▼目の下に隈を作って
「病気か?顔色が悪いよ」と2年ぶりに再会した落語仲間が開口一番、私に言った。このところの寝不足が、表情に出てたらしい。節目の「文七迷人会」を前に、これまでになく稽古を重ねた。が、18日夜の落語の出来は、自己採点で30点がいいところ。目の下に隈を作って頑張ったが、満足のいく噺にはほど遠かった。
第10回文七迷人会で、当初は「宮戸川」をかける予定だったが、他の出演者が同じジャンルの艶笑落語をやるというので急きょ、「大工調べ」と差し替えた。この噺は、4年前に落語を習い始めたころ、好きになり、訳も分からないままかじった。後で、腕の立つプロがやる落語と知った。
▼まずは手本を忠実に
しかし、他にやる噺がない。この文七迷人会は出来るだけ、ここにかけたことがない落語をやろうと仲間で話し合った。言い出しっぺとしては、後に引けない。その結果が「大工調べ」となった。そうとなれば、泣き言は言っておれない。公演の日が近づいている。春風亭柳好師と、古今亭志ん朝師の2本の音源「大工調べ」を何度も聴き直して、ノートに書き写した。
世阿弥の言葉に「守破離」がある。まずは手本を忠実に真似る、そっから始めろと言う教えだ。両師匠の噺に真剣に耳を傾け、抑揚、喋りの間、声の大きさなどを聞き漏らさないようにした。「上手いなー」と感心しながら、繰り返し聴き直す。そして真似るわけだが、吹き込んだ自分の声を聴き直すと、ちっとも面白くない。
▼どう演じる粋で鯔背な棟梁
この噺は、江戸っ子の代表、大工の棟梁が主人公。粋で鯔背(いなせ)な棟梁を、どう演じるかが大事なポイント。あと一つのポイントは、剛突く大家に堪忍袋の緒が切れた棟梁が「何ぬかしゃーがるベラボウめ」と、威勢よく啖呵を切るくだりだ。ここでとちったら、噺はオジャンだ。とにかく難しい。覚えるだけで精一杯で、とても仕草までは届かない。
限られた期間内で、まず、噺を覚えることだ。開演までの約10日間はほぼ毎日、午前2時、3時まで稽古した。もちろん昼間は眠くて寝るが、横になっても気になって、じきに起きてしまう。そんなわけで、寝不足になった。こんなに真剣に落語の稽古をしたのは初めて。そして迎えた18日、動揺する気持ちを抑えて高座に上がった。話終えた後、不出来を詫び、捲土重来を期することを約束して高座を降りた。
▼お辞儀したら問答無用
後で落語仲間の一人から厳しくお灸をすえられた。「話し終えて、お辞儀をしてから客に詫びる落語家をはじめて見た。一端、お辞儀をしたら言い訳なし。黙って高座から降りる」。さらに、高座に上がったら、他の人が口を挟むことは禁じられている。話し出したら例え、師匠と言えども、終わるまで割ってはいてはいけない。弟子が高座でしくじっても、その間、師匠が助け舟を出すのはご法度だという。これが高座の基本だと言われた。
彼は落語歴が私よりずっと長く、この世界のルールをよく知っている。他意はなかったが、私はルール違反を犯したわけだ。いい勉強になった。
「病気か?顔色が悪いよ」と2年ぶりに再会した落語仲間が開口一番、私に言った。このところの寝不足が、表情に出てたらしい。節目の「文七迷人会」を前に、これまでになく稽古を重ねた。が、18日夜の落語の出来は、自己採点で30点がいいところ。目の下に隈を作って頑張ったが、満足のいく噺にはほど遠かった。
第10回文七迷人会で、当初は「宮戸川」をかける予定だったが、他の出演者が同じジャンルの艶笑落語をやるというので急きょ、「大工調べ」と差し替えた。この噺は、4年前に落語を習い始めたころ、好きになり、訳も分からないままかじった。後で、腕の立つプロがやる落語と知った。
▼まずは手本を忠実に
しかし、他にやる噺がない。この文七迷人会は出来るだけ、ここにかけたことがない落語をやろうと仲間で話し合った。言い出しっぺとしては、後に引けない。その結果が「大工調べ」となった。そうとなれば、泣き言は言っておれない。公演の日が近づいている。春風亭柳好師と、古今亭志ん朝師の2本の音源「大工調べ」を何度も聴き直して、ノートに書き写した。
世阿弥の言葉に「守破離」がある。まずは手本を忠実に真似る、そっから始めろと言う教えだ。両師匠の噺に真剣に耳を傾け、抑揚、喋りの間、声の大きさなどを聞き漏らさないようにした。「上手いなー」と感心しながら、繰り返し聴き直す。そして真似るわけだが、吹き込んだ自分の声を聴き直すと、ちっとも面白くない。
▼どう演じる粋で鯔背な棟梁
この噺は、江戸っ子の代表、大工の棟梁が主人公。粋で鯔背(いなせ)な棟梁を、どう演じるかが大事なポイント。あと一つのポイントは、剛突く大家に堪忍袋の緒が切れた棟梁が「何ぬかしゃーがるベラボウめ」と、威勢よく啖呵を切るくだりだ。ここでとちったら、噺はオジャンだ。とにかく難しい。覚えるだけで精一杯で、とても仕草までは届かない。
限られた期間内で、まず、噺を覚えることだ。開演までの約10日間はほぼ毎日、午前2時、3時まで稽古した。もちろん昼間は眠くて寝るが、横になっても気になって、じきに起きてしまう。そんなわけで、寝不足になった。こんなに真剣に落語の稽古をしたのは初めて。そして迎えた18日、動揺する気持ちを抑えて高座に上がった。話終えた後、不出来を詫び、捲土重来を期することを約束して高座を降りた。
▼お辞儀したら問答無用
後で落語仲間の一人から厳しくお灸をすえられた。「話し終えて、お辞儀をしてから客に詫びる落語家をはじめて見た。一端、お辞儀をしたら言い訳なし。黙って高座から降りる」。さらに、高座に上がったら、他の人が口を挟むことは禁じられている。話し出したら例え、師匠と言えども、終わるまで割ってはいてはいけない。弟子が高座でしくじっても、その間、師匠が助け舟を出すのはご法度だという。これが高座の基本だと言われた。
彼は落語歴が私よりずっと長く、この世界のルールをよく知っている。他意はなかったが、私はルール違反を犯したわけだ。いい勉強になった。