おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ある殺し屋

2023-07-30 07:17:12 | 映画
「ある殺し屋」 1967年 日本


監督 森一生
出演 市川雷蔵 野川由美子 成田三樹夫 渚まゆみ 千波丈太郎
   松下達夫 小林幸子 小池朝雄 伊達三郎 浜田雄史 橋本力

ストーリー
塩沢(市川雷蔵)は名人芸の殺し屋として、やくざ仲間に名を知られていた。
ふだんは平凡な一杯飲屋の主人だが、どんな困難な殺人でもやってのけた。
ある日、塩沢は無銭飲食と引きかえに体で金を払うという圭子(野川由美子)の金を払ってやった。
その日から圭子は塩沢につきまとい、塩沢のやっている小料理屋“菊の家”までおしかけ、あげくの果にはおしかけ女中として“菊の家”に住みこんでしまった。
そんなところへ、暴力団木村組から、競争相手のボス大和田(松下達夫)を殺してほしいと依頼があった。
塩沢は二千万円でその仕事を引きうけた。
競馬場、大和田邸、大和田の二号茂子(渚まゆみ)のマンションと、塩沢は大和田をつけ狙ったが、強力なボディガードに守られた大和田に手が出なかった。
しかし、ついに大和田主催のパーティに芸人として潜りこんだ塩沢は、大和田暗殺に成功した。
塩沢の手口の鮮やかさと、報酬の大きさに惚れこんだ、木村組幹部前田(成田三樹夫)は、塩沢に弟子入りを頼んだが断わられた。
しかし、前田は圭子から手なづけようと、強引に圭子と関係を結んだ。
前田の若さと強引さに惹かれた圭子は、塩沢を殺して彼の金を盗ろうと前田にもちかけた。
前田と圭子は色と慾で組み、そして計画を練って塩沢に話を持ちかけた。
それは、ボスを失った大和田組が麻薬を扱っているから、それを横どりしようというのだ。
無論塩沢に異存はなかった。
塩沢一流の周到な計画で、塩沢、前田、圭子の三人は、大和田組から二億円の麻薬をカツあげした。
その瞬間前田は塩沢に拳銃を向けた。
しかし、裏切りを予想していた塩沢は前田の拳銃の弾を抜いていた。


寸評
時代劇が多かった市川雷蔵だが本作ではニヒルな殺し屋を演じている。
ストイックで一匹狼的な殺し屋だが、全く人を寄せ付けないとか、普段何をしているのかもわからないスーパーヒーロ的な男としては描かれていない。
雷蔵は普段は小料理屋を営んでいるのだが、そこにヤンキー娘の野川由美子が店員の小林幸子(デビュー間もない頃で、紅白歌合戦で派手な衣装を見せるのはずっと後年の事)を追い出していついてしまう。
雷蔵は迷惑そうだが小林幸子を追いかけるでもなく、野川由美子を追い出すでもなくそのまま居座らせる。
彼のその姿勢は最後まで続いて、自分の周りに誰も近づけない謎の男と言うイメージはない。
正体を知られても野川由美子を殺したりはしない。
非情な殺し屋ならその時点で秘密を知られた女を殺してしまうシーンが描かれたはずだ。
裏切られても温情を見せるどこか浪花節的な心情を持ち合わせているキャラクターである。

ストーリーは時間軸を前後させながら進んでいくので、ファーストシーンでなぜ雷蔵がそこに現れたのかが判明するのは随分後の方である。
その間に依頼された殺人を慎重ながらも確実にやり遂げる様子が描かれる。
特段に新しい手口ではないが、渚まゆみを利用した犯行手口は工夫していた。
同時に野川由美子の調子のよい張ったり女の様子が小気味よく描かれ、この映画を面白くしている。
これにいかにもといった悪人面した成田三樹夫が絡むので、どうみてもやがてこの二人が問題を起こしそうなのは推測がつき、ああやはりこうなったのかという展開を見せるが、プログラムピクチャ―としてはそれでも良いと思う。

プログラムピクチャーは半ばB級作品と同義語的に使われているが、本来は日本映画全盛の時代に映画会社が製作・配給・興行を一手に支配して、映画館における年間の上映日程が映画会社のスケジュールに沿って作品が上映された形態及び映画をさすものだ。
スケジュールを埋める必要から月に10本近い作品が撮られていたのだから非常に乱作である。
そんな中でも映画人たちは何とかキラリと光る作品を生み出そうとしていた。
俳優たちも何本も掛け持ちしながら同じような気持ちを持っていたと思われる。
本作もそんな意欲が垣間見える作品となっている。
増村保造と石松愛弘による脚本も練られているし、 森一生の演出も雰囲気を出している。
しかし、雷蔵は時価2億円と言われる麻薬を奪う話に乗るが、それはどうだったのかなあ。
麻薬取引の現金を奪うならともかく、あれだけ大量の麻薬を手に入れて売りさばけば目立つのは確かだし、足のつかない完璧な仕事をモットーとする男が金に目がくらんで手を出す仕事ではなかったと思う。
この映画では一番の違和感を感じたが、取り分を分け与えるエピソードの小道具として必要だったのかも。
雷蔵が成田三樹夫に「色と仕事の区別がつかない奴は嫌いだ」と言うと、言われた成田三樹夫が今度は野川由美子に「女は色と仕事の区別をつけねえからいけねえ」と言って去っていく。
決め台詞としては気が利いているし、このトリオはなかなかいいアンサンブルだった。
市川雷蔵は現代劇ではひ弱な男を演じれば様になった役が多かったが、結構ニヒルな男も似合う役者だった。
当時の映画の雰囲気を味わえるハードボイルドなジャパン・ノワールとして鑑賞に堪える作品だと思う。