「本」に恋して

2013-11-03 15:18:32 | 日記

松田哲夫著   新潮社刊

誰でもが面白いと思える本ではない。しかし、編集者や本作りに興味のある人達には恰好の本。装丁から製本、函、紙、インキまで、本作りの基本が書かれている。
それはともかくとして、無我夢中で奔り廻っていた若かりし時を思い出してしまった。私は著者とほぼ同時期に編集稼業に入った。つまり、本書に書かれた本作りの工程は一応知っているし、何工程かは実際に経験している。唯、決定的に違うのは背負っている看板の格の違いである。著者は大手出版社、私は中小出版の末席の会社だった。別に、卑下しているわけではない。私の場合は、編集者になった途端、現場に放り込まれた。予備知識なしである。これは少人数で出版点数を稼がなければならない小出版社の宿命で、言い換えれば急いで一人前?に育てなければならない事情による。
多分、そのお蔭で例えば紙屋では希望通りの紙は手に入らないけれど、値段との折り合いで沢山の紙から選択しなければならない、という経験もした(それが、大当たりだったことも稀にはあった)。勿論、布引きの表紙も作ったし、箔押しの本も作った(金型がとてつもなく高くて、採算を取るために著者引取りの交渉などという厄介な局面もあった)。
逆に、大手の社員だからこそ経験された工程もある。例えば、紙を抄く工程は見ていない。現場に入らせて貰えなかった。まして、束見本を自分で作るなんて体験は望んでも出来なかった(束見本、大好きだったのに)。羨ましい。
その替わり、継ぎ表紙(モロッコ皮の継ぎ表紙で、あの皮を20数枚に剥ぐ職人の作業に立ち会ったことも)、天金張りの辞典とかも作った。何でも作る、制作部もない小出版社の役得である。
それにしても、著者が指摘するように上製本というか、装丁の美しい本がなくなったのは淋しい。
最後に、イラスト担当の内澤旬子さんの緻密なイラスト、いつもながら素晴らしい(実は、ファンです)。自身が装丁家なので、要領を得ている。遠くから、拍手です。

 


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