おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

カルテット!人生のオペラハウス

2023-09-27 07:30:37 | 映画
「カルテット!人生のオペラハウス」 2012年 イギリス                             

監督 ダスティン・ホフマン                                    
出演 マギー・スミス トム・コートネイ ビリー・コノリー
   ポーリーン・コリンズ マイケル・ガンボン
   グウィネス・ジョーンズ シェリダン・スミス

ストーリー
引退した音楽家たちが暮らす〈ビーチャム・ハウス〉には、カルテットの仲間であるレジー(トム・コートネイ)、シシー(ポーリーン・コリンズ)、ウィルフ(ビリー・コノリー)が暮らしている。
そこへもう一人の仲間であるジーン(マギー・スミス)が新たにVIP待遇の入居者としてやってきた。
かつて世界中のオペラファンを虜にした、20世紀最大の歌姫だ。
だが彼女の出現に、元テノール歌手のレジー顔色を変え、「これで私の安らぎの時はなくなった」と悲鳴を上げる。
じつはジーンとレジーは元夫婦という浅からぬ関係。
どうやらジーンは、ビーチャム・ハウスに元夫がいることを承知で入居を決めたらしい。
一体どういうつもりなのか……。
ことの成り行きに気を揉むのは、ふたりの古くからの友人で、ホーム一番のいたずら者でもある元バリトン歌手のウィルフ。
一方最近はすっかり認知症の症状が進んでいる元メゾソプラノ歌手のシシーは、古い友人であるジーンとの再会に大喜びだ。
ホームでは運営資金を稼ぐコンサートの準備が進んでいる。
監督のシィドリック(マイケル・ガンボン)はジーン入居の話を聞くや、彼女とレジー、ウィルフ、シシーの4人で伝説のカルテット(四重唱)を再結成し、コンサートの目玉企画にしようとする。
しかし、ジーンは過去の栄光にすがり、今では人前では歌えない状態にあった。
かつて英国史上最高のカルテットと謳われながらも決裂した4人は、ホームを救うためにコンサートへと臨む……。


寸評
実にゆったりとした雰囲気で最後まで描かれて、それはあたかも人生を物語っているようでもあった。
時としてユーモアを交えながら、奇をてらう演出もなくオーソドックスな画面展開は、知らず知らずのうちに安心感を植え付けていたと思う。
元音楽家だけが入ることのできる人生の終末場所としてのゴージャスなホスピスが舞台で、庶民派の我々からすれば羨ましくもあり、嫉妬心すら湧いてくるような設定なのに、そんな不安を打ち消すだけの作品全体の安定感があった。

認知症が進行している者もおれば、救急車に運ばれる者もいる。
明日は我が身の入所者は彼等にいたわりを見せる。
死は誰にでも訪れるし、登場するのはその時期が近い事を知っている人たちだ。
しかし彼等は万膳とその時を待っているわけではない。
若い時と、自分が全盛だった時と同じように、気持ちだけはその時の誇りと活力を抱き続けているのだ。
この集団、この場所は、僕等にとって、これはある種のユートピアなのだと思う。

みんな現役を退いているに現役時代の上下関係がそのまま生きているらしいのが面白い。
スターはスター、監督は監督で、現役の時と同じ態度と言葉使いで接している。
周りの者たちもそれを受け入れている。
僕も学生時代のクラブの面々と3年に1度の割で1泊旅行のOB会を開催しているのだが、そこでは当時の役職のままの世界が存在していることを連想させた。
部長は部長、副部長は副部長、総務担当は総務らしくなって、いつの間にか先輩・後輩を含めた暗黙の組織体系が復活している。
それを嬉々として受け入れているかつての仲間たちがいるのだ。
じつに穏やかな空間で、この映画でも元舞台監督は引退した後も舞台監督として振る舞っているし、プリマドンナは引退後もプリマドンナとして皆の尊敬を勝ち得ている。
もしもこのようなホスピスが日本に存在したなら、皆で入所しようじゃないかと提案して見たい気になった。

そして人生の最後に、本当に愛した人に出会うことが出来て、このようになれたらいいなと思わされた。
その為には、年老いて二人とも独身で有る必要があるのだけれども・・・。
クレジットタイトル、エンドクレジット、冒頭のピアノを弾く女性の描き方などはいいなと感じた。
ダスティン・ホフマンは僕が高校生の頃に「卒業」で初めてみた役者さんだが、今回が初監督作品とのこと。
自分も歳をとったのだから、彼も同じだけ歳をとったことになるわけだが、なんだか人生と言うものを悟りきった聖人になったのだろうかと思わせた。