扇子と手拭い

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引き出しの多い噺家(落語2―85)

2012-01-29 01:06:33 | 日記
 今年になって初めて平治師匠の落語会にうかがった。28日の新春センター寄席「落語で初笑い」。師匠は、あたしがこれから稽古に入ろうと思っている「まんじゅう怖い」を高座にかけた。あまりの幸運に「こいつぁー、ま、春から縁起がいいわい」と、思わず叫びたくなった。2012年、好調な滑り出しである。

▼チラシやコートで“予約済み”
 「きょうは師匠の落語会だ」と思いだし、昼飯もそこそこに、わが家を飛び出し、すっ飛んで行った。それでも会場に着くまでには、1時間40分ほどかかった。西武新宿線の下落合駅で下車。そこから徒歩約5分。開演までまだ30分近く余裕があるのだが、既に前の方の席は、椅子の上にチラシやコートが置いてあって“予約済み”。

 空いている席を見つけて着席。「今日は何を演ってくれるだろうと思わせるぐらい引き出し(ネタ)の多い噺家」とは主催者の弁。師匠の落語はどれも明るくて楽しい。それを身体全体を使って演じて見せるから、初めて落語を聴く人にも落語の面白さが伝わる。

▼噺の随所に施した工夫
 「まんじゅう怖い」など、その典型で、どこで切っても噺が収まるように、随所に工夫が施されている。この日は二つ目が2人出演したため、15分ばかり時間が押した(予定より延びた)として、「オメエ、ほんとは何が怖えんだ?」という、最後のやり取りまでたどり着かなかった。が、途中ながら、ピシッと綺麗に噺が着地。つくづく「上手いな」と思う。

 客をドンドン噺に引っ張り込んでいくものだから、初めて「まんじゅう怖い」を耳にした客は、これで完結したものだと思い込んでしまうに違いない。愉快な噺はまだまだ続くのだ。最後までタップリ聴きたい人は師匠の独演会に行くといい。

▼奥が深いから面白い
 あたしは、師匠の「まんじゅう怖い」を聴くのはこれで3回目。だが、何度聴いても面白い。落語を習う身としては毎回、新たな発見があり、教わることがある。「ああ、あそこは、あんな風に言うのか」(言葉の表現)や、「セリフとセリフの隙間の呼吸」(話の間)などである。

 こういうことはDVDやCDを聴いただけでは絶対伝わらない、分からない。落語はナマで聴かないと勉強にはならない。回を重ねるごとに少しづつではあるが、落語が分かりかけてくる。落語は奥が深い。だから、やっていて面白い。この楽しさは聴くだけではわからない。実際に自分で演じてみて、初めて分かるものだ。

▼引き出しの多い噺家
 師匠は他にもう一席、「家見舞い」を披露した。別名を「肥瓶(こいがめ)」という。二つ目、春風亭昇々の「転失気」を受ける形で、このネタを高座にかけた。噺家は高座に上がって、その時、演じるネタを考えるというが、今回はまさにそれだ。持ちネタが少ない人は、臨機応変な対応など不可能だ。平治師匠のことを「引き出しの多い噺家」と言うのは、どのような場面でも対応できることを指している。

 客席のあたしに気付いた師匠は一席終えた後、「遠いところをわざわざ」と声をかけてくれた。細やかな気配りのある師匠である。

 さっそく、この日、教わった個所を修正して、「まんじゅう怖い」を人前で話せるよう仕上げたいと考えている。充実した1日だった。

落語界にひと波乱?(落語2―84)

2012-01-26 19:14:44 | 日記
▼寄席離れに危機感
 「今のままじゃあ、寄席にお客来ない」―。26日の朝日新聞夕刊・文化面の見出しである。客の入りが悪い落語芸術協会(芸協)と立川流、圓楽一門会が合体してはどうか、というのだ。実現すれば、落語協会(落協)を凌ぐ最大勢力になるが、そう簡単にコトは運ばない。(敬称略)

 問題提起したのは東京新宿の定席・末広亭。昨年12月28日の芸協納めの会で、席亭の真山由光が「(3団体が)一緒になってほしい」と要請。「重く受け止めたい」と芸協副会長の三遊亭小遊三が言ったとか。

▼立川流と圓楽一門会
 東京の落語の定席は、末広亭のほか、浅草演芸ホール、上野・鈴本演芸場、池袋演芸場がある。このうち鈴本を除く定席には、落協と芸協が10日ずつ交互に出演。ところが、芸協は落語家の数、人気で落協にまだ一歩、及ばない。

