おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

あさき夢みし

2023-07-15 12:52:34 | 映画
「あさき夢みし」 1974年 日本


監督 実相寺昭雄
出演 ジャネット八田 花ノ本寿 寺田農 岸田森 丹阿弥谷津子
   原知佐子 三条泰子 東野孝彦 篠田三郎 小川順子 小松方正
   古今亭志ん朝 天田俊明 殿岡ハツ江 観世栄夫 渡辺文雄

ストーリー
十三世紀後半、都は後嵯峨法皇院政の時代。
法皇の皇子後深草天皇は、既に帝位を弟の亀山天皇にゆずり、富小路殿に仙洞御所をいとなんでいた。
二十歳半ばにして世捨人に等しかったわけである。
この院には四条という寵愛する一人の女房がいた。
四条はある貴族の家に生まれたが、四歳の時から上皇のもとで育てられ、十代半ばになった時、愛人として仙洞御所に迎え入れられた。
しかし四条には愛人ができる。
かねてから四条を愛している霧の暁(西園寺大納言)、執拗に迫ってついには四条を我ものとする真言密教の高徳の僧阿闍梨(上皇の異腹の弟)である。
四条はこれらの男たちの愛を受け、それぞれの子供を生むが、全て彼女の手から奪い取られてしまう。
彼女は宮廷社会の美しいもてあそびものとしての、自らのはかない存在を自覚せざるを得なかった。
ただ一人、始めは四条を恐怖させ、次第にその荒々しい情熱が彼女の心をとらえるに至ったのは阿闍梨だが、彼は流行病であっけなく死んでしまった。
やがて、西行絵巻を好んで眺め、西行のように生きたいと願っていた四条は、自由を求めて出家した。
遊行放浪していく踊念仏の世界に対する憧れを持つ四条は、みごとな腕前の画や書、また連歌などを道中の資として、待女目井とともに諸国をめぐって歩いた。
王朝の幻影がくずれ去った後の、武士が支配する新しい社会の中で、彼女は目井とも別れて、一人の尼絵師として闊達に生きてゆく。
彼女の生んだ娘は、今の帝の娘で高名な歌人となっているらしい。
しかし、四条はただ一人、今日も街道の砂埃をまきあげながら歩いている。


寸評
僕は実相寺昭雄と「無常」で出会ったのだが、当時はATG映画が結構撮られていて「無常」と同様にこの作品もATGとの提携作品である。
1000万円映画とも呼ばれたATG作品だが、本作はカラー化もあってそれなりの金をかけていると思う。
蒙古襲来が述べられるが、時代背景の説明にとどまっており、それ自体は物語に関係はない。
従って御所様と呼ばれる男は後深草天皇のことなのだろうが、この時はすでに譲位している。
父親である後嵯峨法皇の寵愛を受けられなかった彼は悶々とした日々を送っている。
御所様の愛人が四条と呼ばれるジャネット八田である。
ジャネット八田はアメリカ人の父と、日本人の母との間に生まれたハーフだが、美形であっても演技とセリフ回しは稚拙である。
宮廷の雅な世界にあっての女性を巡る愛欲を描くにあたってはこのジャネット八田に僕は違和感を持ち続けた。
想像するに、容姿とプロポーションによって多くの男に言い寄られる女性として彼女が適任と思われたのだろうし、実際彼女は美しい裸身を見せるのである。
ジャネット八田の体形には、女と娘と母親が同居しているような感じだ。
その風情がこの映画のすべてと言っても過言ではない。
だからジャネット八田だったのだろう。
ジャネット八田はこの後、阪神タイガースが誇ったホームランバッター田淵幸一氏の再婚相手となった。

四条は御所様(花ノ本寿)の愛人だが、霧の暁の皇子(寺田農)の子供をすでに宿していた。
生まれた子供を早産で生まれたと言い逃れるには立派過ぎる女の子で、スキャンダルを恐れた宮中はその子を他家に出してしまう。
御所様はそんな四条を咎める風でもなく、むしろ腹違いの弟で仏門に帰依している阿闍梨(岸田森)を引き合わせ、二人が出来てしまっても気に掛ける様子もない。
後嵯峨法皇によって、10歳の弟であった亀山天皇に譲位させられてすっかりやる気をなくしてしまったように見えるのだが、そんな親子の確執は御所様の口をついて語られるだけでメインではない。
あくまでも美しい女性である四条を巡る愛欲が描かれていく。

四条はその美貌ゆえに多くの男から言い寄られるのだが、男が力づくでという場面もありながら四条もまんざらでもなさそうなところもあり、阿闍梨に対しても愛情を感じるようになっていて、四条も愛欲に溺れているとも見える。
そんな四条に触発されるように、侍女の目井(原知佐子)は一夜の宿を借りた商人の男と快楽に走ってしまう。
とは言うものの、四条は男なら誰でもいいわけではなく、鎌倉武士の平二郎左衛門(毒蝮三太夫)などははねのけているのである。
尼御前となって放浪することになった四条だが、いっそその武士にも、富豪の男(渡辺文雄)にももて遊ばれた方が強烈な印象を残したかもしれない。
それだと「西鶴一代女」になってしまうかもしれないが・・・。
面白いのは宮中の女たちが四条の噂でもちきりになるシーンで、女はいつの時代でもワイドショー的な話題が好きなのだと思ったし、宮中の女も現代のオバサンと変わらないのだと言っているようだった。