おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

学校Ⅲ

2023-09-24 07:11:12 | 映画
「学校Ⅲ」 1998年 日本


監督 山田洋次
出演 大竹しのぶ 黒田勇樹 小林稔侍 ケーシー高峰
   笹野高史 寺田農 余貴美子 吉岡秀隆 田中邦衛
   さだまさし 秋野陽子 中村メイコ 小林克也

ストーリー
零細企業の経理係で働く紗和子(大竹しのぶ)は、自閉症があるが新聞配達をする息子・富美男(黒田勇樹)と団地で二人暮らし。
しかし突然会社からリストラされてしまい、生活していくため正社員として働き口を探す。
職業安定所には紗和子が望むような募集がなく、資格取得のため職業訓練校(本作では、技術専門校のビル管理科)に入校する。
ビル管理科のクラスは、不景気でリストラされたり、経営していた店が潰れた40代以上の男たちばかり。
皆同じような境遇で紅一点の紗和子とも親しくなるが、周吉(小林稔侍)だけは他の生徒と交わろうとしない。
彼は、わがままで協調性のない人物で、会社をリストラされて技術専門校に渋々通っているのだ。
紗和子が慣れない資格の勉強に奮闘する中、周吉が紗和子の忘れた教科書を届けたことから二人は次第に心惹かれ合う。
それから彼女は、遅刻の多い周吉にモーニングコールをかけたり、夏休みには友人たちと一緒に海水浴へ誘ったりと、彼と親しくなっていく。
紗和子が慣れない資格の勉強に奮闘する中、富美男が新聞配達の仕事中に交通事故に遭い入院する。
看病と学業の両立の難しさから退校を考える紗和子だが、周吉は励まし、力になる。
やがて富美男も退院し、いよいよ試験の日がやってくる。
結果は全員合格だった。
卒業式の日、紗和子は周吉とふたりきりでお祝いをしようとするが、周吉は式に現れなかった。
周吉の妻が事業の失敗から自殺を図って、入院していたのだ。
彼にほのかな想いを抱いていた紗和子は、それを自分の胸にそっと封じ込める。
月日はめぐり、ビルの管理会社に就職した紗和子は、充実した日々を送っていたのだが・・・。


寸評
この映画に登場する職業訓練校のビル管理科に職業訓練校のビル管理科学ぶ人たちは会社をリストラさせらた人や、経営していた店がつぶれた人や経営していた工場が倒産した人たちである。
私が務めていた会社も業績が悪く、いつ倒産してもおかしくないような状態だった。
もしも倒産していたら一体自分はどのようにして生計を維持しただろうかと思うとゾッとするものがある。
管理職と言っても勤務している会社だからこその管理職であって、果たして自分のスキルは世間で通用したのだろうかとの疑問と不安が湧きおこる。
証券会社でエリートコースを歩んできた小林稔侍の高野が再就職先を求めて苦心している姿は身につまされる。
しかしながら、エリート意識が災いして他の生徒と交われないのは分からぬでもないが、そんな意識の彼がなぜ技術専門校のビル管理科に入学したのかとの疑問が当初からあって、どうもこの男の存在にリアリティを感じることが出来なかった。

一方の紗和子には自閉症の息子がいる。
自閉症を扱った作品を何本か見たことがあるので、富美男少年の異常行動には違和感がなく、幼い孫が入院していた時に同じ病室だった子供がやはり自閉症で、ここで描かれた富美男少年のような言動に母親が真摯な態度で接していたことを思い出すと、紗和子とのやり取りは高野と違ってリアリティを感じさせた。
僕はその家族と言葉を交わしたわけではないが、その母親をとても息子に愛情を注ぐ立派な人だと思えた。
紗和子と同じ団地に住む仲の良いおばさんとして余貴美子が登場するが、紗和子にこの様な理解者がいて良かったと思う。
また富美男にも余貴美子の息子役として伊藤淳史という色々と助言したり面倒を見てくれる友人がおり、勤務先では吉岡秀隆のような富美男を手助けする優しい性格の同僚がいたのも幸いなことである。
現実社会はもっと厳しい人間関係があるのではないかと想像する。

彼らが学ぶクラスに若者はいない。
授業を通じて専門知識を学ぶ中年となった彼らの苦闘が描かれる。
そのなかで紗和子と高野の淡い恋も描かれるが、どうも話を詰め込み過ぎているように感じる。
職を失った中年の人たちが頭脳の衰えと戦いながら、生活を維持するために学校で必死に学んでいるという雰囲気はなく、そもそも彼らの私生活が全く見えない。
途中からは職業訓練校を舞台にした中年の恋を描いているのかと思われるような展開になり、同時に自閉症の息子がメインかと思われる描かれ方も登場する。
紗和子が看護婦さんに依頼する場面では、幼児言葉を使わず成人男性として扱ってほしいとか、上手く表現できないことも有るが何が言いたいのかくみ取ってやってほしいとか、たまには褒めてやってほしいが変な気を使うのもいけないとか、自閉症に対する理解を求めるような描写もあるので、自閉症の息子を持った母親の苦労話なのかと思えてくる時間帯もある。
富美男の交通事故、高野が卒業式に現れなかったエピソード、紗和子が出会ってしまう試練、それを励ます同級生たち、中盤以降で描かれるそれぞれは感動的な物語なのだが、それだけに詰め込み過ぎの感じがする。
どれかを削っても良かったのではないかとの印象が最後に残った。