▼ヨセキの件ですね
○○さんから留守番電話があり、かけたところ、若い女性が出てきて「ああ、ヨセキの件ですね。○○は今、席を外していますが」ときた。「え、何です?」とあたくし。「18日のヨセキの」で、分かった。出前寄席の件だ。彼女は寄席を「ヨセキ」と言ったのである。
ヨセキと読めないこともないが、ヨセと言って、落語を・・・と簡単に説明して納得してもらった。落語がブームだといっても、認知度はこの程度だ。そんなわけで、今回は寄席について考えてみたい。
▼寄席が大事なわけ
噺家にとって寄席は切っても切れない場所である。新宿末広亭など定席は、1ヵ月を上席、中席、下席と10日ごとに分け、落語協会と落語芸術協会(芸協)所属の落語家が交互に出演する。出演料は、その日の客の入りと出演者の数で決まる。これを「割り」と言って1人が手にする「割り」は数千円。
別の場所で独演会などを開けば数十万、人によっては100万単位の日銭が入る。稼ぎだけを考えたら、そっちでやった方がいいが、噺家は寄席を大事にする。ちゃんとした理由があるのである。
▼必ず目を通すネタ帳
寄席に足を運ぶ常連客は落語通が多く、耳が肥えている。だから手抜きが出来ない。厳しい客の視線にさらされると勉強になるという。1日に昼席、夜席合わせて30-40人が出演する。つまらないと思うと、居眠りをしたり、中には、わざとスポーツ紙を広げたりする客がいる。
楽屋には「ネタ(根多)帳」がある。昔、大店で使った大福帳のような横長の台紙に、前座がその都度、筆で出演した噺家と演目を書く。出番が近づいてくると、だれがどんな噺をしたか「ネタ帳」に必ず目を通す。
▼寄席は噺家の修業場
同じ演目は当然、同じジャンルのネタが先に出ていたら避ける。例えば、与太郎噺や廓噺を誰か先に高座にかかったら、泥棒噺や長屋噺など別のジャンルの中から演目を選ばないといけない。寄席の高座に上がる前日に、噺家は10近くの演目を「さらう」のはこのためだ。「さらう」というのは予習をする、稽古をするということである。
これでお分かりのように、寄席は噺家が腕を磨く修業の場なのである。だから、給金は雀の涙程度でも、高座に上がりたがるのである。これに対し、ホール落語は特定の落語家がお目当ての客が集まる。収入にはなるが、あまり修業の場にはならない。噺家は独演会で稼いで、寄席で修業する。この兼ね合いが難しい。
▼寄席の権限は席亭に
寄席の出演者はどう決まるか。決めるのは新宿末広亭、池袋演芸場、浅草演芸場、それに上野鈴本演芸場の4定席の席亭だ。「席亭」とは寄席の経営者。寄席の出演者を決めることを「顔付け」といって、席亭のほか支配人、各協会の事務員らが集まる。
来月の上席が芸協の番だとすると、所属する噺家、マジックや漫才などの色ものの芸人全員の名前を書いた木札が並ぶ。その中から誰をトリにするか最初に決め、仲入りのすぐ後に出る「くいつき」は誰かなどを順々に決める。
▼噺家は同席できない
協会の事務員が「この人はしばらく出ていないので、お願いします」と言っても、席亭が「こいつは客が呼べない」と思ったら、「うちはいらない」と札が外される。「顔付け」には、例え協会会長と言えども噺家は同席できず、口をはさむことが出来ない仕組みになっている。
噺家と寄席。今宵はこんなところでお開きとしましょう。
○○さんから留守番電話があり、かけたところ、若い女性が出てきて「ああ、ヨセキの件ですね。○○は今、席を外していますが」ときた。「え、何です?」とあたくし。「18日のヨセキの」で、分かった。出前寄席の件だ。彼女は寄席を「ヨセキ」と言ったのである。
ヨセキと読めないこともないが、ヨセと言って、落語を・・・と簡単に説明して納得してもらった。落語がブームだといっても、認知度はこの程度だ。そんなわけで、今回は寄席について考えてみたい。
▼寄席が大事なわけ
噺家にとって寄席は切っても切れない場所である。新宿末広亭など定席は、1ヵ月を上席、中席、下席と10日ごとに分け、落語協会と落語芸術協会(芸協)所属の落語家が交互に出演する。出演料は、その日の客の入りと出演者の数で決まる。これを「割り」と言って1人が手にする「割り」は数千円。
別の場所で独演会などを開けば数十万、人によっては100万単位の日銭が入る。稼ぎだけを考えたら、そっちでやった方がいいが、噺家は寄席を大事にする。ちゃんとした理由があるのである。
▼必ず目を通すネタ帳
寄席に足を運ぶ常連客は落語通が多く、耳が肥えている。だから手抜きが出来ない。厳しい客の視線にさらされると勉強になるという。1日に昼席、夜席合わせて30-40人が出演する。つまらないと思うと、居眠りをしたり、中には、わざとスポーツ紙を広げたりする客がいる。
楽屋には「ネタ(根多)帳」がある。昔、大店で使った大福帳のような横長の台紙に、前座がその都度、筆で出演した噺家と演目を書く。出番が近づいてくると、だれがどんな噺をしたか「ネタ帳」に必ず目を通す。
▼寄席は噺家の修業場
同じ演目は当然、同じジャンルのネタが先に出ていたら避ける。例えば、与太郎噺や廓噺を誰か先に高座にかかったら、泥棒噺や長屋噺など別のジャンルの中から演目を選ばないといけない。寄席の高座に上がる前日に、噺家は10近くの演目を「さらう」のはこのためだ。「さらう」というのは予習をする、稽古をするということである。
これでお分かりのように、寄席は噺家が腕を磨く修業の場なのである。だから、給金は雀の涙程度でも、高座に上がりたがるのである。これに対し、ホール落語は特定の落語家がお目当ての客が集まる。収入にはなるが、あまり修業の場にはならない。噺家は独演会で稼いで、寄席で修業する。この兼ね合いが難しい。
▼寄席の権限は席亭に
寄席の出演者はどう決まるか。決めるのは新宿末広亭、池袋演芸場、浅草演芸場、それに上野鈴本演芸場の4定席の席亭だ。「席亭」とは寄席の経営者。寄席の出演者を決めることを「顔付け」といって、席亭のほか支配人、各協会の事務員らが集まる。
来月の上席が芸協の番だとすると、所属する噺家、マジックや漫才などの色ものの芸人全員の名前を書いた木札が並ぶ。その中から誰をトリにするか最初に決め、仲入りのすぐ後に出る「くいつき」は誰かなどを順々に決める。
▼噺家は同席できない
協会の事務員が「この人はしばらく出ていないので、お願いします」と言っても、席亭が「こいつは客が呼べない」と思ったら、「うちはいらない」と札が外される。「顔付け」には、例え協会会長と言えども噺家は同席できず、口をはさむことが出来ない仕組みになっている。
噺家と寄席。今宵はこんなところでお開きとしましょう。