おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

英国王 給仕人に乾杯!

2023-09-05 06:30:21 | 映画
「英国王 給仕人に乾杯!」 2006年      チェコ / スロヴァキア                   
             
監督 イジー・メンツェル                                          
出演 イヴァン・バルネフ オルドジフ・カイゼル ユリア・イェンチ
   マリアン・ラブダ マルチン・フバ ヨゼフ・アブルハム

ストーリー
ヤンの一生は、ビールとともに生きる給仕の人生だった。
青年の頃から、背丈は小さいが夢は大きかった。
いつの日か、百万長者になって、ホテルのオーナーになろう、と。

田舎町のホテル<黄金のプラハ>のレストランの見習い給仕からはじめて、富豪たちのお忍びの別荘ホテル<チホタ荘>でウェイターに、そしてプラハの超一流の<ホテル・パリ>でウェイターから主任給仕になった。
幸運には不運が、不運には幸運が、いつもドンデン返しで待っていた。
そうしたときにユダヤ系の行商人ヴァルデン氏が、いつもヤンの急場を救ってくれた。
ヴァルデン氏はヤンに“お前は小さな男、小さな国の人間、それがお前の血だ。それを忘れなければ人生は美しくなる!”とスモール・イズ・ビユーティフルの教えを説いた。
ヤンは美女にもめぐまれた。
田舎町では<楽園館>のヤルシュカに出会い、<チホタ荘>では女給仕人のヴァンダに、<ホテル・パリ>では謎の少女ユーリンカに魅せられた。

<ホテル・パリ>で給仕術の奥義を極めた名給仕長スクシーヴァネクと出会い、ヤンはめきめき腕をあげた。
しかし客の注文を一瞬で察知する給仕長の神技にはとても勝てない。
どうしてあなたはすべてお見通しなのか。給仕長はさらりと答える“私は英国王に給仕した人間だから”と。
ある年、エチオピア皇帝が来国されて正餐会を催される晴れの場に<ホテル・パリ>が選ばれた。
ヤンは気転をきかせて大活躍。
皇帝はいたくご満悦で、給仕団の長であるスクシーヴァネク給仕長が勲章を拝受する段になったが、一瞬の偶然で、皇帝は勲章をヤンに与えられた。

時代は、1918年の建国から30年代前半の古きよき時代を経て、やがて1938年、ヒトラーがズデーテン侵攻を強行し、英仏伊独によるミュンヘン会談の決定によってチェコスロヴァキア共和国が建国から20年で解体し、やがて第二次世界大戦に突入する暗雲の日々にむかう。
そんなさなかに、ヤンはリーザに出会う。
ズデーテンのドイツ人女性だ。
ヤンは自分よりも小柄なリーザに真剣な愛をささげる。
ナチスに事実上占領されたプラハ。
“英国王給仕人”の誇りも高く、ナチス将校への抵抗の姿勢をあらわにし続けるスクシーヴァネク給仕長はやがてゲシュタポに逮捕されて2度と戻らぬ身となる。
ヤンはさまざまな試練をくぐって、やがてリーザと晴れて結婚するが・・・。


寸評
人間万事塞翁が馬で、物事に一喜一憂などしてはいけないのだろうが、主人公はふとしたことで幸運を手に入れるが、それが原因で転職を余儀なくされていく。
行く先々ではなぜか女性が身近に現れ、なんとも羨ましく思える人生ではある。
女性は娼婦だったり慰安婦だったりするのだが、彼女たちが登場するシーンは全裸にもかかわらず欲情をかき乱すような不潔感はない。
いずれも大事な部分が花やフルーツで覆われていることもあるが、カメラワークや描き方が昨今見られる濃厚なものではないからだと思う。
傷痍軍人達と全裸で泳ぐシーンすらサッパリ感が漂っていた。

現在と回想が行きかうようにして、何もかも失くしたが今のこの生活も捨てたものではないぞとの思いが伝わってきた。
いつか大金持ちの仲間入りをしたいと思っていた主人公が、念願がかなって彼らと一緒に生活できるようになった展開は包括絶倒。

当初の見習い給仕人から給仕長を目指すくだりから、後半は戦争の影響を受け、生活も周りの雰囲気も変わっていく様が描かれる。
結婚した相手はヒトラーを心酔するドイツ娘。
純血のドイツ人を生み出すくだりも描かれるが、けっして大上段に構えた反戦映画ではない。
それでもところどころに、戦争がもたらす人生の狂いが描かれて、やはり戦争は良くないと感じさせた。
いまはチェコとスロヴァキアに分かれた国家だが、かつてはチェコスロヴァキアとして存在し、しかもドイツに併合された歴史を持ち、社会主義国家へと変貌していった歴史も持つ。
冒頭で主人公が刑務所から出てくるが、彼が刑務所に入っていた理由が最後のほうで明かされる。
社会主義を笑い飛ばすようなところはあるのだが、そんな主義主張はともかくも今日飲むことが出来るビールの一杯に至福の時を感じる表情に真の幸せを垣間見た一作ではあった。