三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「死刑囚表現展」のアンケートと平野啓一郎『死刑について』(7)

2024年03月02日 | 死刑
⑦ 加害者の更生

被害者は加害者の更生への努力をどう考えるでしょうか。
加害者が更生するということも、被害者の側にとって本当によいことなのかは、単純には言えないことだと思います。
このように平野啓一郎さんは『死刑について』で語っていますが、加害者の更生を考える遺族もいます。

入江杏「刑事司法と被害者遺族」に、犯罪を犯した人に被害者の経験を伝える人権の翼のメンバーである小森美登里さんと中谷加代子さんの言葉が引用されています。
中谷さんは「(加害者も)幸せになっていい」、小森さんは加害者を「責める」ことなく、常に「寄り添う」、と言う。どうしてそんなことができるのか、なぜ、そんな道を選んだのか、と思う人も多いだろう。

小森美登里さんの長女は高校1年生の時にいじめを受けて自ら命を絶ちました。
死を選ぶ4日前の香澄さんの言葉は、「優しい心が一番大切だよ。その心を持っていない(いじめている)あの子たちの方がかわいそうなんだ。

中谷加代子さんは刑務所や少年院で話をしています。
入江杏さんは中谷加代子さんの話を聞いた感想を書いています。
私は、中谷さんが受刑者の人に語りかける言葉を聞く機会を得た。中谷さんの真摯な姿に感銘を受けた。「事件はなぜ起きたのか。環境や生い立ちがあなたを追い詰めたのかもしれません。」、「苦しかったですね。」、「皆、弱いんだから」。中谷さんが声をかけると、俯き、涙ぐむ受刑者もいた。更生を願わずにはいられなくなるのだ。

中谷加代子さん。
初めて美祢社会復帰促進センターに行ったときは、お話しすることで精一杯でした。現在ほど加害者寄りの感情を持っていたわけではありません。実際に行ってみると、目の前の受刑者は、『どこにでもいそうな』、『普通の人』でした。
矯正教育の末端に参加させてもらって、幸せに蓋をして、それでも生きなくてはならない人がいることを知って、やっぱり、この人たちにきちんと生きてほしいと思いました。(略)
目の前の受刑者に、生き直してほしい。幸せを感じてほしい。100%加害者、100%被害者はいない。人間ってみんな弱いものだし、加害者・被害者と今の立場は違うけど、いつ反対になるかわからない。違わないとこもいっぱいある、と思っています。

中谷加代子さんへの入江杏さんの質問
厳罰・応報、死刑存置へと向かう御遺族がおいでなのに、なぜ、かよちゃんが、『自己肯定感を持ち、自分の人生を主体的に生きることが、本物の反省・心からの謝罪に繋がっていく。』と思い至っていくのか?お聞かせください。

中谷加代子さんの返事
もし、私が加害者だったら、『どうしたら反省や謝罪に至れるか』。私なら、温かい言葉をかけてもらったとき、ゆるしてもらったとき、初めて、相手のことを考える余裕が生まれると思いました。反省する気があっても、強要されたり、責め続けられていたら、心は反省から遠のいて、ひいては自暴自棄になるかも。逆効果だと思う。
私なら、反省できるような状態においてほしいし、教育も受けたいです。『自分が加害者なら』と考えられたら、きっと理解してもらえると思うけど、相手を憎んでいるときは、『自分なら』と考えるのが難しいんでしょうね。

アンケートに「処刑されたら罪をつぐなえなくなる」という感想がありました。
償いについて中谷加代子さんはこう書いています。
奪ってしまった命を償うことは、自分の命を犠牲にしてもできません。償うことができるとしたら、それは、加害者がその後の人生をどう生きるのか、加害者の人生の中にこそ「償い」があると、私は思います。罪を償いたいと思う加害者には、残りの人生を無駄に生きるのではなく、充実して生きてほしいと思います。
https://www.crimeinfo.jp/wp-content/uploads/2018/09/07.pdf
加害者の更生は償いにつながるように思いました。

宮下洋一さんは欧米の人と日本人との違いを言います。
結局、日本人は、欧米人のそれとは異なる正義や道徳の中で暮らしていることになる。だからこそ、西側先進国の流れに合わせて、死刑を廃止することは、たとえ政治的に実現不可能ではなくとも、日本人にとっての正義を根底から揺るがすことになりかねない。
人を殺した人間を死刑にすることが日本人にとっての正義だということでしょうか。

過ちを犯した人間は死をもって償うべきだという価値観について、平野啓一郎さんは反論します。
この価値観においては、死なずに生き続けていることは無責任であり、罪を自覚していない、社会に対して本気で謝罪していないことと受け止められます。

死んでお詫びをするという言葉がありますが、中谷加代子さんの娘さんを殺した加害者は自殺しています。
自殺することがお詫びになるでしょうか。
遺族はそれで気が休まるのでしょうか。
死をもって償うのではなく、どう生きるかが償いにつながるという中谷加代子さんの考えはもっともだと思います。
反省は更生につながらないと意味がありません。
コメント
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