▼宴席で落語はやらない
無料の出前寄席と知り、都内のシティホテルで開く新年賀詞交換会への出演依頼が来た。準備万端整えて会場に臨んだところ、散々な目に遭った。おまけに、帰りの電車は途中で止まるわ、駅に降りた途端冷たい雨が降り出すわで、この日は踏んだり、蹴ったりだった。
160人前後集まる新年会なので落語を披露してほしいと依頼があった。「アルコールが入った宴席で落語はやらない」と注文を付けた。「乾杯の後すぐに落語を、飲み食いはそのあと」というので引き受けた。
▼
立食パーティーだと思ったら、7、8人で丸いテーブルを囲むフルコースのディナーだった。マイクの音量、高座への照明の当たり具合、出囃子の入りと出のタイミング。主催者側の司会者とホテルの担当者に私の3人で事前に細かく打ち合わせた。
落語の出番となった。会場のドアを開けてびっくりした。話が違う。すでに飲み物や料理が次々運ばれているではないか。「これはまずい」と思った。が、出囃子が鳴る中もう、後には引けない。そのまま高座に上がった。
▼最善の噺を届けたい
ほとんどの方が落語をナマで聴くのは初めてだろうと思い、本番の落語とは別に簡単な「ひと口小噺」をいくつか用意した。だが、宴会場が騒がしくて、マイクの声もかき消された。ナイフ、フォークが皿にカチカチあたる音。四方八方から隣同士で話す声が届いた。何が何だかわからないような騒々しさだ。
あまりのひどさに噺をやめて高座を降りようか、と思った。しかし、この日のために今朝は5時過ぎに起き、5回も6回も稽古を繰り返した。新しいマクラも考えた。高座に上るには、自分なりに「最善の噺を届けたい」と考えた。
▼騒音と落語の綱引き
思案しながら噺を続けていると、ヒョイと目に留まったのが、先ほどまで後ろを向いてほかの人にビールをついでいた人。正面に向き直し、こっちを見ている。騒がしい中で噺を聴いてくれているらしい。「噺を続けよう」と決めた。
会場の騒音と私の落語の綱引き。演目は浅草の落語会でネタおろしをした「明烏」。町内の遊び人、源兵衛と太助が日向屋の若旦那に声をかける場面では、普段に増して大きな声を張り上げて、「若旦那あ―。こっちこっちー」と身振り手振りで呼びかけた。
▼帰りは電車がストップ
一瞬、会場の”騒音”が止まり、一斉に視線が私の方に向いた。が、すぐまた話し始めた。終わると義理の拍手が来たが、最後まで消化不良で終わった。
控室にやってきた人が言った。「落語が好きで楽しみにして来た。一番後ろに座っていたら、うるさくて何も聞こえなかった」。改めて「落語は宴席でやるものではない」、と思った。主催者が「着席して歓談を」と言ったが、とても飲み食いする気分になれない。辞退して帰り支度を整えた。
午後2時に家を出て、私鉄とJR、モノレールを乗り継ぎ帰宅したのが午後9時前。帰りの山手線が突然ストップした。御徒町駅で人が線路に転落したとかで池袋、新宿方面行は全線止まった。
▼ひょっとして仏滅?
やっと、動き出したと思ったら、運転士が停車位置を間違えて、前へ進んだり再び戻ったり。自動制御装置がついているのに、「運転士は寝てんじゃないか」、とうんざりした。
私鉄に乗り換え、やっと着いたと思ったら、今度は急に大粒の雨が降り出した。雨に降られるたびにビニールの傘を買うため、わが家の傘立ては傘の山だ。その夜は買うのをやめて、バス停まで濡れて歩いた。
ひょっとすると今日は仏滅か?
無料の出前寄席と知り、都内のシティホテルで開く新年賀詞交換会への出演依頼が来た。準備万端整えて会場に臨んだところ、散々な目に遭った。おまけに、帰りの電車は途中で止まるわ、駅に降りた途端冷たい雨が降り出すわで、この日は踏んだり、蹴ったりだった。
160人前後集まる新年会なので落語を披露してほしいと依頼があった。「アルコールが入った宴席で落語はやらない」と注文を付けた。「乾杯の後すぐに落語を、飲み食いはそのあと」というので引き受けた。
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立食パーティーだと思ったら、7、8人で丸いテーブルを囲むフルコースのディナーだった。マイクの音量、高座への照明の当たり具合、出囃子の入りと出のタイミング。主催者側の司会者とホテルの担当者に私の3人で事前に細かく打ち合わせた。
落語の出番となった。会場のドアを開けてびっくりした。話が違う。すでに飲み物や料理が次々運ばれているではないか。「これはまずい」と思った。が、出囃子が鳴る中もう、後には引けない。そのまま高座に上がった。
▼最善の噺を届けたい
ほとんどの方が落語をナマで聴くのは初めてだろうと思い、本番の落語とは別に簡単な「ひと口小噺」をいくつか用意した。だが、宴会場が騒がしくて、マイクの声もかき消された。ナイフ、フォークが皿にカチカチあたる音。四方八方から隣同士で話す声が届いた。何が何だかわからないような騒々しさだ。
あまりのひどさに噺をやめて高座を降りようか、と思った。しかし、この日のために今朝は5時過ぎに起き、5回も6回も稽古を繰り返した。新しいマクラも考えた。高座に上るには、自分なりに「最善の噺を届けたい」と考えた。
▼騒音と落語の綱引き
思案しながら噺を続けていると、ヒョイと目に留まったのが、先ほどまで後ろを向いてほかの人にビールをついでいた人。正面に向き直し、こっちを見ている。騒がしい中で噺を聴いてくれているらしい。「噺を続けよう」と決めた。
会場の騒音と私の落語の綱引き。演目は浅草の落語会でネタおろしをした「明烏」。町内の遊び人、源兵衛と太助が日向屋の若旦那に声をかける場面では、普段に増して大きな声を張り上げて、「若旦那あ―。こっちこっちー」と身振り手振りで呼びかけた。
▼帰りは電車がストップ
一瞬、会場の”騒音”が止まり、一斉に視線が私の方に向いた。が、すぐまた話し始めた。終わると義理の拍手が来たが、最後まで消化不良で終わった。
控室にやってきた人が言った。「落語が好きで楽しみにして来た。一番後ろに座っていたら、うるさくて何も聞こえなかった」。改めて「落語は宴席でやるものではない」、と思った。主催者が「着席して歓談を」と言ったが、とても飲み食いする気分になれない。辞退して帰り支度を整えた。
午後2時に家を出て、私鉄とJR、モノレールを乗り継ぎ帰宅したのが午後9時前。帰りの山手線が突然ストップした。御徒町駅で人が線路に転落したとかで池袋、新宿方面行は全線止まった。
▼ひょっとして仏滅?
やっと、動き出したと思ったら、運転士が停車位置を間違えて、前へ進んだり再び戻ったり。自動制御装置がついているのに、「運転士は寝てんじゃないか」、とうんざりした。
私鉄に乗り換え、やっと着いたと思ったら、今度は急に大粒の雨が降り出した。雨に降られるたびにビニールの傘を買うため、わが家の傘立ては傘の山だ。その夜は買うのをやめて、バス停まで濡れて歩いた。
ひょっとすると今日は仏滅か?