸っ子だ。写真に着物姿の龍志が写っていたが、着慣れているせいか形がいい。私の大好きな志ん朝が「噺家は様子が良くなくちゃあいけませんな」と言っていたが、龍志は実に様子がいい。

 長年の龍志ファンはこんなことを言っている。「龍志は、やっぱ都都逸とか端唄とか唸らすと上手いねぇ。“野ざらし”での、美人の幽霊に会いたくて行き倒れの仏を探しに行く際の様子とか、あと終盤、幇間が出てきてヨイショの口上をまくしたてるところとか、いいよなぁ」。

 こんなに言われたら「野ざらし」も聴いてみたい。噺も本寸法の江戸落語。いぶし銀のような、惚れ惚れする語り口。これを機会に、龍志落語をもっと聴くつもりだ。いよっ、待ってました龍志!

本寸法の落語を聴いた

2014-12-19 22:59:11 | 落語
▼目当ては左談次と龍志
 正午前から冷たい雨が降ってきた。寒い。駆け込むように寄席の木戸をくぐった。16日、落語が趣味の朋輩4人で立川流落語会を聴きに行った。目当ては左談次と龍志。いい、実によかった。2人とも受けを狙わず、本寸法の落語を演じた。

 左談次は一度、聴いたことがある。「宿屋の富」。あたくしもこの噺をやるので興味があった。志ん朝とは違った良さを感じ、「また聴きたい」と思っていた。そこに「左談次と龍志が出るが行かないか」と落語通の朋輩から声がかかった。

 左談次は相撲噺の「阿武松」を、龍志が大岡越前が出て来る「五貫裁き」を演じたが、2人とも上手い。第一級の噺家だ。「いぶし銀」と言う言葉がぴったりな落語家である。

 今、2人に対抗できる噺家と言えば、上方は別にしても、関東に500人近くいる噺家の中では五街道雲助ぐらいしか見当たらない。本物の噺はいい。全身にしみわたる。これが古典落語の良さだ。左談次と龍志の虜になった。独演会があればぜひ行きたい。