あるニヒリストの思考

日々の思いを綴る

ラグビーのワールドカップの盛り上がりについて(自我その234)

2019-10-21 17:36:36 | 思想
人間は、いつ、いかなる時でも、常に、ある構造体の中で、ある自我を持って暮らしている。構造体とは、人間の組織・集合体である。自我とは、ある構造体の中で、あるポジションを得て、それを自分だとして、行動するあり方である。人間は、自我を持って、初めて、人間となるのである。自我を持つとは、ある構造体の中で、あるポジションを得て、他者からそれが認められ、自らがそれに満足している状態である。それは、アイデンティティーが確立された状態である。しかし、人間は、意識して、自我を持つのでは無い。深層心理という無意識が自我を持つのである。だから、意識して自我を持とうとしても、その構造体になじめず、自我を持てないことは、誰しも起こりうることである。人間が最初に所属する構造体は、家族であり、最初の自我は、息子もしくは娘である。その後、保育園、幼稚園という構造体に所属して、園児という自我を持ち、小学校、中学校、高校という構造体に所属して、生徒という自我を持ち、会社という構造体に所属して、社員という自我を持ち、店という構造体に所属して、店員という自我を持つ。また、住んでいる地域によって、町という構造体に所属して、町民という自我を持ち、市という構造体に所属して、市民という店員を持ち、県という構造体に所属して、県民という自我を持ち、日本という構造体に所属して、日本人という自我を持つ。人間は、自我を持つと同時に、深層心理が、欲望を生み出す。それ以後、人間は、人間社会において、深層心理が生み出した欲望主体に生きる。それ故に、人間の欲望は、深層心理が生み出した自我の欲望なのである。自我の欲望には、他者に認められたい、他者を支配したい、他者と理解し合いたい・愛し合いたい・協力し合いたいという三種類のものがある。深層心理は自我を対他化することによって、他者に認められたいという欲望を生み出す。深層心理は他者を対自化することによって、他者を支配したいという欲望を生み出す。深層心理は自我を他者と共感化させることによって、他者と理解し合いたい・愛し合いたい・協力し合いたいという欲望を生み出す。さらに、深層心理は、自我が存続・発展するために、そして、構造体が存続・発展するために、自我の欲望を生み出す。それは、一つの自我が消滅すれば、新しい自我を獲得しなければならず、一つの構造体が消滅すれば、新しい構造体に所属しなければならないが、新しい自我の獲得にも新しい構造体の所属にも、何の保証も無く、不安だからである。自我あっての人間であり、自我なくして人間は存在できないのである。だから、人間にとって、構造体のために、自我が存在するのではない。自我のために、構造体が存在するのである。このように、深層心理は、構造体において、自我を主体にして、対自化・対他化・共感化のいずれかの機能を働かせて、思考し、感情と行動の指令という自我の欲望を生み出している。そして、自我が存続・発展するように、構造体が存続・発展するように、思考し、感情と行動の指令という自我の欲望を生み出し、自我を行動させようとするのである。フロイトは、「個人の心理と集団の心理は同じである。」と述べている。まさしく、人間は、深層心理が、自我が所属する構造体を主体にして、自我が所属する構造体を対他化して、自我が所属する構造体が他の構造体に認められたいという欲望を生み出し、他の構造体を対自化して、自我が所属する構造体が他の構造体を支配したいという欲望を生み出し、自我が所属する構造体を他の構造体と共感化させることによって、他の構造体と理解し合いたい・協力し合いたいという欲望を生み出すのである。さて、昨日の試合で、ラグビーのワールドカップで、日本チームが南アフリカ共和国チームに敗れたが、盛り上がりはすごかった。それは、日本人は、深層心理が、南アフリカ共和国チームを対自化して、日本チームが南アフリカ共和国チームに勝利してほしいという欲望を生み出したからである。そして、日本人は、深層心理が、日本チームを対他化して、日本チームが南アフリカ共和国チームに勝利することによって、日本が世界から認められたいという欲望を生み出したからである。つまり、日本人は、深層心理が、自我が所属する日本という構造体を主体にして、日本という構造体に所属する日本ラグビーチームという構造体を対自化して、日本という構造体に所属する日本ラグビーチームという構造体が南アフリカ共和国という構造体に所属する南アフリカラグビーチームという構造体に勝利してほしいという欲望を生み出し、日本という構造体に所属する日本ラグビーチームを対他化して、日本という構造体に所属する日本ラグビーチームが南アフリカ共和国という構造体に所属する南アフリカラグビーチームという構造体に勝利することによって、日本という構造体が世界から認められたいという欲望を生み出したからである。人間は、深層心理が、他者を対自化して、自我が他者を支配して喜びを見出すだけで無く、自我が所属する構造体が他の構造体を支配して喜びを見出し、自我が所属する構造体に所属するものが他の構造体に所属するものを支配して喜びを見出すのである。