ほんとに「おバカ!」。
*台風19号「立ち小便で〈増水の手助け〉」「濁流の多摩川で水泳」バカッター続出の愚
この非常時にあって、ネット上のSNSが果たした役割は大きい。たとえば、ツイッターにはハッシュタグという機能がある。スマホで「#荒川」などと検索すれば、そのエリアに関連する投稿が表示され、災害情報が得られる。水嵩が増した川の画像を見て、避難に動いた方もいただろう。
けれど、中には首を傾げたくなる投稿が目に入る。ある若い男性はといえば、洪水寸前の川へ立ち小便をする様子をツイッターに投稿。コメントには〈増水の手助けしてきた〉と書く始末なのである。
加えて、死者まで出た多摩川では、水着姿で濁流に挑み泳ぐ男の姿がSNSで話題を集めた。
街場に目を転じても、人っ子一人いない渋谷スクランブル交差点では、嵐の中で上半身裸の男がポーズを決める姿が投稿されている。筋肉自慢のこの男。何でもテレビ中継に映り込むことを企てて、その様子を動画サイトに投稿していたのだ。
他にも、強風雨でびしょ濡れになりながら水着姿で踊り狂う若い女性や、土砂降りの街路を半裸で逆立ち歩きする者まで現れたのである。いずれも濁流に巻き込まれたり突風に煽られた飛来物が直撃すれば、命を落としかねない。
斯様(かよう)な無軌道な投稿を行う者たちは「バカッター」と呼ばれる。昨年にも、飲食店などで悪ふざけをする店員の「バカ動画」が拡散して大炎上。社会問題となったことは記憶に新しい。
「注目されたい」
「台風で突飛な行動をすることは、ネットが世に広まった当初からあることです」と振り返るのは、SNS事情に詳しいITジャーナリストの井上トシユキ氏。
「90年代後半、誰もが気軽に画像をアップロードできるようになると、大雨に吹かれながら駅の階段の手すりを滑り台のように滑る様子や、プロ野球選手を真似て河原の水たまりにヘッドスライディングする姿を投稿することが流行りました。承認欲求を満たしたい若者はとにかく注目されたい。“いいね”をたくさん貰いたいという心理です」。
そんな井上氏も、今回のような命の危険を伴う「バカッター」は、初めて目にしたとしてこう続ける。
「私自身、かつて日本水泳連盟の指導員の資格を持っっていたので、濁流の恐怖をよく知っています。川の中には渦巻く波があって足をとられたら最後。川底に引きずり込まれていく。これらの投稿を真似て、同様の危険を冒す子供たちが出かねません。ネット投稿は前例を踏まえて過激化する傾向がありますから、もっと考えて行動して欲しい」。
死と隣り合わせの状況だからこそ、愚行を犯さずにはいられない。そんな人間存在の不可解さが、台風によって炙り出された。
「週刊新潮」2019年10月24日号 掲載