おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

栄光への脱出

2023-09-04 07:10:48 | 映画
「栄光への脱出」 1960年 アメリカ


監督 オットー・プレミンジャー
出演 ポール・ニューマン エヴァ・マリー・セイント
   ラルフ・リチャードソン リー・J・コッブ
   ピーター・ローフォード サル・ミネオ ジョン・デレク
   ヒュー・グリフィス グレゴリー・ラトフ ジル・ハワース

ストーリー
1947年の地中海キプロス島にはイスラエルに帰ろうとするユダヤ人たちが英軍によって収容されていた。
パレスチナを委任統治していた英国がアラブ諸国との紛争をさけるためにとった政策である。
アメリカ女性、キティ・フリーモントはキプロスで死んだキャメラマンの夫の様子を探るため現地にやってきた。
収容所のユダヤ人たちの窮状をみた彼女は看護婦として、働くことにした。
彼女はそこでユダヤの美少女カレンや17歳のユダヤ少年ドヴ・ランドーと知り合った。
少女と少年は互いに愛情を抱いていた。
その頃、ユダヤ人地下組織のリーダーであるアリ・ベン・ケナンがキプロスに潜入した。
元英軍将校だった彼の任務は、ユダヤ国家再建のためキプロスのユダヤ人たち2800名をエルサレムに送りこむことだった。
軍服を利用して、彼は貨物船オリンピア号をエクソダス号と改名、ユダヤ人たちをのせて港を出ようとした。
英軍はこれを知って停船を命じたが、ユダヤ人たちはハンストをもって対抗した。
美少女カレンを養女にしようとしたキティも、少女とともにこの船の中にいた。
やがて世界の世論に負けた英軍はエクソダス号出港を許し、一行はハイファについた。
カレンら少年少女はガガリーの丘にあるユダヤ人の「青春の村」におちついた。
アリの父バラクや友好的なアラビア人ハタが一行を迎えてくれたのだが…。


寸評
日本人からすると(僕の無知もあるが)アラブとイスラエルの対立、イスラム教とユダヤ教の対立がどうも理解できないのだが、それは何千年にも及ぶ歴史的背景を理解していないためだと思うし、ひいては日本人がユダヤ人のような放浪の歴史を有していないからではないかと思う。
ユダヤ人の祖先は民族の父アブラハムに率いられて紀元前16世紀にカナンの地にやってきたとされている。
しかしカナンには先住民がいたために放浪し、モーゼが現れてエジプトを脱出するまでの数百年間はエジプトの奴隷となっていた。
カナンの地を征服しダビデ王国が成立するが、すぐにイスラエル王国とユダヤ王国に分裂して、北イスラエルはアッシリアに、ユダヤ王国はバビロニアに滅ぼされ、ユダヤ人は紀元前6世紀にバビロニアの虜囚となる。
そして西暦70年ローマ帝国によって征服されエルサレムから追放されて以来2000年に及ぶ放浪を続けていた。
第二次大戦後、パレスチナを統治していたイギリスが「1948年5月15日をもって委任統治を終了する」とした為、緊迫した状況であったが、ユダヤ人は1948年5月14日イスラエル独立宣言を行った。
映画はイギリス統治下におかれていたユダヤ人が、自分たちの国家イスラエルを建国するまでを描いている。

国家建設の情熱を国連に示すためと国家に必要な国民の確保のために貨物船でキプロス島のユダヤ人保護施設から脱出を図る場面から映画は始まる。
前半はその様子に費やされているが、サスペンス性のある展開なのに緊迫感に乏しい演出となっている。
ポール・ニューマン演じるアリが英国将校と偽ってユダヤ人を脱出させるのだが、偽の命令書の作成シーンとか、偽物であることが発覚しないかというスリル感がない。
下級将校が身分照会をしようとするが、危機を緊迫感なく切り抜けてしまっている。
貨物船に乗り込んだユダヤ人たちはイギリス軍に抵抗するためにハンガー・ストライキを行うが、飢えの苦しさなどの過酷な状況もないので、命を懸けた抵抗と言う感じがしない。

前半に比べると後半は中身が濃い。
イギリスによって監禁されている同胞を救い出すアクションシーンもあるし、穏健派と武闘派の対立も描かれる。
ドヴ・ランドーという少年が、自分が生き残るためにアウシュビッツで同胞に行った行為を明らかにされたり、また彼が受けた屈辱なども語られる。
キング・デイヴィッド・ホテル爆破事件などユダヤ人過激派の反英闘争もあり、国家の独立と維持には武力が必要だと言っているようでもある。
それは現在のイスラエルに受け継がれている。
戦後において平和を維持している日本とは違う思想だ。
ラストではアリによってアラブとユダヤは共存できると語られるが、それでも映画は第一次中東戦争へ突入していくところで終わっている。
その後も第四次中東戦争まで起きているから、アラブとユダヤの対立は根深く、アリの言った共存は夢物語と思われるのが現実だ。
もとはと言えば第一次世界大戦から続くどちらにも空手形を切ったイギリスの三枚舌外交がもたらした混乱だから、イギリスの罪は大きい。