扇子と手拭い

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本物の良さ、楽しさ(落語2―54)

2011-08-27 23:49:35 | 日記
▼充実のひと時
 いつもながら赤鳥寄席は大変な人気である。「桂平治おさらい会」と銘打ったこの落語会は、師匠がふだん、寄席や独演会であまり、やらない噺を披露してくれる。その上、演じた落語の解説、楽屋話まで聞ける、というので私にとっては充実のひと時である。

 平治師匠は「町内の若い衆」「蛇含草」「船徳」の3席をたっぷり語った。「町内の若い衆」は艶笑落語。戦時中は禁演落語に指定され、公演できなかったという噺。ここで紹介するのもなんだから、興味のある向きは寄席に足を運んで下さいましな。

▼「蛇含草」が「そば清」に
 「蛇含草」は、元は上方落語。餅を食べ過ぎた男が「蛇含草が消化に効く」と聞き、試したところ、効き過ぎて男が溶けて無くなり、餅が甚兵衛を羽織って座っていたという噺。江戸落語では「そば清」と名前を変え餅の代わりにそばが登場する。

 ご存じ、「船徳」は、船宿に居候している若旦那が主人公の大ネタ。こういう居候を、二階に厄介になっているので「じゅっかいの身」という、とマクラで笑いを誘った。放蕩の限りを尽くした若旦那が船頭になって繰り広げるハチャメチャな様子を身振り手振りを交えて大熱演。

▼夏にやる噺じゃあない
 「この噺は夏にやるもんじゃあない」と師匠。またここで、ドッと爆笑が湧き起こったが、演じる師匠は汗だく。何度も手拭いで額の汗をぬぐっていた。寄席では持ち時間の制限があり、古典落語の名作も大幅カットを強いられる。この日は全編通しで、40分以上にわたって「船徳」を熱演。観客は大喜びだ。

 落語家は高座に上がって一席落語を伺うが、噺が終わった後に中身についていちいち、説明してくれる人はまずいない。このあたりにも、落語という伝統芸能を大事に思う平治師匠の姿勢がうかがわれる。赤鳥寄席の人気の秘密がここにある。

▼若手育成に情熱注ぐ
 師匠は春風亭昇太の弟子の春風亭昇々が前座時代、可愛がって赤鳥寄席にたびたび出演させた。私も最初に落語を聴いた時、「この若手は芽を出しそうだ」と直感した。華がある、というのだろうか。期待に応え、昇々は回を重ねるたびに噺も上手くなり、腕を上げていった。二つ目になった現在は、若手の売れっ子に成長した。

▼赤鳥寄席は欠かせない教室
 昇々に代わり、この日は桂翔丸が前座を務めたが、高座から降りた翔丸は平治師匠の公演中、一言も聞き漏らすまいと耳をそばだてていた。「志ん朝師匠をはじめいろんな先輩噺家から稽古をつけてもらい、さまざまな逸話を伺った。今となってはそれが私の財産だ」と平治師匠はよくそう言った。

 そんな思いからか、師匠は自分の直弟子は持たないが、若手の指導には人一倍熱心だ。どの師匠の弟子であれ、これと見込んだ若手を育てようという心意気がみてとれる。素人ながら同じ落語を学ぶ者として、赤鳥寄席は欠かせない教室である。