河北新報のいちばん長い日 -震災下の地元紙ー

2011-12-14 08:18:27 | 日記
河北新報社著  文藝春秋刊

本書は10月30日に初刷が出た。それから約1ヵ月で第3刷が出ているから、好評だったことが分かる。何故、今日まで読まなかったかというと、本書の内容は十分想像できたからだ。私も大同小異の経験をしているので、その修羅場と葛藤は分かっていたということもある。もうひとつは、半年ちょっとで出版されたことにある。どう考えても、まだ渦中の最中なのに……という気もしていたからだ。
詳しくは本文を読んで欲しい。最初の山場を過ぎたあたりで、メンバーの中に気構えとか心理的な面に揺らぎが出てくる。それを解消するために全社員に実名のアンケートを取ったところに、河北新報社の真骨頂がある。「こんな時にアンケートでもあるまい」という声が聞こえそうである。
しかし、これで自分ひとりの悩みではないんだという、社員同士の共感を持てたことに加え、それが上層部に編集方針の転換をさせることにも繋がった。これは容易にできることではない。それを可能にしたのが「震災下の地元紙」という義務感だった。
もうひとつ素晴らしいのは、河北新報社はいち早く当初からの報道記事の検証を始めたことである。しかも「この記事は誤報であった」と発表し、さらに、記事の中で中途半端だったものについては、追跡記事も発表した。
こうした事は、これから河北新報社を継いで行く若い人達の財産になるし、同社の未来を約束するものだろう。
最後に印象に残った一文を挙げる。避難情況を撮影すべく上空をヘリコプターで飛んだカメラマンの一言。「ごめんなさいね、ごめんなさいね、ごめんなさいね……僕たちは撮ることしかできない。助けてあげられないんだ……」。
「熱い本」である。