おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

愛の亡霊

2023-07-05 07:21:57 | 映画
「愛の亡霊」 1978年 日本
監督 大島渚
出演 田村高廣 吉行和子 藤竜也 杉浦孝昭 小山明子
   河原崎建三 川谷拓三 長谷川真砂美 伊佐山ひろ子
   佐藤慶 殿山泰司 佐々木すみ江 小林加奈枝
   北村英三 山本麟一 三星東美 伊波一夫

ストーリー
儀三郎(田村高廣)は車引きで妻のせき(吉行和子)と幼い息子と暮らし、娘(長谷川真砂美)は奉公に出していたが、この家に若い豊次(藤竜也)が出入りするようになった。
義三郎はせきに対し、豊次はお前に気があるんじゃないかと話したが、せきは26歳も若い男となんてとまともに聞いていなかった。
豊次がせきの家を訪れると、せきは胸をはだけて息子と昼寝をしていた。
これを見た豊次はせきに関係を迫り豊次とせきは結ばれた。
義三郎が仕事をしている間に二人は関係を持つが、お互い本気になり、豊次が義三郎を殺そうと言い始めた。
豊次に惚れきったせきも同調し、焼酎を大量に飲ませ眠らせて首を絞めることにした。
義三郎の死体は二人で森の中にある古井戸に落とした。
それ以来豊次は山の落ち葉を拾っては古井戸に投げ込んだ。
この光景を西の若旦那(河原崎建三)に見られてしまった。
世間を気にした二人は今までと同じように別々に暮らし、せきは義三郎が東京へ出稼ぎに行ったと近所には言っていた。
やがて3年がたち、周囲では義三郎が帰って来ないのはおかしいと言い始めまた。
娘が帰省していて、父の義三郎が井戸の中で寒いと言っているという夢を見たと言った。
また近所の噂も激しくなり、警官の堀田(川谷拓三)も事情聴取を始めた。
そしてせきの前に義三郎の幽霊が現れるようになった。
車を引いたり、家で座っていたりと頻繁に現れ始めた。
怖くなったせきは豊次に話したが豊次には見えないと言われる。
そして古井戸の中に義三郎がいるという噂が広まりだした頃、豊次は唯一見られた西の若旦那を殺した。
警察のマークも厳しくなり、近所の疑いも強くなったことで、せきは自殺を図り、家の中に火を付けた。


寸評
当時40過ぎだった吉行和子が体当たり演技を披露している。
豊次とは26歳の年齢差となっているから、せきの年齢はもう少し上だろう。
夫の儀三郎は晩酌を済ますと車引きの仕事の疲れからか眠り込んでしまう。
せきはそんな夫に肉体を持て余し、不満を持っていたのだろう。
せきに若い豊次が近づいてくるが、26歳も若い男から言い寄られてせきもまんざらでもなかったと思う。
それは男でも女でも同じ感情だと思うが、せきはもう少し軽薄でも良かったように思う。
吉行和子は印象からして理知的に見えてしまう。
出来てしまった二人は儀三郎を殺害するが、せきが殺害を承諾する気になる描写がユニークだ。
せきは豊次によって抵抗することもなく陰毛を剃られてしまう。
豊次は陰毛がないことを儀三郎に問い詰められては二人のことがバレてしまうことになるから殺すしかないのだと説得するのである。

儀三郎の姿が見えないことが噂となり、豊次とせきは会うことを控えるが、色欲に狂った二人が人目を偲んでむつみ合った方が僕としては内容的にしっくり来たような気がする。
性に溺れていく姿がないのでサスペンス的要素が入り過ぎているように思えてしまった。
娘は巫女的な能力が備わっているのか、父親の死を予見し、ついには殺害も見抜いている。
神を思わせる娘と呼応するように儀三郎の幽霊が登場する。
儀三郎の幽霊は恨みごとを言うでもなく、呪うでもなく、ただ生前と同じような仕草を見せる。
酒を飲み、車を引くのだが、幽霊なので顔だけは雪のように冷たい白色をしている。
亡霊なので、儀三郎の幽霊はせきだけに見えても良さそうなものだが西の家のお内儀(小山明子)も見ているのが不思議に思えた。

物語の進行を告げるナレーションが入り、僕はそのことで盛り上がった気分を削がれてしまったのだが、ナレーションの内容を映像で描くことは出来なかったのだろうか。
二人は儀三郎の死体を古井戸から取り出して別の場所に埋めようとする。
その時に落葉がせきの目に刺さって失明してしまう。
ドラマチックなシーンだが、片目だけ刺さったと思うので盲目になってしまったことを不思議に思う。
生きることに絶望した二人は、自分一人が罪をかぶると言い合うようになるが、二人とも罪をかぶれば共犯と言うことになってしまい二人は死刑になる。
僕は未見なのだが、ハードコア作品としてセンセーションを巻き起こした「愛のコリーダ」の続編と思える作品で、前宣伝もそんなイメージでなされていたと思うのだが、内容はいたって平凡なものである。
儀三郎が引く車の車輪がクルクルと回るシーンから始まり、途中でもそのようなシーンが挿入されている。
僕は稲垣浩の「無法松の一生」を思わず思い浮かべたのだが、大島には「無法松の一生」へのオマージュもあったのだろうか。
大島はこの後、「戦場のメリークリスマス」、「マックス、モン・アムール」、「御法度」を撮るが、やはり性を巡るいびつな関係を描き込んでいるから、この頃からそちらへの興味が湧いていたのだろう。