おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

愛なのに

2023-07-03 06:54:39 | 映画
「愛なのに」 2021年 日本


監督 城定秀夫
出演 瀬戸康史 さとうほなみ 河合優実 中島歩
   向里祐香 丈太郎 毎熊克哉

ストーリー
とある古本屋の店主、多田浩司(瀬戸康史)はまもなく31歳になる男。
ある日、1冊の本を万引きして逃走した女子高生の矢野岬(河合優実)を追いかけ、捕まえて店に連れ帰った。
多田から万引きについて問われた岬は自分の名前を覚えてほしかったと理由を語り、唐突に「前から多田さんが好きでした。私と結婚してください」と求婚してきた。
多田は苦笑いしながら、大人が高校生に手を出すのは道理に反することだと岬をなだめた。
そして多田は岬に自分が読んでいた本を与えて帰ってもらった。
多田の店にまた岬が現れ、ラブレターを多田に渡してきた。
多田は自分には好きな人がいることを明かして岬を振り払おうとしたが、岬はお構いなく自分は高校卒業まで待つからと言い放ち、何度でも告白し続けると宣言した。
岬のラブレターは以前からかなり何通も溜まっていた。
多田が長年想いを寄せている女性は、バイトをしていた頃の同僚だった佐伯一花(さとうほなみ)だった。
多田には一花にフラれたというほろ苦い思い出があった。
ある日、多田のもとに親友の広重(毎熊克哉)から電話がかかってきて、一花が結婚することを知らされた。
一花は婚約者の亮介(中島歩)との結婚式の準備を進めていたが、実は一花の知らないところで亮介はウェディングプランナーの隈本美樹(向里祐香)と浮気をしていた。
美樹は亮介が結婚したらきっぱりと別れて二度と会わないと決めていた。
一花は亮介のスーツの中からラブホテルのライターを見つけ、亮介が浮気をしていたことに気付いた。


寸評
重なり合うところはあるが、基本的には二組の恋愛模様を描いていて、その二組の関係は両極端である。
人にある精神と肉体の関係を具現化していたと思う。
未成年との関係は出来ないと言う多田に対して、岬は「そういうことはしなくていいんです。ただ結婚して一緒にご飯食べたり映画を見たり悩みを相談したり、そういうことがしたいだけです」と答えて、精神的な結びつきを望んでいることを訴える。
一方の亮介と一花の関係は正に肉体関係を描いていたと思う。
言い方を変えると、片やメルヘン、片や現実とも言える。
多田に寄せる岬の思いは微笑ましいし、演じる河合優実は愛くるしく好感が持てる。
拒否しているようで完全に拒絶していない多田を見透かして、岬は「フラれても気まずくはない。拒絶されているとは思わないから」と平然としたものである。
狂おしいまでの片思いって存在していると思うので、岬の一途な思いは分かるのだ。

一花が婚約者の亮介の浮気を知ってからが俄然映画は面白くなる。
一花は予想を覆す行動と言動を繰り返すのだが、それが笑ってしまう内容でコメディの要素が出てくるのだ。
彼女は亮介が浮気をしたのだから自分も同じことをしていいかと言い出す。
もちろん選ぶ相手は物語を考えると多田しかいないのだが、多田の戸惑いは想像できる。
自分が多田の立場だったらやはり欲望と理性の間で悩んでしまうだろうなと思った。
思い続けていた一花から多田が要求されたことは、多田にとっては残酷なものだったと僕には思える。
死ぬほど一方的に愛した女性は、一花のような悪魔のようなことをするものだとも思う。
でも結局、多田と同じような行為をしてしまうだろうなとは思う。
そして一花はその罪を神父に打ち明ける。
一花が罪を感じているのは多田と関係を持ったことではなく、そのことを告げる場面は包括絶倒である。
困った神父は「御心のままに行動しなさい」としか言いようがない。
それを一花は「己心のままに」と解釈し事に及ぶ。
一方、亮介は浮気相手と最後の密会をし、行為が終わった後で決定的なことを言われてしまう。
この場面も又包括絶倒もので、浮気相手の隈本美樹を演じる向里祐香の演技が何とも言えず可笑しい。
完全に喜劇映画に変化しているのだが、それへの切り替えが絶妙だったように思う。

多田の手紙を見た岬の両親が押しかけてきて警察沙汰となるが、それでも岬は多田の元を訪ねてくる。
「両親は?」と聞く多田に岬は「それって、私たちに関係あります?」と逆に問い返す。
岬も「己心のままに」なのだ。
披露宴に出席した広重が多田に引き出物を届けに来て、そこに居た岬との関係を聞く。
多田は「ただの常連」と応えるが、もしかすると「多田の常連」だったのかも知れない。
その為に男の名前を多田にしていたのかもしれないなと思った。
引き出物は夫婦茶碗で、多田は女性用を岬にあげると、岬は「うれしい」と応える。
最後に再び青春映画となるエンディングには納得である。