将軍家康の女影武者

2019-07-21 14:26:25 | 日記

近衛龍春著   新潮社刊

徳川家康の影武者をテーマにしたのでは、隆敬一郎の『影武者徳川家康』という傑作があるが、本書はその女性版である。
主人公は実在した家康の側室である。側室中ただひとり小石川伝通院の徳川家墓所に葬られていることからも見ても、その真実性が分かろうというものである。意外性もあって早速読んだという次第。
ただ、残念なのは主人公の背景の書き込みが不十分なため、どの程度影武者としての実力があったのかよく分からない。同じ意味で彼女の手足となる伊賀者や彼女の一族の存在も唐突すぎて、不自然である。
彼女が実際に戦場に参陣したのは関ヶ原、大坂冬の陣、夏の陣の三度である。いわば家康の総仕上げの戦である。面白のは、家康がこの戦は「戦の無い世をキ築く為」と言うのにたい対して、彼女が「その為にこれほどの人が殺されねばならないのか」と事あるごとに責め立てるところであろう。戦の矛盾である。もっとも彼女はそれでも影武者を務めるのだが……。もう少し書き込んでくれたら読み応えがあったのに、残念である。


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