おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

狼の挽歌

2023-09-14 07:41:29 | 映画
「狼の挽歌」 1970年 イタリア


監督 セルジオ・ソリーマ
出演 チャールズ・ブロンソン ジル・アイアランド テリー・サヴァラス
   ミシェル・コンスタンタン ウンベルト・オルシーニ
   レイ・サウンダース ジョージ・サヴァラス

ストーリー
フロリダ南方の灼熱の島バハマ。
一匹狼の殺し屋ジェフは愛人バネッサとドライブ中、何者かに追跡されて町の一角に追いつめられた。
そして、その前に有名なレーサーの車が立ちふさがり、車から弾丸が発射され、ジェフの肩を打ち抜いた。
乱射戦となり、ジェフは三人を射ち殺す。
ジェフは殺人容疑で裁判ざたとなったが、弁護人スチーブの努力で正当防衛が認められ釈放された。
ニューオリンズに向った彼はレース場に赴き、例のレーサーの車がカーブにさしかかった時をねらってライフルの引き金を引き、車は火だるまとなって爆発した。
数日後のパーティで彼はバネッサと再会した。
車のレーサーと彼女は関係があり、ジェフの存在に嫉妬して殺そうとした事が分った。
翌日、マイアミに向う二人が空港に着いた時、事務員が一枚の封筒を渡した。
中には、あのレース場の薮の中でライフルを持っているジェフが写っていた。
誰が撮ったかを調べる彼の前にウェーバーの手下が現われ、彼の自宅へつれていった。
ウェーバーはジェフを仲間に加える為に写真を撮ったのだ。
またそこにはスチーブとウェーバーの妻になっていたバネッサがいた。


寸評
ノスタルジーを感じてしまう作りの殺し屋の映画である。
ブロンソンは当時コマーシャルに出ていて人気を博した俳優で、男くささが売り物だった。
彼が持っている魅力が引き出された作品だと思うが、中だるみ感があって出来栄えとしてはイマイチかな。
バネッサという女を巡る争いでもあり、この女があっち転び、こっち転びで金持ちを渡り歩いているしたたか女なのだが、ブロンソン夫人でもあったジル・アイアランドがどう見ても悪女には見えないのが欠点。
ジェフはバネッサを愛していたが、バネッサはジェフを裏切り、ジェフを襲ったレーサーのクーガンと逃げる。
ジェフの二人への復讐劇が発端だが、まだバネッサを諦めきっていないジェフの思いが交差して物語が進行する。
ライフル銃の組み立てなどのシーンはスタイリッシュなのだが、画面展開がまどろっこしくて緊迫感をそいでいる。
カーチェイスは当時としては水準の迫力を出しているが、見ていると車が走るシーンが多いことに気づいた。
スクリーンに映し出される車の疾走シーンを手短な見せ場としているような安っぽさを感じてしまった。
フランス映画ならまた別な描き方をしただろうが、イタリア映画らしいと言えばイタリア映画らしい描き方だ。

ジェフは冒頭でクーガン一味から追跡を受けるが、レーサーのクーガンがジェフを襲う動機が弱い。
後になってバネッサがクーガンと示し合わせていたことが分かるが、ジェフを殺す動機にしては軽くないか。
バネッサはジェフが服役中に弁護士のスチーブと出来ていたようだが、犯罪組織のボスであるウェーバーと結婚していることも後に判明する。
この辺の経緯が一切描かれていないので、スチーブが「バネッサは危ない女だ、彼女からも今の危険な稼業からも手を引け」とジェフに言うのもピンとこないものがある。
バネッサとスチーブにおける力関係の逆転も、もう少し上手く描けたような気がする。

ただセリフを少なくしてブロンソンの魅力を引き出そうとしていたことだけは分かったし、感じ取れた。
やはりラストシーンが一番の見どころだ。
外壁を登っていくエレベーターの窓ガラスをライフルが撃ち抜くのだが、個々での音声が窓ガラスを突き抜ける音だけというのがいい。
そして射殺されるのを悟ったバネッサが「苦しませないで」とつぶやくのも、その前に伏線が張られていたから効果的な演出だった。
アフリカから舞い戻ってきたジェフが目的を達し、放心状態で若い警官に射殺されるのもいい演出だったと思うが、そうであるならばもう少し工夫があっても良かったのではと思ってしまう。
意地を張り通し淋しく死んでいく男の哀愁をもっと描き出して欲しかった。

チャールズ・ブロンソンは出演作も多く、日本でも人気のあった俳優だが、僕は彼の出演作としては5本しか思いつかない。
1960年の「荒野の七人」、1963年の「大脱走」における準主役的出演作。
1968年の「さらば友よ」、1970年の「雨の訪問者」、そして本作である。
やはりブロンソンは寡黙な男が似合う俳優だったのだ。