おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

あいつと私

2023-07-02 08:53:28 | 映画
「あいつと私」 1961年 日本


監督 中平康
出演 石原裕次郎 宮口精二 轟夕起子 芦川いづみ 清水将夫
   高野由美 吉永小百合 酒井和歌子 尾崎るみ子
   細川ちか子 中原早苗 高田敏江 吉行和子 笹森礼子
   小沢昭一 伊藤孝雄 滝沢修 渡辺美佐子 浜村純

ストーリー
都心から離れた専明大学には若さと明るさと太陽だけがあった。
黒川三郎はそういう学生の中にあって特に野放図でくったくのない男だった。
だから、授業中にうっかり「夜の女を買った」と喋ったため、女生徒の吊し上げにあい、プールに投げこまれてしまった。
びしょ濡れの三郎に、家が近くだという女生徒浅田けい子が父の服をかしてくれることになった。
けい子の家は、父親の他は女ばかり七人で、三郎を大いに歓迎してくれた。
三郎の家は反対に父母と三人暮し、母親のモト子は有名な美容師で、することなすことが並はずれてスケールの大きなスーパーレディで園城寺という恋人もいる。
父親の甲吉はその偉大な夫人のヒップの後にかくれているような気の弱い男だった。
だが、みんな型にはまらず個性的でカラッとしていてけい子は感激した。
夏休みが来て三郎やけい子たち五人のクラスメートは軽井沢にある三郎の別荘までドライブを決行した。
軽井沢についた晩、突然、モト子が円城寺と弟子の松本みち子を連れてやって来た。
けい子は、みち子の三郎に対する態度にふと不審の念を抱いた。
女の愛する者への直感で、問いつめられた三郎は、みち子と以前に関係のあったことを告白した。
けい子は泣きながら外へとびだし、後を追った三郎は、泣きじゃくるけい子に強引なキスをした。
二人の仲はこれがもとで、もっと強力な関係になった。
二学期が始まり、モト子の誕生日がやって来て、けい子、円城寺、そして、モト子の昔の友達というアメリカでホテルを経営する阿川が久し振りに日本に帰って来て出席していた。
楽しかったパーティも、阿川が三郎に“アメリカでホテルの後を継いでくれ”といったことからパーティはメチャメチャとなった。


寸評
1961年は日活にとって最悪の年だった。
スターローテーションを組んでいたがその内、赤木圭一郎がゴーカート事故で死亡し、石原裕次郎がスキー事故で入院となり、大スター二人を欠くことになった。
急遽、脇役だった宍戸錠や二谷英明などを主人公にプログラムを穴埋めしたが、二人の人気の穴埋めにはならず衰退の原因の一つとなった。
そんな裕次郎の怪我が癒えて再び映画出演するようになって主演したのが本作である。
「狂った果実」で見事な演出を見せた中平康であったが、本作は原作、脚本の影響なのか、内容はたわいのない青春物である。
60年安保闘争なども描かれているが、内容的には添え物でしかない。
むしろ闘争を行っている男たちに女学生が暴行を受けてしまい、活動家たちの欺瞞性を告発さえしている。
デモ隊が警官隊と衝突している現場に車で乗り付けるのは現実離れしているが、 小沢昭一の金沢が雰囲気にあおられてデモに参加していくシーンは70年安保を経験した身としては分かるような気がする。
僕たちの学生時代も何とか世の中を良くしたいと言う熱気と情熱はあって、権力に対して向かっていく雰囲気が渦巻いていたのだ。

映画はそんな思想性はどこへやらで、ブルジョア的な黒川を中心とした性と恋愛が描かれている。
モトコ・桜井の豪快な男性関係とおおらかな生き方。
松本みち子という黒川のセックス指導者の登場。
男に犯される女学生の顛末。
自分が望む血統の子供が欲しいだけで関係を持った母親など、話題は豊富だが中身は薄い。
そんな入り乱れた環境下で 芦川いづみの浅田けい子は純真でけがれていない。
月の小遣い(1000円と言うのが時代を感じさせる)もほとんど使わず、母親の庇護下にあるが、その母親の呪縛から逃れたいとは思っている。
やがて黒川もけい子もお互いに好意を持ち始め距離を縮めていくという何ともアッケラカンとした作品だ。
描かれている内容に反して、文部省推薦とでも言いたくなるような明るい作品となっている。
この様な作品を見せられ続けると、なんと大学とは楽しいところなのかと思ってしまい、大学へ行かないと損だという気になった。
東宝の若大将シリーズなどもそうだし、随分と罪深いものがある。

浅田けい子の妹役で、後の大スター吉永小百合が出ている。
脇役なのでセリフはあまりない。
そのまた妹が酒井和歌子で、両者のその後の活躍を知っている者には懐かしい姿である。
でも酒井和歌子って東宝じゃなかったのかなあ?
いつ移籍したのだろう?
女学生仲間には吉行和子もいるし、中原早苗、笹森礼子などの顔も見えて僕にとっては懐かしい。
今見るとバカバカしく思える作品だが、当時のプログラムピクチャを知る上ではちょうどよい作品ではないか。