おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

おおかみこどもの雨と雪

2023-09-13 07:46:51 | 映画
「おおかみこどもの雨と雪」 2012年 日本


監督 細田守
声の出演 宮崎あおい 大沢たかお 黒木華 西井幸人 大野百花
     加部亜門 平岡拓真 林原めぐみ 中村正 大木民夫
     片岡富枝 小林隆 井上肇 染谷将太 桝太一 上白石萌音
     谷村美月 麻生久美子 菅原文太

ストーリー
大学生の花(声:宮崎あおい)は、相手が人間の姿をしていながらも“おおかみおとこ”(声:大沢たかお)という正体を持つ男とは知らずに恋に落ちてしまう。
しかし“おおかみおとこ”であることを打ち明けられても花の気持ちは変わらなかった。
二人は惹かれあい、やがて2人の間には、人間とおおかみの2つの顔を持つ“おおかみこども”、姉の“雪”(声:黒木華、大野百花)と弟の“雨”(声:西井幸人、加部亜門)が生まれる。
そして雪と雨が人前でおおかみにならないよう注意しながら、家族は都会の片隅でひっそりと、しかし幸せに暮らしていた。
そんなある日、父親の“おおかみおとこ”に突然の死が訪れ、幸せな日々に終止符が打たれた。
“おおかみこども”の姉弟を抱えた花は悲しみに暮れながらも、子どもたちを一人で育てるために決意を新たにし、緑豊かな山あいの村へと移り住む。
当初、蛇や猪をも恐れず活発な性格の雪に対し、弟の雨は内気で逃避的であったが、最初の冬を超えてから雨は変わり始める。
雪が小学校に通い始めて友達が出来ると、自分が野獣的なことを意識して葛藤を感じ、人間の女の子として振る舞おうと決意する。
だが、2人には重大な選択のときが迫っていた。


寸評
この作品は雪が語り手として母の花の半生を語るという形をとる母から娘への物語である。
狼と愛し合い狼の子供を産むという童話的な世界を描いているが、基本はシングルマザーの子育て話である。
花は国立大学に通う貧しい学生であったが、同じ大学に通う苦学生と恋に落ちて事実婚をして子供を産む。
ところが、家族を養おうと無理をした彼は過労死をしてしまう。
花を襲ってきたのは格差社会の悲劇である。
シングルマザーとなった花は勉学を続けることができなくなり貧困に陥った彼女は、家賃の安い田舎に移り住み自給自足の生活を始める。
生活が困窮しだした花は社会保障制度を受けられず、安い賃金の仕事を始めるようになる。
国家は助けてはくれなかったが田舎のコミュニティが花たちを援助するようになる。
花が暮らす田舎は持てる者が持たざる者に分け与える相互扶助によるお互いが助け合う社会である。
やがて子供たちは自分の道を歩み始め、花は子供たちの自立を見送り一人で暮らすことになる。
オオカミの子供という非現実的なものを登場させているが、描かれていることは現在の社会で起きていることであり、誰もが経験するであろう事柄である。

絵本の中ではオオカミは常に悪役で殺されてしまうことが多い「差別」の対象者である。
雪は転校性の草平にいきなり「獣臭い」と言われてしまう。
これは我々が無意識的に持っている差別意識への警告であり、無意識のうちに発している差別用語への警告を発しているシーンだったと思う。
雪は草平に自分がオオカミであることを告げる。
草平は「分かってた、ずっと。雪の秘密、誰にも言ってない。誰にも言わない。だからもう、泣くな」と言う。
差別者として存在していた草平と被差別者として存在していた雪の和解である。
その草平は親に見捨てられた孤児となっており、その状況は都会では無縁の中にいた雪の一家と変わらない。
身寄りもないままにシングルマザーとなった母の半生を物語る雪は、立場を変えて母と同じ運命をたどるのではないかと思わせる。

親は子供を産んだ限りは育てていく責任がある。
そして手塩にかけた子供が巣立っていくのを見送らねばならない。
長年一緒に暮らした子供との別れは辛いが、親は子供の幸せを祈って見守るしかないのだ。
自分に課せられた使命を感じ取った雨は危険を承知の仕事につき家を出ていく。
雨は森の支配者のオオカミとして去っていく。
親の止めるのも聞かずに行かねばならない感動的な場面である。
このシーンをより感動的にしているのが花の発する言葉である。
「しっかり生きていきなさい」と叫ぶのである。
自立していく子供にかける言葉はこれしかないのである。
花は時折オオカミの遠声を耳にし、元気でいることを知って安心した表情を浮かべる。
親はそうすることしかできない。