人間は、深層心理が、自我を対他化して、自我が他者に認められることによって喜びを見出すだけで無く、自我が所属する構造体や自我が所属する構造体に所属するものが他者に認められることによって喜びを見出すのである。だから、人間は、自我が所属している構造体の全てを愛している。もちろん、それは、自らの自我がそこに所属しているからである。つまり、自らが所属している構造体を愛するのは、自らの自我を愛しているからである。構造体愛は自我愛なのである。家族愛、郷土愛、愛校心、愛社精神、愛国心などはその現れである。日本人が、ワールドカップで、日本チームを愛し、応援するのは、愛国心からである。もちろん、それは、日本人という自我愛からである。しかし、愛国心は、国民が、国際大会で、自国チームや自国選手を愛し、応援することにとどまらない。近年、世界中で、ナショナリストが跳梁跋扈しているが、彼らの行動も愛国心から発しているのである。日本でも、「在日(在日韓国人・在日朝鮮人)は、日本から出て行け。」と叫び、挙句の果てには、「在日を殺せ。」とまで言う、ヘイトスピーチをする「在日特権を許さない市民の会」の集団もナショナリストである。ナショナリストは、一様に、「俺は日本を心の底から愛しているのだ。」とか「俺は日本のためなら命も惜しくない。」とか言う。ナショナリストの意味を、辞書で調べると、「ナショナリズムを信奉する人。」と出ている。そして、ナショナリズムの意味を調べると、「他国の圧力や干渉を排し、その国家・民族の統一・独立・発展をめざす思想または運動。民族主義。国家を至上の存在とみなし、個人を犠牲にしても国家の利益を尊重しようとする思想。国家主義。」と出ている。つまり、日本のナショナリストとは、日本という国家を至上の存在とみなし、他国の圧力や干渉を排し、日本という国家・日本人という民族の統一・独立・発展を目指し、個人を犠牲にしてでも、日本という国家の利益を尊重しようとする思想家なのである。簡潔に言うと、日本のナショナリストとは、日本のために命を懸ける人ということになる。そうすると、一見、ナショナリストとは、かっこいい人のように思える。また、本人たちもそう思っている節がある。しかし、決して、日本を心から愛し、日本のために命を懸けることまで考えているから、かっこいい訳ではない。なぜならば、ナショナリストと呼ばれる人だけしか、日本を愛しているわけではないからである。日本という国に所属している日本人という自我を持っている者は、皆、日本を愛しているのである。愛国心は、自我愛だからである。また、「日本のために命を懸ける。」と言う人は、戦争時を考えているからである。まず、戦争を起こさないことが大切なのである。また、敵国の人間と言うだけで、殺そうとすることほど愚かなことは無いのである。また、日本を愛することは、決して、素晴らしいことでは無い。しかし、ひどいことでもない。現代の、国という単位で区切られている国際社会において、日本人という自我を持ち、日本という構造体を愛することは普通のことだからである。他国民も、国民という自我を持ち、所属している国という構造体を愛しているのである。だから、日本人が、尖閣諸島、竹島、北方領土を愛しているように、中国人も尖閣諸島を愛し、韓国人も竹島を愛し、ロシア人も北方領土を愛しているのである。しかし、尖閣諸島、竹島、北方領土が有益だから愛しているのではない。自我が所属している国という構造体に所属していると思い込んでいるから愛するのである。だから、ナショナリストのように、「俺は日本を心の底から愛しているのだ。」とか「俺は日本のためなら命も惜しくない。」とか言って、突き進めば、日本は、尖閣諸島の領有権をめぐって中国と、竹島の領有権をめぐって韓国と、北方領土の領有権をめぐってロシアと戦争するしか無い。しかし、尖閣諸島と竹島は無人島である。全く、戦争する価値は無い。また、北方領土が日本に帰属すれば、日米安保条約・日米地位協定によって、アメリカが軍事基地を置くことができる。それがわかっているロシアは、みすみす、北方領土を、日本に渡すはずが無い。ナショナリストたちは、現在の国際情勢を見えず、相手国の人々の心情を考慮できない。自らの愛国心のみによって動かされている。言わば、男児である。自分の好きなおもちゃを買ってもらえないので、その陳列棚の前から離れず、泣き叫んでいる男児に似ている。その男児は、自分の欲望だけに動かされ、家の経済状況を考えることができない。また、子供は正直だとも言う。しかし、状況を考えず、自分の気持ちを正直に言い、行動することを許されるのは子供だけで、それは、大人には許されない。大人が、直情径行に行動すると、周囲に摩擦を生じ、日常生活をスムーズに送れなくなる。確かに、誰しも、普段、自らの言動を抑えて生活しているので、子供の正直さ、ナショナリストの直情径行に憧れる面もあるだろう。しかし、幼児の心情は社会生活の規範になりえない。単なる、一人よがりに過ぎない。幼児性を前面に押し出した生き方は社会性を破壊する。ナショナリストは社会性を破壊する。国内の社会性だけでなく、外国との社会性をも破壊する。もちろん、日本にだけ、ナショナリストが存在するわけではない。世界中、どの国にも、ナショナリストは存在する。それゆえに、彼らに引きずられて、世界中、戦争や紛争が絶えないのである。