おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

あちらにいる鬼

2023-07-16 06:32:12 | 映画
「あちらにいる鬼」 2022年 日本


監督 廣木隆一
出演 寺島しのぶ 豊川悦司 広末涼子 高良健吾 村上淳
   蓮佛美沙子 佐野岳 宇野祥平 丘みつ子

ストーリー
1966年、作家の長内みはる(寺島しのぶ)は講演旅行のきっかけに、弱者に寄り添う姿勢で知られる人気作家・白木篤郎(豊川悦司)と出会う。
みはるは4歳年下の真二(高良健吾)と暮していた。
白木には、美しい妻・笙子(広末涼子)と5歳になる娘がいて、笙子のお腹には2人目の子供が宿っていた。
互いにパートナーがある身ながら、2人は強く魅かれていった。
みはるは京都に家を買い真二と別れ、東京に仕事場を借り白木と関係を続けていた。
笙子は白木とみはるの間柄を女の直感で悟っているが、繰り返される情事に気づきながらも心を乱さず、平穏な夫婦生活を保っている。
彼には別の女の存在もあり、白木の浮気は昔からのものだった。
新宿騒乱・東大闘争…激動の時代を背景に、自由奔放な上に嘘つきで自分勝手に振る舞う篤郎にのめり込んでいくみはる。
1966年のクリスマス、笙子は白木の次女を出産したが、その時も白木はみはるのもとに居た。
奇妙な関係を続けながら7年の月日が流れた時、様々な経験を重ねたみはるはある決意を固めた。
ある日、みはるは篤郎に「わたし、出家しようと思うの・・・」と告げた。
しばらくして、白木夫妻は調布市内に30年ローンを組んで土地を買った。
笙子は家を建てることを後悔しているではないかと思ったのだが、「長内みはるは出家を考えているらしいよ」という白木の呟きで、そんな考えも吹っ飛んでしまった。
1973年、みはるの剃髪式が厳かに行われ、笙子が「行きなさい、行った方がいい」と言って白木を送り出した。
剃髪式が終わったみはるに、長内寂光という出家名が与えられた。
1989年、白木は精密検査でガンが見つかり、笙子は医者からあと二週間くらいとお考えくださいと言われた。


寸評
恋多き女・みはる、女にだらしのない男・白木、何もかもお見通しの妻・笙子という三人の関係が描かれていく。
原作が井上荒野の「あちらにいる鬼」なので、みはるが瀬戸内寂聴、白木が井上光晴、妻の笙子が郁子さんであることは明白である。
したがって、名前は変わっているが、僕はみはるを瀬戸内晴美(寂聴)、白木を井上光晴として見ている。
瀬戸内晴美と井上光晴の関係は知られたものだから、僕は半ば興味本位で井上光晴の奥様を含めた三人の関係を見ていたことになる。
逆に言えば、モデルがいなければつまらない作品と思ったかもしれない。
三人を描いているが、僕はそれぞれの立場に立って深く描き込んでいるとは思えなかった。
白木と関係を持つ女性は会話の中に出てきたり、ほんの少し登場したりするが、女に溺れる白木の姿は直接的に描かれていないので、どうしてそれほど女にだらしがないのか分からない。
みはるも複数の男と関係を持っているが、そこに至る彼女の心の動きはよく分からない。
若い男と一夜を共にするが、それは白木への当てつけだったと思うのだが、それをみはるの口から白木に告げられるだけでは、みはるの気持ちが白木だけではなく僕にも伝わってこなかった。
女性を招いた講演会後の打ち上げで行われる白木のストリップ劇も唐突だし、ましてやその中の一人と出来てしまっていたことが判明しても、その女性をその後どうしたのかは不明のままだ。
女性は夫と別れてきたと言っているのだから、白木の罪深さが描かれても良かったように思う。

僕が興味を引いたのは断然妻の笙子であり、モデルがいるから尚更の存在であった。
彼女は夫が他の女性と関係を持っていると言う事には関心を持っていない女性のようで、夫と関係のあった女性とも良い関係を築いているようだし、夫の愛人が自殺未遂をすれば見舞いに行ったりする女性なのだ。
夫のつく嘘などすっかりお見通しなのだ。
みはるが出家し寂光となった時、白木が電話を入れてきてビジネスホテルに泊まっていることを告げるが、妻の笙子がそうではないことを見抜いている所などは、女の勘の鋭さを見せつけられる思いがする。
笙子はみはるの剃髪式に行ってあげるように夫の白木に告げるのだが、いったいこの女性の精神はどうなっているのだろうと思わせる。
そんな彼女でも夫の嘘に嫌気がさし浮気を試みているのだから、まったくの聖母でもないことは明らかだ。
ドラマとしてなら僕はこの笙子ひとりを描いてもらった方が興味が持てたかもしれない。
脱ぎっぷりも良く、実際に剃髪までした寺島しのぶの熱演を評価するが、僕は何もかも悟ったような笙子の広末涼子がとる何気ないそぶりと表情の演技を評価したい。

モデルがはっきりしているのだから、白木が亡くなったあとの寂光と笙子のその後の交流にも興味があったのだが、そこは描かれなかった。
白木が、「あんたとうちの嫁さんはすごく仲良くなると思うよ。俺たちがこんな関係じゃなければ」と言ったことが生きてきたように思うのだが・・・。
笙子が寂光を呼び寄せて白木を見送るシーンは、実際もそうだったろうから感動的で、この様な人間関係もあるものなのだなあと感心させられた。