おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

影の車

2023-09-21 07:49:15 | 映画
2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2019/3/21は「紙の月」で、以下「紙屋悦子の青春」「髪結いの亭主」「ガメラ 大怪獣空中決戦」「ガメラ2 レギオン襲来」「かもめ食堂」「花様年華」「カルメン純情す」「川の底からこんにちは」「ガンジー」「歓待」と続きました。

今日から「か」です。

「影の車」 1970年 日本


監督 野村芳太郎
出演 加藤剛 岩下志麻 小川真由美 滝田裕介
   岩崎加根子 芦田伸介 浜田寅彦
   稲葉義男 近藤洋介 早野寿郎 野村昭子

ストーリー
旅行代理店で働く浜島幸雄は、帰宅途中のバスの中で中学の同級生だった小磯泰子と再会した。
今の夫婦生活に味気なさを感じていた浜島は次の日の帰り道にもバスで泰子と一緒になった。
夫に先立たれた泰子は、六歳の息子健一を女手ひとつで育てていた。
泰子の家に立ち寄った浜島は、彼女の好意に甘えて手料理をご馳走になった。
浜島は保険の外交員として働く泰子のために世話を焼きはじめる。
泰子もまた紳士的で頼りがいのある浜島に惹かれていった。
健一だけが仲睦まじい二人の様子に嫉妬して孤独を深めていった。
惹かれ合う二人は理性を押さえられなくなり、ついにある夜一線を越えてしまった。
浜島は健一との距離を縮めたいと思うものの、健一はまったく懐く素振りを見せない。
母を奪われることを危惧した健一は、次第に浜島に反抗的な態度を見せるようになる。
浜島もまた健一からの嫌がらせがエスカレートしていることを強く感じるようになった。
泰子は二人の間に不穏な空気が流れているとは知らず、浜島との恋愛にどっぷりのめり込んでいった。
泰子の外出中に浜島がうたた寝していると、健一がヤカンを火にかけたまま外に遊びに行ってしまい、ガス中毒になりかけた浜島は健一が自分に強い殺意を抱いているのではないかと感じはじめた。
健一への後ろめたさを感じる浜島は、泰子を意識的に避けるようになった。
しかし泰子から健一は浜島が父親になってもくれてもいいと言っていると聞き不安を払拭した。
家族のように三人で楽しい夜を過ごした後、翌朝目覚めた浜島がトイレから出てくると、そこには健一がナタを持ってたたずんでいて、もみ合いになるうちに浜島は健一の首を絞めてしまう。
健一は短時間意識を失っただけで命に別状はなかったが、浜島は殺人未遂の容疑で逮捕された。


寸評
映画が始まると浜島と泰子が出会う場面が描かれる。
暫くしてタイトルが出るのだが、その時の背景はフィルムに処理が施された薄気味悪い海となっている。
毒々しい映像はクレジットの間中に流され、本編に入っても描かれるフィルムに特殊処理された映像は浜島の想い出の中にあるものと分かる。
いわゆる不倫ものであるが、そこに男の過去の想い出が重なることで破局を迎える展開は松本清張の構成力だ。
母子家庭の浜島少年は奇異な色彩映像の中で母を奪う男への殺意を募らせていく。
人は自分がそうであったなら他人もそうであるように思いがちである。
浜島は健一の姿に過去の自分を重ね合わせる。
健一が自分を見る目にあの頃の自分の目を感じ、饅頭に関する出来事、ガスコンロに関する出来事など偶然の出来事も健一の殺意に感じてしまう。
それは健一と同じ年頃の頃に自分がそうであったからだ。
男との間に楽しい時間はあったものの、健一の心の底にある嫌悪感は拭いようもなかったのだ。
自分にあった感情が健一に乗り移っていく描写がサスペンスとして盛り上がりを見せる。

健一はまだ子供だから、浜島が一緒にふざけてくれるときは楽しいし、プラモデルを買ってくれればうれしい。
泰子はそんな息子の姿を見て、息子が愛する男になついてくれていると思うが、それはそうあってほしいと願う泰子の曇った目がそう思わせている。
親の心子知らずと言うが、子の心親知らずと言うことも有る。
それが浜島と泰子、健一がドライブに行った時の出来事だ。
ドライブを続け渓谷を散策する一日を健一も大いに楽しんでいたのだが、健一が車で眠っていることを良いことに二人で森の中で逢瀬を楽しむ。
寝ていた健一が目覚めた時に浜島と母である泰子が居らず、世渡りを知り始めた健一は母を取られる思いを持ちながら知らぬふりをする。
泰子はあんなに喜んだ健一を見たことがないと浜島に告げるのだが、健一は逆の気持ちを抱いている。
自分たちの勝手から子供の気持ちに思いが至らないという象徴的な場面である。
事件が起きて警察に呼ばれた泰子は浜島がそんなことをする男ではないと言い、健一もそんなことをする子ではないと刑事に訴える。
刑事はそれなら、浜島が健一を殺そうとしたのか、それとも健一が浜島を殺そうとしたのかと詰め寄り、泰子は答えることが出来ず絶句してしまう。
事実はどうだったのだろう。
泰子が言うように、目が覚めてしまった健一がナタを持って林の中へ行こうとしていただけなのかもしれない。
あるいは健一が本当に浜島を殺そうとしたのかもしれない。
しかし浜島には健一がナタを持って自分を襲ってくるようにしか見えなかった。
それは自分の過去が蘇ってきたからだ。
刑事は6歳の子供がそんな気持ちを持つはずがないと言うのだが、浜島にはそうではない確信がある。
事実を明らかにせず終わるが、何事もなかったようにブランクで遊ぶ健一の姿こそ恐ろしいものを感じさせる。