扇子と手拭い

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湯の里で客が高座の落語会

2012-09-30 22:30:06 | 日記
▼何気ない気遣い
 初めて訪ねた山陰の旅は愉快だった。玉造温泉3泊4日の旅。日中は周辺の観光を楽しみ、夜は泊り客に江戸落語を披露した。山陰地方は昔から北陸同様に、「弁当忘れても、傘忘れるな」というほど雨が多いと聞かされていたが、4日間とも好天に恵まれた。

 ツアーだから、宿についてはあまり期待していなかった。が、着いてビックリ、うれしい誤算。到着後、ロビーで寛いでいると「お疲れさまでした」のあいさつと一緒に、和菓子を添えて抹茶が出た。こうした何気ない気遣いが旅の者にはうれしい。案内された部屋は十二畳敷きで、床の間には季節の生花が一輪。

▼落語にめくりは付き物
 二階の窓から見下ろすと、手入れの行き届いた小ぶりの中庭が目に入る。雨上がりの樹木の緑が輝いている。池には錦鯉が数匹。多分、こんな温泉宿に夏目漱石や森鴎外らの文人墨客が長逗留し小説でも書いたのでは、と勝手な思いを巡らせ、いにしえ(昔)を偲んだ。安らぐ宿。窓のそばの椅子に腰掛けて、ぼんやりしているだけで癒された。

 ところで肝心?の出前寄席。宿では毎夜、客による餅つきがあり、出来上がった餅は善哉や黄粉餅として振る舞われた。落語会はこの後だから、開演は午後9時とかなり遅いが、初日にしては、客の出足はまずまずだった。

 驚いたのは2日目の晩である。景気づけにCDの出囃子を流していたところ、泊り客が「落語にめくりは付き物。あれがないと雰囲気が出ない」と言って、「今から作りなさいよ」と要求。あたしも重々、承知していたが、宿で出前寄席が出来るかどうかも分からなかったので持参しなかった。

▼突然、飛び出た開会の辞
 客が善哉を食べている脇で急きょ、めくり作りに取り掛かる。フロントでマジックとA4の紙3枚をもらい、セロテープでつないで書き出した。じっと見守っていた先ほどのダンナが、「演目表もあった方がいい」と追加の催促。開演の時間が迫っている。弱ったな、と思ったが、リクエストには応えなくてはならない。がんばって書き終えた。

 2日目の夜は用意した席がすべて埋まったほか、立ち見まで出る盛況ぶり。いよいよ開演となった時、例のダンナが高座のマイクを握りしゃべり出した。ビックリした。「こちらの2人は皆さんと同じ客です。今から落語をやります。ひとつ、大いに笑ってやってください」と開会の辞を述べた。別に、あたしたちが頼んだわけではない。ハプニングである。これで客席がワッと沸いた。ありがたい助っ人さんだ。

▼湯の里で客が高座の落語会
 次の朝、露天風呂に浸かっていたら、「昨日はお疲れさん」と背中から声が飛んだ。見ると、あのダンナである。何でも現在は神戸に住んでいるが、生まれは東京だそうで、江戸落語が大好きだという。御ん年72歳。「あれから、一句ひねった」と言うので、「ぜひ聞かせてくださいましな」と頼むと、「湯の里で 客が高座の落語会」と披露。差配も達者だが誠に粋なダンナだ。

 出前寄席、最終日はイス席を増やしたにもかかわらず、前夜にも増しての大入り満員。餅つき会場の一番目立つ場所に「餅つきの後、ラウンジで落語会開催」と張り紙したのが効いたようだ。あたしは連日2席づつ、三日で計6席、演目を変え公演した。一緒に行った落語仲間は4席、高座にかけた。2人で10席。有難いことには毎夜、聴きに来てくれた泊り客がいた。

▼縁結びの宿「紺家」
 宿の皆さんがとても親切で、協力的で高座、客席の設営から後片付けまですべてやってくれた。連泊と言うことで部屋は毎日、清掃。浴衣も日替わりで取り換えてくれた。ツアー客にこれだけのサービスをしてくれる宿はそうそうない。宿の名は玉造温泉・出雲神々縁結びの宿「紺家」である。いろんな方と、いい縁を結んでくれた宿だった。

「紺家」のHP
http://www.yutei-konya.jp/

大名跡の襲名披露

2012-09-10 00:27:02 | 日記
▼終始、華やいだ雰囲気
 桂平治改め十一代桂文治の襲名披露パーティーが9日、東京・日比谷の東京会館で開かれた。江戸、上方両方の「桂の宗家」という、落語界屈指の大名跡の襲名である。会場は終始、笑いの渦。華やいだ雰囲気に包まれた。(敬称略)

 この種のパーティーは立食だろうと思っていたが、念のため事務局に問い合わせたところ、フランス料理のフルコースだという。ラフな格好で行くわけにはいかない。だが、外は9月だというのに真夏の暑さ。太陽がジリジリ照りつけている。半そでシャツ姿で自宅を出た。会館にたどり着いたところで、指定の更衣室でスーツに着替えた。

▼招待客で長蛇の列
 パーティーの大会場、ローズルームに通じる廊下は早くから招待客で長蛇の列。会場の入り口では金屏風を背に十一代目を真ん中に、右手に桂一門が並び、左手に落語芸術協会の会長、副会長らが勢ぞろいして来客を迎えた。十一代目は笑顔を絶やさず、訪れた客の一人一人に丁寧に頭を下げた。


 午前11時の開宴時には、広い会場の円卓はどこも人で埋まった。招待状を持った客のほかに、直前になって「どうしても列席したい」という人たちがいたようで、後部席では8人掛けのテーブルに急きょ、イスを追加し席をこしらえるなどで、文字通り立錐の余地もないほどの盛況ぶり。

 「桃」のテーブルには花伝亭の落語仲間2人が同席、他に5人。すぐそばの円卓には三遊亭小遊三、昔昔亭桃太郎、瀧川鯉昇らの師匠連が席を占めた。

▼祝い幕と色とりどりの幟
 会場の正面壁には桂文治浅草後援会など贔屓筋から贈られた祝い幕が並び、天井からは色とりどりの真新しい幟が吊り下げられた。こうした襲名を祝う飾り付けが、会場の雰囲気を一層盛り上げた。

 来賓、協会関係者のあいさつの後、威勢のいい掛け声とともに、こもかぶりの鏡割り。一同で乾杯。「祝 十一代桂文治 襲名披露」と刻印した升酒を一気に飲み干した。「それではお手を拝借」の声に合わせて景気よく三本締め。縁起物の獅子舞など余興が続いた。

▼持つべきはいい先輩
 なかでも人目を引いたのは十一代目と同郷の柳亭市馬(落語協会副会長)。十一代桂文治の襲名を織り込んだ歌と得意ののどで盛り上げ、会場を沸かせた。一番、二番を歌い「ありがとうございました」と言うので、終わったかなと、十一代目がお礼を言おうとステージに上がったところで、突然、曲がかかり、市馬が三番を歌いだす。

 続きがあるのかと十一代目が降壇。これをユーモアたっぷりに四番、五番と繰り返した。これには並み居る噺家たちも、呆気に取られて大爆笑。郷里の弟分のパーティーを盛り上げようとする市馬の思いが伝わった。いやー、わが師匠はいい先輩を持ったものだ。