扇子と手拭い

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

はじめての経験

2013-06-29 23:22:04 | 日記
▼秋葉神社で奉納落語
 JRの快速電車を降りた途端、街角から鉦(かね)や太鼓のにぎやかなお囃子が聞えた。ビルの谷間を山車が練り歩く。山車の周りには、そろいの法被の氏子たち。今から、あたくしが落語を奉納する神社の人たちだろう。夏祭りはこれからが本番だ。

 奉納落語のきっかけは、落語の「牛ほめ」に登場する秋葉神社。火伏の神様だが、実際に、同じ名前の秋葉神社が存在していることが分かった。「これも神様が引き合わせてくださった”ご縁”」と、神社に掛け合った。約4か月にわたる交渉の末、目出度く?開催する運びとなった。

▼落語の前にお祓い
 落語会は、例祭を翌日に控えた29日午後と決定。落語の後はお神楽が披露された。奉納落語は初めてのため、神社には早めにうかがうことにした。開演1時間半前に到着。「落語に先立ってお祓いを受けていただきます」と神社側。指示に従い神前に玉ぐしを捧げた。

 神楽殿は、あたくしの背丈ほどの高さ。だから、いつものような高座の台はいらない。そこに座布団を敷き噺を始めた。胸元の衿には神社が用意したワイヤレス・マイクを付けた。これだと境内の隅まで声が届く。当然、開口一番は「牛ほめ」である。客席の後方には宮司をはじめ、神社関係者が並んで聴いている。

▼穴が隠れて火の用心
 噺はこうだ。新築した家の台所の柱に、大きな節穴があり途方に暮れる叔父。そこへ訪ねてきた与太郎が、「叔父さん、あの穴だったら心配いらないよ。場所が台所だから、秋葉神社のお札を貼ってご覧。穴が隠れて火の用心になるよ」と思いもよらないアドバイス。

 喜ぶ叔父から小遣いをせしめた与太郎。この噺はどこでも受けるが、「ホンモノの秋葉神社ではどうか」と思ったが、観客はニコニコ笑ってくれた。2席目は、これまた笑いが多い「手紙無筆」を披露。

▼いいところで「ご不要の」
 正座のままで30分以上経過しているので少々、足がしびれた。「一度立たせていただきます」と客に断り、立ち上がる。これだけでも随分違う。気を取り直して3席目。咄嗟に頭に浮かんだのが「宿屋の富」だった。「最後は景気のいい噺で終わらせよう」と考えた。

 江戸は湯島天神の富くじで千両当る噺だが、湯島天神を秋葉神社と置き換えた。だが、肝心のところで近くを通りかかった廃品回収業者の車が、「ご家庭でご不要の・・・」とスピーカーでがなり立てる。

▼1時間20分の独演会
 客の戸惑いが高座に伝わる。負けじ、とこちらも一段と声を張り上げたが、音程の狂った曲のように調子が外れだした。スピーカーの声はまだ続く。「いつまでやってんだ」とカリッと来たが、そんな様子は客には見せられない。聞こえないふりをして噺を続行。そのうちスピーカーの音が消えた。

 たっぷり1時間20分、ほとんど座りっ放しの独演会。全身から汗がふき出した。

別の女を連れて行く

2013-06-21 01:32:37 | 日記
▼雨の中・・・ただ感謝
 天気予報は「曇り」と言っていたのに、雨だった。梅雨だから仕方がないが、それでも一縷の望みを託して「雨だけは勘弁してくれ」と、祈る気持ちで迎えた20日の落語会。客の入りが気になったが、足元の悪い中、たくさんの方がいつも通り顔を見せて下さった。ただ感謝である。

 浅草に早く着いたので顔なじみの呉服店をのぞいた。鶸萌黄(ひわもえぎ)の細い縦縞が気に入り、羽織ってみた。ピッタリの寸法だ。買った。現役のころ、ネクタイを買う時あたくしはいつも、「いい」と直感したものを買う。あれこれ迷った挙句に買った品は、ろくでもないものが多いからである。今回も同様に「これだ」と感じたので購入した。

▼旅先で知り合った客
 この夜は2席やるので演目に合わせて着物を2枚持参したが、2席目の「宮戸川」には鶸萌黄の着物の方が合うと思い、試すことにした。開演まで1時間以上も間があったが、既に10人近い客が来ていた。

 着替えようとして雪駄を忘れたことに気付いた。着物姿にスニーカーは不釣り合いだ。急いで雨の中を雪駄を買いに駆けた。旅先で知り合った方が何人も来てくださった。この夜、トリをとる予定のAが「先に帰るご贔屓さまがいるので出番を代わってほしい」とあたくしに言った。

▼会場は大変な熱気
 その間にも客が続々訪れ、会場は大変な熱気。席亭に頼んでエアコンの温度を下げてもらった。落語会はAの「のっぺらぼう」で幕を開けた。次いで、Bが「幇間腹」を、あたくしが「手紙無筆」で続いた。前半の最後はCが「金明竹」で締めた。

 仲入りの後は、Aが「桃太郎」でご機嫌をうかがった。次に、手話落語のDが「犬の目」を披露。最後にあたくしが艶笑落語の「宮戸川」をぶつけた。2時間30分の落語会は、盛会のうちにお開きとなった。

▼別の女を連れて行く
 今回の落語会には“番外編”があった。朝方、携帯電話が鳴った。「サクランボ狩りでご一緒したYです。今日は別の女を連れて行きますので、旅行の話は一切しないでください」。面食らったがすぐ、「承知いたしました」と返答した。