 もともと立川流、圓楽一門会は落協に所属していたが、ゆえあって脱退。師匠の圓生に従い落協を抜けた五代目三遊亭圓楽は一門会を結成。談志は立川流を名乗り、家元となった。落協、席亭からすれば2派は“反逆児”ということで、定席から締め出した。創設者は2人とも既に没しており、この先の行方は定まっていない。

▼人気噺家の取り込み
 そんな中で持ち上がったのが合体話。立川流には、当代人気NO1の志の輔をはじめ、志らく、談春ら人気、実力ともに備えた噺家が少なくない。一方、圓楽一門会には鳳楽ほか、テレビ「笑点」レギュラーの六代目圓楽、好楽など顔が知られた面々がいる。

 志の輔が末広亭に上がるとなれば、冗談抜きに、前夜から長蛇の列が出来よう。何しろ1カ月以上にわたって、ホール落語の独演会が満席になるというのだから、尋常ではない。定席はこうした人気を取り込もうというわけである。

▼出番奪われると反発
 合体話は円楽一門会が、芸協に「提携したい」と持ちかけたのがきっかけだ。芸協会長の桂歌丸や、副会長の小遊三は、圓楽らとはテレビ繋がりの「笑点」仲間。気心が知れている。特に歌丸は、先代圓楽から「後のことは頼む」と託されたこともあり、責任感から一門会の芸協への合体話を積極的に後押しする。

 ところが、芸協の中堅、若手は強く反発。この話は沙汰やみになっていた。高座の主任(トリ)を務めるような面々が続々加わると、自分の出番が奪われることになりかねないからだ。

▼席亭と噺家せめぎ合い
 中堅噺家の一人は、心境を素直に語った。「私たちは協会で、見習いから前座、二つ目と10年、15年勤めあげてやっと、真打になった。さあ、これからという時に、いきなり脇から飛び込んで来て、いいところだけさらおうってなあ、納得できない」。

 営業に力点を置く席亭と、噺家のせめぎ合いは、当分続く見込みだ


席亭は落語好きの医師(落語2―83)

2012-01-22 23:51:37 | 日記
▼澱みない語り口
 ひょんなことから誘われて、社会人落研の落語会に顔を出した。地図を頼りに向かった先は、東京都心の、とあるビル。出演者は全員素人だが、演じている演目は、「火事息子」や「柳田格之進」など。いずれも玄人が、独演会で高座にかける一席30分以上の、長めの噺ばかり。澱みのない語りに聴き入った。

 午後3時の開演だが、場所の確認に手間取り、少し遅れた。3階建てビルの地下に寄席を特設。25、6人がパイプ椅子に腰かけ、熱演に耳を傾けていた。空調はコートを脱いで、丁度いい塩梅に温度設定してあった。仲入りには、お茶と和菓子がふるまわれた。

▼毎月1回の落語会
 終演後に出演者と客の懇親会が開かれた。1つの小さなテーブルを、10人ばかりで囲み、缶ビールで乾杯。つまみはピーナッツ、チーズ、枝豆だ。席亭は医師で、このビルのオーナー。落語好きが集まって毎月1回、この場所で落語会を開催しているそうだ。席亭は毎回、演目を変えて出演している。

 社会人落研と名乗っているのは、学生時代の落研仲間ということではなく、普段からここに集まり稽古している同好の士、ということだそうだ。医師つながりで、同業者が2人聴きに来ていた。「この人は国際線のスチュワーデス」と、席亭が紹介した女性は患者の1人だという。

▼「クセになりそう」
 私の横に腰かけた方は、この日初めて訪れたと言うが、「実に愉快だ。落語ってすごいですね。いや、面白い」と、すっかり周囲に溶け込み、和んでいた。この方は自然食関係のNPOの理事長で、目の前に住んでいる、と話していた。

 興に乗った客の2人の医師は、席亭から着物と羽織を着せてもらい、高座に上がって、それぞれ自己紹介。「私は内科医ですが、いつも○○はイナイカ、と言われています」とダジャレを一節。降りてきて「気分がいいですね。クセになりそう」とご満悦だった。

 

ご贔屓さまに支えられ(落語2―82)

2012-01-22 01:06:31 | 日記
▼いただいた「にほひ袋」
 着物や帯、扇子などを入れた衣装バッグを開けた途端、かぐわしい香りが漂った。風雅な香りの出どころは、浅草での落語会でご贔屓さまからいただいた「にほひ袋」(匂い袋)。落語を聴きに来て頂けるだけで十分なのに、手拭い、扇子など毎回、品を選んでご持参。細やかな心配りに感謝するだけである。

