おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

あなたへ

2023-07-19 08:01:17 | 映画
「あなたへ」 2012年 日本


監督 降旗康男
出演 高倉健 田中裕子 佐藤浩市 草彅剛 余貴美子 綾瀬はるか
   三浦貴大 岡村隆史 根岸季衣 大滝秀治 長塚京三 原田美枝子
   浅野忠信 ビートたけし

ストーリー
北陸のある刑務所の指導技官・倉島英二のもとに、ある日、亡き妻・洋子が残した2枚の絵手紙が届く。
そこには、一羽のスズメの絵とともに“故郷の海を訪れ、散骨して欲しい”との想いが記されていた。
そして、もう1枚は、洋子の故郷・長崎県平戸市の郵便局への“局留め郵便”だった。
その受け取り期限まで、あと十日。
刑務所に歌手として慰問にきていた洋子とは穏やかで幸せな夫婦生活を営んでいた。
長く連れ添った妻とはお互いを理解し合えていたと思っていたのだが、妻はなぜ生前その想いを伝えてくれなかったのか…。
英二はその真意を知るためにも、妻の願い通り彼女の故郷・長崎を目指すことにし、本当ならば妻と旅行するために準備していた手製の改造キャンピングカーに乗り込み、いざ富山を後にする英二だった。
妻の故郷を目指すなかで出会う多くの人々。
彼らと心を通わせ、彼らの家族や夫婦の悩みや想いに触れていくうちに蘇る、洋子との心温かくも何気ない日常の記憶の数々。
さまざまな人生に触れ、さまざまな想いを胸に目的の地に辿り着いた英二は、遺言に従い散骨する。
そのとき、彼に届いた妻の本当の想いとは―。


寸評
高倉健の遺作として記録に止められる作品だが、奇しくも大滝秀治の遺作ともなってしまった。
映画自体は何の変哲もないロードムービーで、主人公が各地で出会うユニークな人々は演技力(それを披露すること)より知名度優先のキャスティングになっていたと思う。
高倉健が80歳を過ぎても堂々と主役を張っているのだから、やはり映画史に残る大スターということだ。
そのたたずまい、表情には圧倒的な存在感があるが、映画界における年期は手に現れていた。
年数を経てきた感じが指先に出ていて、それが決して役柄のためのものではないと感じた。
これが遺作だと知ると余計に感慨深いものがある。

ハンドメイドで改造したキャンピングカーに乗って、富山から九州の平戸へ向かう主人公・倉島が旅先で遭遇する様々な出来事が描かれ、同時に妻との過去の回想シーンがあちらこちらに挟み込まれる構成になっているのだが、主人公が出会う人々のエピソードが本筋と全くと言っていいぐらい絡まないのでイマイチ盛り上がりに欠ける作品になってしまっている。
セピア調の色合いで振り返られる洋子との思い出シーンが素晴らしいだけに、尚更そちらのリアル感の欠如が目についてしまうのだが、ただし演じる俳優は名前のある人たちばかりで、そちらの方の興味は最後まで尽きない。

主人公の同僚夫婦は長塚京三と原田美枝子で、長塚京三は退職届を出した高倉に「受理できない、休暇扱いにしておく」と言って送り出している。
いい同僚に巡り会えたものだと羨ましくなる。
飛騨で出会うのが元国語教師(?)というビートたけしで、彼は山頭火を語る。
放浪と旅の違いも語り、目的のあるのが旅だと語り、帰るところがあるのも旅だと言う。
京都では草彅剛の駅弁の実演販売をして全国を回っている男と出会うが、エピソードとしては深みに欠けていた。
ロードムービーとして大阪が登場したといった感じで、ナイナイの岡村隆史が阪神ファンで登場し阪神の優勝がテレビ放映されている。
道頓堀の景色は定番で、道具屋筋が登場するのは大阪人の僕はちょっと嬉しい(大した意味はないけど)。
天空の城と呼ばれる竹田城址の思い出として、音楽祭で歌う洋子の姿が描かれる。
慰問歌手をしていた洋子の歌は冒頭でも歌われているが、洋子が慰問歌手をしていた理由が後日明らかになり、倉島と妻・洋子の夫婦愛がイメージとして物語のベースになっていたと思う。
宮沢賢治の作詞、作曲になる「星めぐりの歌」だが、これを田中裕子自身が唄っており聴きものだ。
下関では事件に巻き込まれるが、浅野忠信が警官役で少しの出演。
門司では再会した草彅剛の同僚として佐藤浩市が登場するが、この男の顛末は。とってつけたようで不自然だ。
目的地の平戸では食堂を営む余貴美子と綾瀬はるかの親子、その婚約者の三浦貴大、さらに彼の祖父である大滝秀治などが登場し、まさにオンパレード。
ロードムービーの大きな魅力である各地の美しい風景はキッチリとらえられていて、特にラスト近くの海と太陽の風景は絵画のような美しさには絶句する。
平戸は僕も旅したことがあり、僕が旅した中でも一、二を争う風情のあるいいところだった。