おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

アリー/ スター誕生

2023-07-28 07:00:07 | 映画
「アリー/ スター誕生」 2018年 アメリカ


監督 ブラッドリー・クーパー
出演 ブラッドリー・クーパー レディー・ガガ
   アンドリュー・ダイス・クレイ デイヴ・シャペル
   サム・エリオット ラフィ・ガヴロン アンソニー・ラモス

ストーリー
ジャックはライブが終わり、鬱々とした表情を浮かべながらふらりと小さなドラァグ・バーを訪れる。
ドラァグ・クイーンたちの悪くない歌を聴きながら浴びるように酒を飲んでいたジャックの手が、ひとりの女性の歌声に惹きつけられ止まる。
その女性はアリーと言い、昼間はウェイトレスとして働きながら歌手になることを夢見ていた。
後日、自身のコンサートにアリーを招待したジャックは、無謀にもステージにアリーを押し上げる。
自信もなく緊張に震えながら、それでも必死に大観衆の前で歌ったアリー。
その歌唱力はすぐに話題となり瞬く間に有名になった。
二人は互いに激しい恋に落ち、共にライブを楽しみ幸せな時をすごした。
そこへ、レズ・ガヴロンが現れ、アリーはインタースコープ・レーベルと契約することが決まった。
こうしてソロとして少しずつ軌道に乗り始めていくアリーとは反対に、ジャックは幼少期のトラウマによる難聴とアルコール依存症に襲われていく。
兄でマネージャーを務めるボビーの忠告も聞かず、常にギリギリの精神状況でステージに立つ日々が続く。
そんな中、ツアーで訪れた故郷メンフィスで会った旧友、ジョージ・"ヌードルス"・ストーンの後押しによりジャックとアリーは結婚した。
アリーが自信をなくしそうになる瞬間でもいつもそばで支えてくれたジャックだったが、心では嫉妬を抱え酒や薬物により状態は悪化していった。
アリーはアーティストとして最高の名誉であるグラミー賞にノミネートされ、晴れの舞台で新人賞を受賞する。
拍手喝采の中ステージへ上がり感謝のスピーチを述べるアリー。
するとそこへ泥酔したジャックがステージ上へ現れた。
支離滅裂な言葉はマイクに拾われ、会場から呆れ声が発せられる。


寸評
「スタア誕生」は恋愛ドラマとして劇的なストーリーなので映画化に向いているのだろう。
この作品で4度目の映画化で、原題「A Star Is Born」におけるStarの邦題表記がスタアからスターになると、話が映画業界から音楽業界に変わっている。
それに伴って、主人公が立つ晴れの舞台もアカデミー賞の授賞式からグラミー賞の授賞式へと移っている。
オリジナルは1937年の「スタア誕生」だが、その後1954年にジュディ・ガーランドとジェームズ・メイソンが主演した「スタア誕生」、1976年のバーブラ・ストライサンドとクリス・クリストファーソンが主演した「スター誕生」がある。
話が音楽業界にかわると女性歌手にはバーブラ・ストライサンド、レディー・ガガと実力派が起用されている。

音楽映画としてブラッドリー・クーパーとレディー・ガガの歌が聞けるので、それだけでも楽しめる音楽映画だが恋愛映画としてもいい出来栄えである。
前半で描かれるジャックがアリーを見出して彼女が頭角を表す過程と、ジャックが影ながら彼女を支えアドバイスを送る姿に大人の恋を感じさせる。
アリーはジャックを信頼し、ジャックはアリーの才能を開花させようとする。
ジャックもスターなのだが、アリーは新星としてこれから大スターになりうる素材である。
音楽を通じてお互いを尊敬し合う素敵な関係で、恋愛ドラマとしてもウットリさせるのが前半部分だ。

後半になってくると二人の関係は映画的に俄然面白くなってくる。
アリーの名声が高まってくるとアルコール依存症のジャックが重荷となって来て、マネージャーのレズは「ジャックがアリーの成長には邪魔になっていて、夫婦でいることが笑いものなのだ」とはっきり伝えなければならなくなる。
それでも二人は愛し合っていて、お互いを思いやる気持ちは強い。
アリーにはジャックでさえ10年もかかったヨーロッパへのツアー参戦が計画されていて、レズはそのツアーを成功させたいので、ジャックとの共演にも反対である。
アリーはツアーを諦めジャックと一緒に過ごすことを選ぶのだが、ジャックにはアルバムが好調なので2枚目を作ることになりレズも喜んでいると嘘をつく。
ジャックを愛し過ぎているアリーの精一杯の思いやりである。
しかし、ジャックは大きく飛躍できるツアーを諦めるアリーの気持ちを知り、レズが言うように自分が邪魔になっている事を悟る。
良かれと思ってやったことが、かえって相手の負担になったり有難迷惑になったりすることはあることで、ここでのアリーの思いやりは、ジャックが取れる究極の愛の表現を引き起こす。
アリーは最後についた嘘がジャックを苦しめたと悩む。
お互いに愛し合い、お互いに相手を思いやる気持ちを持ちながらも導かれる悲劇が痛ましい。
ジャックの兄であるボビーは、アリーのせいではなくジャックの責任だったのだと慰め、ジャックとの在りし日を思い出しながら追悼コンサートで歌うアリーの姿が感動的である。
レディー・ガガは紛れもなく人気と実力を兼ね備えるミュージシャンだが、日本の人気歌手なら決して見せることはない姿態も見せて、女優としても存在感のある演技を披露しているのは立派だ。
並のアイドル映画ではない。