歌舞伎 家と血と藝

2013-08-30 15:20:49 | 日記

中川右介著   講談社現代新書

本書の「戦国武将列伝の歌舞伎役者伝を描くつもり」という着眼点はいい。同じ「はじめに」でさらに「本書は家と血と藝の継承を描く」とも言っている。但し、読後感から言うとこれが成功しているのは同著者の『坂東玉三郎(幻冬舎新書)』だろう。本書では「藝」の部分は希薄で「家と血と財力」に力点が置かれている。
歌舞伎の世界の特異さは、家という垣根を超えて藝を伝承し革新していくところにある。言ってみれば家や血ではなく歌舞伎全体を継承しようとする本能がある。ここが戦国武将と豁然とするところではないか? 
つまり、著者の「はじめに」から抜けている部分があると言ったのはこの点である。歌舞伎の世界はなるほど家と血が大きな比重を占めているが、太い縦糸は「藝」と家と血の相克にある。確かに、途絶えた「藝」はある。しかし、様々な手段(ビデオや口伝、聞き書きなど)を通して復活させる努力もしているのである。
もっと厚みのある本を期待していたので、肩透かしを食ったような読後感を持ってしまった、