総特集 森 茉莉(増補版)

2013-08-20 08:58:43 | 日記

KAWADE夢ムク  河出書房新社刊

正直言うと、森茉莉の小説は一冊も読んでいない。代わりにエッセイは大分読んだと記憶している。つまり、私にとっては森茉莉は一番対極にいる作家であって、作品についてとやかく言う資格はないのだが。
ひとつだけ、印象に残っていることがある。著者が言う「贅沢」である。因みに、サブタイトルは「天使の贅沢貧乏」である。本書にも取り上げられている三島由紀夫も、その贅沢を知っている人だと思うけれど、両者には微妙な違いがあるように思う。端的に言えば、森茉莉はそれを意識していなかったのに対し、三島の場合にはそれを充分意識していた、と言うか「それを知らない人々に教えたい」という気持が強かった。そのため、言葉を捜し、言葉を弄し、これでもかこれでもかと執拗に書いている。
食べ物にせよ酒にせよ、あるいは身近な家具や絵画・小道具にしても、言葉が先行し観念的になっている。と言うか、執拗すぎて鬱陶しい。一方、森茉莉は読者が分かろうと分かるまいとまるで気にしていない。
とは言え、森茉莉が稀有な作家でであることは確かである。「貧すれど鈍せず」という俚諺や、「襤褸は着てても心は錦」といった、歌謡曲の一節を思い出す。