おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

おだやかな日常

2023-09-17 06:59:32 | 映画
「おだやかな日常」 2012年 日本                                                            

監督 内田伸輝                                         
出演 杉野希妃 篠原友希子 山本剛史 渡辺杏実 小柳友
   渡辺真起子 山田真歩 西山真来 寺島進 志賀廣太郎
   古舘寛治 木引優子 松浦祐也                        

ストーリー
福島の原発事故の影響が明らかになり始める東京近郊のマンション。
マンションに住むサエコ(杉野希妃)は夫から一方的に離婚を突きつけられ、幼い娘を一人で育てなければならなくなる。
そんな彼女は放射能の恐怖から幼い娘の清美を守りたい一心で様々な行動に出るが、それが幼稚園の他の母親たちとの間に軋轢を生んでしまう。
一方、同じマンションの隣人ユカコ(篠原友希子)も放射能への危機感を募らせ、サラリーマンの夫に引っ越しを迫るのだったが…。


寸評
東日本大震災による原発事故をテーマにした映画で、放射能の恐怖におびえ追い詰められていく2人の女性を描いている。
マンションの隣人同士のサエコとユカコの二人に共通するのは福島からやってくる放射能への恐怖。
二人の行動はドラマの展開とともに、どんどん過激になっていき、、その行動は賛否が分かれるところだと思うのだが、作り手側もその行動を短絡的に肯定しているわけではない。
関西在住の僕は、正直、そこまでやると浮くんじゃないかと感じてしまうのだが、しかしサエコは突然夫から離婚を切り出されて一人娘を育てねばならない事情や、ユカコにも過去に負った事情などが、その異常性を納得させる背景となっている。
離婚を突き付けられているサエコの事情はストレートだが、一方のユカコの方は夫の務める会社では業績不振のためのリストラが始まっていて、妻には言いにくい転勤、転職事情が裏にある。
「地震の時にどれだけ不安だったか、あなたに分かる?」と問い詰められて「その時、どれだけお前のことを心配していたのか分かるのか」と切り返えさせたりしているのは、男としては生活維持のために背負っている苦しさもあるのだと代弁しているようで、このあたりの背景がこの映画を単純構造にしていないのだと思う。

原発事故を描いた映画なのだけれど、杉野希妃、篠原友希子の熱演もあって、母性を描いたドラマとして見応えがあった。
それぞれの恐怖や焦燥感は当事者でない僕にはオーバーに感じられたのだが、その感情そのものが”おだやか”すぎるのだろう。
考えてみれば水俣病だって、政府は当初チッソは関係ないと発表していたのだし、国民は少なからず今回の安全宣言も怪しいものだと感じているのではないか?
そして5年後、10年後に彼女達が恐れているようなことになると、結局泣きを見るのは子供たちだ。
水俣病と同じように、国家補償が得られたとしても、国家は賠償金を支払って終わりかもしれないが、苦しむのは当事者たちで、その苦しみは救いようがない。
同じことが起きないと誰が断言できるのだろう。
やはり、子供を守る気持ちが強いのは母親が一番なのだと思い知らされた。
自分のことは自分で守るしかないのだが、昨今の震災がれきの受け入れ問題と言い、時間がたつと周りは無関心になっていき、そこには”おだやかな日常”だけが有るようになってしまうのだろう。
当事者たちには軋轢、偏見、風評被害も生じているのだろうが、なんとか国家として救えないものかと思う。

舞台を福島でなく東京にしているのも微妙な感情を起こさせ、手持ちカメラを多用したドキュメンタリータッチで、少々堅苦しかったのだが、ユカコの夫に何事もなかったように暮らすことへの違和感を表明させ、かすかな希望をともすエンディングを用意していたので、このラストでもって一気にドラマとして昇華した。
最後の10分はいい。