 このダンナは1泊2日の道中、バスの中でも並んで座り、彼女と手を握り合うなどずっとラブラブ。サクランボ畑では、ダンナが実を獲って彼女に食べさせていた。若い恋人たちもびっくりのアツアツぶりだった。ダンナは75をとっくに過ぎている感じで、女性はそれより少なくとも20歳以上若い様子だった。

 電話をいただくまでは、旅に同行したあの女性が来るとばかり思っていた。それにしても、達者なものだ、とつくづく感心した。世間は広い。

ビックリ仰天ツアー

2013-06-19 20:48:07 | 日記
▼仰天の格安ツアー
 こんな値段で採算が合うのか?と心配したくなるほどの旅だった。何しろ1泊2日の2食付で旅行代が1万円ポッキリ。そこにサクランボ狩りと松島、山寺の観光付きときた。あまりの安さに、当初は半信半疑だったが、参加してビックリ仰天。

 バスは午前7時20分、東京・練馬区役所前をスタートした。日本三景の松島では焼ガキを食べた。「2000円で45分、食べ放題」と誘うが、昼食後でもあり3個500円の皿を注文。すぐそばのテーブルで、中年夫婦がカキ飯を食べながら焼カキの山に挑んでいた。愛知県から車で来たという2人は、16日間の予定で東北を巡っているそうだ。

▼旅の目的は落語会
 蔵王の温泉は、私好みの白濁の硫黄泉。露天風呂こそなかったが、大浴場はゆったりとしていて十分寛げた。6階建ての洒落たホテル。隅々まで清掃が行き届いていて快適だった。もとは防衛庁の施設だったものを6年前に格安で譲りうけたそうだ。道理で作りがしっかりしていると思った。

 落語仲間が同行した目的の一つは夜の落語会。フロント係の中年女性は「1階の喫茶コーナーを使ってください」と言ったが、落語会の案内放送を頼むと「出来ない」。では、チラシを書くのでマジックペンを貸してほしいと言うと断られた。

▼カラオケと落語の違い
 「客がいなくては、落語会は成立しない」と説明したが、よく分からない様子。「バスの中でマイクを握ってやってください」??? カラオケで歌うのではない。「落語」が分かってないようなので中止した。扇子に手拭い、着物、帯、白足袋まで持参した彼に申し訳ないが、事情を説明して了解してもらった。

 彼女が悪いのではない。いきなり話を持ちかけた当方に責任がある。破格のツアーにもかかわらず、ホテルの対応は良く、朝刊は無料サービス。部屋は広くて眺めも抜群。大きなガラス窓の向こうには雨に濡れた緑の樹林が広がっていた。

 どう考えたって安すぎる。まことに得難いツアーだった。帰りのバスの中で落語仲間は、「また、こんなツアーがあれば教えて」と言った。あれば、あたくしが行きたいよ。

テレビの代役、落語会

2013-06-13 23:28:27 | 日記
▼夕食後の落語会
 「部屋のテレビは映りません」―。落語会は、ホテルのこのひと言から始まった。標高1000㍍の会津高原。周りには娯楽施設など何もない。宿泊客は「夕食後の時間をどうしよう」と思案顔。そんな中での落語会は格好のイベントだったようで、たいそう喜んでくれた。

 ホテルに着いた途端、客たちは「テレビがダメ」と言われ困惑。何でも映りの悪い衛星放送の関連工事をしているそうで、我慢するしかない。部屋のキーを受け取ったその場でフロントに、「落語会を開いてはどうか」と掛け合った。当初は怪訝な顔でこちらを見ていたが、「出演料、木戸銭ともタダ」と分かると、「よろしくお願い致します」とホテル側。

▼座布団2枚重ねの高座
 会場は2階のティーラウンジと決まった。一番目立つ場所に落語会開催のお知らせを掲示してくれるよう頼み、ひとまず部屋に入った。ホテル側の対応は早かった。レストランの入り口に「午後8時から落語会開催。観覧は無料です」とのチラシが貼ってあった。チラシはエレベーターの内側にもあった。わずか30分足らずの間によく頑張ってくれた。

 景気づけのCD出囃子が響く中、ゆかたがけの夫婦や親子連れが早々とやって来た。開演10分前に館内アナウンスを流してもらう。「時間です」。ラジカセの操作を担当してくれた友の声に促されて登壇。テーブルの上に座布団を2枚重ねた高座に上がった。1枚だと2つ並べたテーブルの縁が盛り上がっていて足が痛い。開口一番は「手紙無筆」。一旦高座を降りてひと口、水を飲み再度登壇。今度は「蛙茶番」でご機嫌をうかがった。

▼落語の後のビールの味
 おばちゃんたちの「明日もやって」のリクエストに気をよくして、2日目の夜も開いた。与太郎さんが登場する「牛ほめ」と、千両富の噺「宿屋の富」をかけた。本当は今月20日の文七迷人会で公演する「宮戸川」をやりたかったがまだ、「落語が腹に入ってない」。自信がなかったので、この夜は引込めた。

 下着も、宿のゆかたも、汗で濡れた。落語は全身を使って演じるので冬でもけっこう汗をかく。3時間前に浸かった温泉にもう一度、首まで体を沈めた。湯上りに500円玉を入れると、自動販売機の「ゴトン」の音といっしょに缶ビールが落ちた。落語の後のビールの味は格別だ。

******************************************************
(編注) テレビは午後6時前に工事を終え復旧しましたが、たくさんの方が面白がって落語を聴きに来てくれました。