おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

王様と私

2023-09-16 08:09:21 | 映画
「王様と私」 1956年 アメリカ


監督 ウォルター・ラング
出演 ユル・ブリンナー デボラ・カー リタ・モレノ
   マーティン・ベンソン テリー・サウンダース

ストーリー
1862年、アンナ夫人は息子ルイズを連れてシャム王の王子や王女らの教師としてイギリスからシャムに渡る。
バンコックでは首相のクララホームの出迎え。
アンナは王が宿舎提供の約束を忘れていることを知り、直談判しようとする。
王はビルマ大公の貢物、美姫タプティムを受け取ったところ。
早々アンナを後宮へ伴い正妃ティアンを始め数多くの王子、王女らを引合わせる。
アンナは王の子女の教育についてティアン妃の援助を受けることになり、タプティムは妃達に英語を教えることになる。
アンナはタプティムの恋人がビルマから彼女を連れてきた使者ラン・タと知り、何とか心遣いをしてやった。
アンナは王子、王女らの教育で“家”という言葉を教え、宿舎の提供を怠った王の耳に入れようとする。
次代の王、チュラロンコーン王子たちは、シャムは円い地球上の小国と聞き驚く。
王は授業参観に赴くが、タプティムが持つアンナから贈られた小説“アンクル・トムの小屋”に興味を持ち、アンナと奴隷制度について論じたが、首相は西洋の教育は王の頭を混乱させるとアンナを非難する。
自分が英人から野蛮人と考えられていると知った王は、保護国の資格を失うと考え、近く国情調査にくる英特使のもてなしをアンナに一任し、特使ジョン・ヘイ卿の歓迎晩餐会はヨーロッパ風の豪華なものとなった。
その夜、宴が成功裡に終ったことを祝い、王とアンナは二人だけでダンスを踊る。
その最中、タプティムは恋人と駈落ちする。
捕らえられたタプティムはアンナのとりなしでムチ刑を逃れるが、ラン・タは殺害されてしまう。
心を痛めたアンナは故国へ戻ろうとするが、船が出帆する日、王が死の床にあると知らせが入る。


寸評
ユル・ブリンナーは多くの作品に出演したスキンヘッドが強く印象に残る男優で、「荒野の七人」が記憶に残るが代表作は舞台を含めてこの「王様と私」だろう。
タイの王室が舞台だけにオリエンタルムードが漂うミュージカルとなっている。
第29回アカデミー賞において9部門にノミネートされ、ブリンナーの主演男優賞、ミュージカル映画音楽賞、録音賞、美術賞、衣装デザイン賞の5部門を受賞した作品だが、印象としては古いタイプのミュージカル映画と感じる。
家庭教師が古い因習にとらわれている王様と子供たちを持ち前のバイタリティで変えていくのは、例えば「サウンド・オブ・ミュージック」などと同じような図式である。
「サウンド・オブ・ミュージック」がセット撮影だけでなく外へ飛び出しているのに対し、こちらの「王様と私」はすべてセット撮影となっている(タプティムとルン・タが秘かに会っている庭の部分はロケかもしれない)。
舞台のミュージカルを単純に映画に焼き直したような印象を受けるのは、セットが舞台的であることによる。
僕は舞台のミュージカルを見ていないので何とも言えないが、ユル・ブリンナーの動きは舞台俳優的に感じる。
オリエンタルムードがこのミュージカルの特徴だと思うし、劇中劇として演じられる「アンクル・トムの小屋」がそのムードを一気に高めている。

僕の無知もあって、楽曲は知らないものばかりだが「シャル・ウィ・ダンス? (Shall We Dance?)」だけは馴染みの曲で、王様とアンナが踊って歌うその場面は一番楽しいシーンとなっている。
ドラがなってダンスが終わってしまうが、もう少し二人のダンスを見ていたかったという気にさせる。
クララホーム首相は大事な登場人物になりえたはずなのに、あまり存在感がなく歌い踊る場面もない。
彼は王様以上に封建的な人物で、冒頭でも船長が彼には気を付けた方が良いとも言っていたし、アンナが施す教育に対してもっと妨害するシーンがあっても良かったような気がする。
タプティムとルン・タの悲恋も「アンクル・トムの小屋」の上演の中で暗示されているが、結末としてはあっけない終わり方で、悲しい終わり方が伝わってはこない補足的なエピソードとなっている。
イギリスからやってきた元恋人のエドワードと王様が恋のさや当てをするような場面もあるが、アンナとエドワードはどのような別れ方をしたのか分からない。
ミュージカルのせいか、大雑把なストーリー展開のような気がする。

王様は病気になって死を迎えようとしている時に息子に譲位を言い渡す。
王様の地位を譲られたチュラーンロンコーン王子は奴隷制度および平伏の廃止を公布する。
それを見届けて王様は息を引き取るが、危篤状態にしては元気すぎないか。
臨終シーンにリアリティがないのも舞台劇を思わせてしまう一因だ。
アンナが大様に抱いていた気持ちは、愛だったのか、尊敬だったのか、僕はよく感じ取れなかった。
多分尊敬の気持ちだったのだろうが、愛情が芽生えていて他の夫人たちと軋轢を生んだ方が面白かったと思うが、そんなストーリーはこの作品には似合わない。
デボラ・カーにとっても「王様と私」は代表作になったと思う。