おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

エロスは甘き香り

2023-09-12 06:24:25 | 映画
「エロスは甘き香り」 1973年 日本


監督 藤田敏八
出演 伊佐山ひろ子 桃井かおり 川村真樹 高橋長英
   山谷初男 五條博 谷本一 橘田良江

ストーリー
カメラマン浩一(高橋長英)、服飾デザイナー悦子(桃井かおり)、漫画家志望の昭(谷本一)、バーのホステス雪絵(伊佐山ひろ子)の四人が同棲生活を始めたのには深い理由があったわけではない。
浩一は仕事がなく、悦子のところにころがり込み、半ばヒモのような暮しをしていた。
売れない劇画を描いて、行くところのなくなった昭は、愛人の雪絵を連れて浩一たちのところに居候をきめこんでしまった。
共同同棲生活が始まったのはそれからである。
ある日、酔った雪絵を、浩一は衝動的に抱いてしまった。
雪絵はそれを待っていたかのように彼を迎え入れた。
昭は仕事をしない浩一に意見するかのように、売れない劇画を描き始めた。
今度こそはと、描き上った作品を出版社に持ち込んだが、やはり不採用だった。
失望にやけっぱちで飲んだ酒のいきおいで彼は悦子を抱いてしまった。
そんな彼を悦子はやさしく、つつみこむのだった。
その頃、浩一は行きつけの居酒屋の主人・久生(山谷初男)からワイ写真のモデルを依頼されていた。
相手は久生の女・雀(川村真樹)である。
浩一はヒモの自分から刹那的にも逃れるためにモデルを承知し、雀と幾多の交じわりをするのだった。
ファインダーからそれをのぞく久生の目はぎらぎらと輝いていた。
数日後雪絵は共同生活に嫌気がさして、部屋から出て行った。
誰も止めようとはしなかったし、止める権利のないことも知っていた。
そして、ワイ写真のモデルとなった浩一と、劇画を諦らめた昭と、二人のヒモを持った悦子の三人の奇妙な生活が、あてどなくつづいていった……。


寸評
藤田敏八は浅丘ルリ子が女優として脱皮を遂げた「愛の渇き」で藤田繁矢の名で脚本を担当した後、「非行少年 陽の出の叫び」で監督デビューし何本か作品を撮ったが、日活がロマンポルノ路線に転換したので、藤田もロマンポルノを手掛けることになる。
その内の一本がこの「エロスは甘き香り」である。
裸のシーンを入れる以外に制約もなく監督が好きなように撮れたロマンポルノであるが、藤田敏八にはこれといった作品はなかったように思うし、本作も空回りしているような所がある。
今となっては、ボカシもあるしこれがポルノ映画かと言いたくなる内容である。
若い男女四人による密室劇で、訳の分からないパワーは感じるが、でも結局訳が分からない内容である。
高橋長英が豚の首を切って血の滴る頭を持って帰ってくるシーンはゾッとするだけで、何の意味があったのか理解できないのだが、手首を切ったこととの関連性だけだったのだろうか。
変わったシーンがあって興味を引くが、それが作品に上手くいかされていないような気がした。

スワッピングとでもいうような濡れ場が一番の見どころとなっている。
ある日、浩一は酔った雪絵を衝動的に抱き、雪絵はそれを待っていたかのように彼を迎え入れる。
劇画が採用されず失望した昭は悦子を抱き、悦子は昭をやさしく包み込む。
この場面は雪絵が浩一にやられた直後に仕返しとして昭が悦子をやるというもので、昭と悦子の行為を浩一が口にフィルムくわえてカメラを弓を引くように構えて連写、連写、連写で撮りまくる。
一体フィルムは何枚撮りなのだと言いたくなるくらいの連写である。
この様な関係になると4人はバラバラになっても良さそうなものだが、逆に4人は打ち解け合って和やかな食事を囲む共同体を生み出している。
浩一と昭は夜の公演でカップルにいかがわしい写真を無理やり売りつけることを協力し合ってやるようになる。
次のカップルを狙った時、そのカップルは居酒屋の主人・山谷初男と雀の川村真樹だったので、二人は暗闇の中へ去っていく。
山谷初男と川村真樹の存在は何だったのか僕にはよくわからなかった。

ヒモという立場の男たちの屈折した気持ちを描いていたのかなあ。
家の外の犬小屋が燃えているのは、米軍払い下げの住宅と関係があるのか。
川村真樹の店の籠の中の鳥は、単に川村真樹が雀という役名だったためだけだったのか。
冒頭で浩一がパチンコをしている時に、店内に流れているのは石川セリが唄う「八月の濡れた砂」である。
「八月の濡れた砂」は藤田敏八の代表作の一本だと思うのだが、やはり「八月の濡れた砂」への思い入れが強くあったのだろうか。
そう思うと、「エロスは甘き香り」は年齢を少し上げた「八月の濡れた砂」だったのかもしれないなと思った。
ロマンポルノとしてではなく、普通の作品として撮った方が面白かったかもしれない内容であった。
「八月の濡れた砂」ほどの衝撃はないが、この映画は桃井かおり唯一のロマンポルノ作品として記憶にある。
長谷川和彦が助監督を務めているが、長谷川は同じ藤田敏八監督作で桃井かおりの女優復帰作でもある「赤い鳥逃げた?」でも助監督をつとめていたから、三人は仲間みたいなものだったのだろう。