 これまでにご贔屓さまから帯など、いろんなものを贈って頂いたが、「にほひ袋」は今回が初めて。「にほひ袋」というのは鳩居堂の呼称だそうで、「衣装に直接触れぬよう」との添え書きがあった。衣類が変色する恐れがあるのだそうだ。

▼正倉院に匂いルーツ
 それにしても結構な香りである。気持ちまで芳香として安らぐ。どこかで嗅いだことのある香りだ、と思ったら、わが菩提寺で正月に、新春を祝う法要が催された。その席で漂った香りに似ている。

 「掛香」と言って、柱などに匂い袋をつるして、寺社の催事や茶会などの席で香りを楽しむのだそうだ。わが寺も、正月の特別行事ということで、「掛香」を施したのかも知れない。そう言えば、匂い袋のルーツである「裛衣香(えびこう)」が、奈良の正倉院に保存されている、という話を聞いたことがある。

▼伝統文化の良さ、奥深さ
 匂い袋は香りを楽しむだけでなく、防虫効果もあるようで、箪笥の隅に置くだけでOKだそうだ。近ごろは「タンスにゴン」などという便利なものがあるが、ゴンでは風情がない。日本の伝統文化の良さ、奥深さを知った思いがする。

 ところで、文七迷人会の定期公演では毎回、ご贔屓さまから食べ物や生ビールなどの差し入れをいただき恐縮している。こうした多くのご贔屓さまに支えられて、公演が継続できていることを肝に銘じている。重ねて感謝。


思い出に残る落語会(落語2―81)

2012-01-20 22:59:34 | 日記
▼足指が痛くなるほど冷たい
 「初雪や二の字二の字の下駄の跡」―。1カ月以上にわたり乾燥注意報が出ていた東京に20日、初雪が舞った。そんな中、埼玉県新座市で、被災者向けの「新座ほのぼの落語会」を開いた。ジャンパーの上にダウンコートを羽織って出かけたが、背筋がゾクゾクした。(敬称略)

 寒いと起きづらい。あと10分、5分、と自分に言い訳をし、ズルをして寝床で暖をとる。それでも落語会ということで、午前10時前にウチを出た。外はみぞれ交じりの冷たい雨。足指が痛くなるほど冷たい。我慢できず、駅に向かう途中のスーパーで、靴用の小型カイロを買った。

▼赤い和紙の上に座布団
 高層マンションが並ぶ駅前に近づくと、強いビル風が歩行者を襲う。傘をさしていても、膝から下が濡れて冷たい。私鉄とJRを乗り継いで埼玉へ。ホームに降りた途端、辺りはほんのりと雪景色。

 会場の公務員住宅・集会場は私たちが一番乗り。入り口に落語会のポスターを貼り、高座づくりを開始。ぼて助が簡易机3脚を紐で結び固定させる。赤い毛氈がないので、赤い和紙を机に張りつけ、その上に座布団を敷く。立派?な高座の完成である。

▼玄関で人の気配が
 あたしと万福が納戸から椅子を運び出し、高座の前に並べる。持参したラジカセから出囃子が響いた。用意した「めくり」をピンでとめる。準備はすべて整った。ただ、この天候だから、避難している被災者の皆さんも、ひょっとすると聴きに来ないのでは、と危惧した。

 万福の「誰も来なかったらどうする」に、「仕方ないよ」とぼて助。「やめて帰るか」とあたしが言うと、万福が「せっかくだから3人でお稽古しよう」。そんな心配をしながら、別室で着替えに取りかかった。

 玄関で人の気配がした。40代後半の女性が聴きに来てくれた。「一番いい席を用意して待っていました」と案内。開演の午後1時前には客が次々とやって来た。安どした。

▼被災者に福を運ぶ
 3人で「時そば」「宿屋の富」「転失気」「初天神」、それに「寄り合い酒」の5席を披露した。この日のお客は、岩手の被災者が1人、あとは全員、福島からの被災者だった。午後2時55分、お開きを迎えた。気づかないうちに2時間が過ぎた。

 最後のあいさつで、「昨年は大変な年でしたが、今年はきっといい年となります。今日は福を運んできました。ご覧ください。ここに万福が来ております」とエールを送ると、笑顔の輪が広がった。

▼思い出に残る落語会
 皆さん楽しんでくれたようで、帰り際に「わざわざ遠いところから、有難うございました」と、口々に労いの言葉をかけて下さった。お礼を言わなければいけないのはこちらの方で、寒い中をよく来ていただいた、と感謝している。

 客は全部で10人と、ささやかな落語会だったが、通じるものがあった。温もりのあるいい会だ。「新座ほのぼの落語会」は、思い出に残る落語会だった。