さよなら、オレンジ

2013-11-11 14:56:58 | 日記

岩城けい著   筑摩書房刊

キーワードは、「私は自分で自分の出入り口をつくらなくっちゃなりません」という言葉に尽きるだろう。本書はアフリカを後にした女性と、日本を後にした女性の、オーストラリア語(敢えて、言うが)を習得するまでの物語である。彼女達の身になって考えるまでもなく、我が身に置き換えても、その困難さは解る。自分の住処、アイデンティティと言い換えてもいいが、それを得るための、その必死さはよく分かる。
問題は、「思考するベースまでが、習得した第二言語になれるか?」ということであろう。おそらく、自分の論理を組み立てる時には、母語で組み立ててから、習得した第二言語に翻訳するだろう(私ならば、そうする)。その過程のもどかしさは、痛いほど分かる。
話は飛ぶが、最近の低学年の児童に対する早期英語教育である。母語・日本語をマスターしないうちに英語教育をして、何を期待しているのだろうか? 私には理解できない。結果として、どっち付かずの人格をつくってしまう危険はないのか。
未熟な英語の演説で世界の失笑をかった、最近の首相がいたのは記憶に新しい。英語圏の人々にも、夫々の民族に特有のアイデンティティがある。今の英語教育でそこまで習得できるとは、とても思えない。
本書は深か読みすれば、そうした問題を提起していると思うが……どうだろうか?