歳月なんてものは

2011-12-22 08:38:13 | 日記
久世光彦著  幻戯書房刊

タイトルがいい。如何にもこの人らしい。このタイトルから「月日は百代の過客にして、行き交う年も旅人也」(『奥の細道』松尾芭蕉)を連想したのは私だけだろうか? 
本書はこれまで発表されていなかった、幻のエッセイ集。本書の前半は、自身が監督した折に起用した俳優の人物評。観る人と創る人の視線の違いに驚く。
後半は、生まれてから越し方に到る間に出会った人や本に関する想い出。書評や人物評ではない。出会い、その時の時代背景、何十年も経っても残っている想いが書かれている。
このエッセイで印象に残ったのは、今の人々は「貌」がないと指摘していることだった。「顔」ではない。少し説明が必要かもしれない。
彼は映画やドラマの題材を、大正から昭和初期の文学や随筆から選ぶことが多かった。そこで、俳優を起用しようとするのだが、それにぴったりの顔を持った俳優がなかなか見つからなかったというのである。つまり、その時代の空気、その主人公の生き様、雰囲気を出せる人が居なくなったということである。「顔」ではなく「貌」である所以である。
調子に乗って言わせて貰えれば、今の人たちの顔からはその人の人生、越し方が見えない。のっぺらぼう、だということ。なんとなく分かる気がする……