扇子と手拭い

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4月29日は右朝の命日

2015-04-28 13:42:02 | 落語
▼うちょう」って誰だ
 落語の友との飲み会で、しきりに「うちょう」の名が飛び交った。「胃腸」なら知っているが、「うちょう」は知らない。後で、古今亭右朝のことだと教わった。とにかく凄い噺家だったそうだ。「アンタの波長に合うから聴いてごらん」と言われ、音源を捜して聴いた。

 彼の「片棒」を聴いて驚いた。天下の名人、志ん朝でさえ23分かけた噺を、わずか12分足らずで見事にまとめ上げていた。噺は、ケチで知られ、一代で身代を築いた赤螺屋吝兵衛(あかにしや・けちべえ)が、3人の息子の誰に継がせるか品定めに、「おとっつあんが死んだら、どんな葬式をするか」と聞く。

▼通夜は二晩、お車代に3万円
 長男は、「これだけの身代だから、みっともない葬式は出せない」と言って、築地の本願寺か芝の増上寺を借り切って、坊主50人を集め、通夜は二晩やると言う。酒肴のほか、お持ち帰りは輪島の本塗り三段重ねの重箱。そこに一流の料理人の手による料理を詰める。お車代として1人3万円入りの封筒をつけたらどうだと提案。黙って聞いていた親父は、「そんな葬式なら、こっちが行きたいよ。 出てけ」と怒る。

 「おらー、とっつあんの葬式は色っぽくやりてー」と2男。白黒の葬式幕は陰気臭くていけねえ。隣近所に紅白の幕を張り巡らせて、鳶の頭連中による木遣りと芸者衆の手古舞で練り歩く。景気付けに神輿が続く。その後にソロバンを持った勘定高いとっつあんのカラクリ人形が登場するという塩梅だ、と2男が言った。「お前も、とっとと出てけー」。

▼棺桶代わりに菜漬けの樽
 これを脇で聴いていた3男。棺桶の代わりに物置にある菜漬けの樽を使うと言い出した。これに親父は大喜び。樽は荒縄を掛けて天秤棒で担ぐ。「先棒はオレが担ぐが、後の片棒は人を雇ってくれ」と頼むと、親父が「心配するな。片棒はあたしが担いでやる」。

 「片棒」は古典落語の名作で、あたしもいつかやりたいなと思っている噺だ。でも素人がやるとなると25分以上はかかる。これだけ長いと客が聴いてくれない。噺がだれるからだ。短くならないものかと思っていた矢先に、右朝の「片棒」に出会った。

▼古今亭右朝という噺家
 12分足らずの噺の中に「くすぐり」という笑いどころがちゃんと入っている。3兄弟の性格の違いもはっきり分かる。それに声がいい。よく通る。右朝は上手い。あたしは志ん朝“信者”だが、ひょっとすると、右朝は師匠の志ん朝より上手いのではないか、と思った。

 そんな話しを落語の友人に話したところ、「お見事。右朝は、プロになる前から知られていた。学生ですごく上手いのがいると評判だった。噺家になってからは、志ん朝を超えてるんじゃないか、と言われた男だよ」と教えてくれた。

▼4月29日は右朝の命日
 志ん朝が自分の跡継ぎは右朝しかいないと可愛がっていたそうだ。だから右朝が52歳で癌に侵され、亡くなった時、一番がっくりきたのが志ん朝だった。まさか自分より早く逝くとは考えてもみなかった。志ん朝は愛弟子の突然の死に落胆した。

 あす、4月29日は右朝の命日だ。14年前のこの日、彼は彼岸に旅立った。同じ年の10月1日に後を追うように志ん朝が亡くなった。享年63歳。一度でいいから2人の名人落語を聴いてみたかった。  合掌。

1 コメント

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Unknown ()
2015-04-28 22:08:34
名人に合掌。
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