おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

マルサの女2

2020-04-23 12:51:10 | 映画
「マルサの女2」 1988年 日本


監督 伊丹十三
出演 宮本信子 津川雅彦 丹波哲郎 大地康雄
   益岡徹 桜金造 マッハ文朱 南原宏治
   上田耕一 不破万作 高橋長英 中村竹弥
   小松方正 洞口依子 加藤治子 三國連太郎

ストーリー
地上げ屋同士の熾烈な攻防戦が吹き荒れるバブル期の東京。
オフィスビルの建設ラッシュを機に、政治家・建設業者・商社・銀行が結託して巨額の利益を上げんと欲望を燃え上がらせていた。
そんな中、代議士の漆原は宗教法人・天の道教団の管長・鬼沢に目をつける。
鬼沢は宗教を隠れ蓑に風俗業など数々の商売をし、さらにヤクザを操り地上げの嵐を吹き荒らしていた。
しかもそれらの商売による収益を宗教法人に入金して課税を免れていた。
「宗教活動での所得は課税対象とならない」という税法を盾に脱税している鬼沢に対し、やり手査察官・板倉亮子をはじめとする国税局査察部・通称マルサは内偵調査を行う。
亮子は大蔵省のエリート官僚・三島を引きつれ鬼沢の身辺調査に入ると、教団信者やヤクザ達の妨害に遭い調査は難航したが、ようやく脱税のシッポを掴んだマルサは強制調査に着手する。
鬼沢の取調べが行われるが、鬼沢は頑として脱税を認めず、逆ギレして地上げの正当性を主張する。
そんな中、鬼沢の手下が射殺される。
査察部は脱税を隠蔽するために鬼沢が「トカゲの尻尾」のように切り捨てたのではないかと疑うが、やがて鬼沢本人が狙撃される事件が発生。
危うく難を逃れたが、鬼沢も「トカゲの尻尾」、つまり使い捨てられる駒でしかなかったのだ。
鬼沢の地上げした土地ではビルの着工を前に地鎮祭が行われる。
鬼沢を背後で操って自らは手を汚すことなく利益を得た大臣・代議士・企業幹部が談笑していた・・・。


寸評
宮本信子の板倉亮子が活躍する「マルサの女」の第2弾で、娯楽性はぐーんと上がっている。
反面そのためにリアル感は薄れて、どこか現実離れしたスパイアクションの様な演出が多く見受けられる。
マルサの面々は脱税の内偵を進めているが、その内定の様子は受け狙いだ。
屋根に上って室内の様子を盗み聞ぎしたり、浮浪者を装って高性能マイクで相手の会話を傍受したりしている。
脱税側が押収された書類を奪うために、国税局に忍び込み保管室からその一部を盗み出そうとするなどだ。
まるで「007シリーズ」か「ミッション・イン・ポシブル」のような展開だ。
前作と同じなら、摘発者が違うだけで単なる二番煎じとなってしまうから、さすがにプライドの高い伊丹十三はそれを避け、今回は地上問題と宗教法人を前面に打ち出している。

1980年代後半から1992年にバブル経済が崩壊するまで、小さな地権者から土地が買い占められ、一区画にまとめられた大きな土地が高額で取引され、されにそれが転売されて巨額な利益が生み出されていた。
こうした中で、暴力団が関わり暴力的手段によって立ち退きを迫ったり、強引な手法で土地の売買を行う業者が目立つようになったので、地上げ屋という言葉はダーティなイメージを持つ。
しかし鬼沢が言うように「東京が世界と戦っていくためには大きなビルがいる。そんな土地はどこにあるんだ。政府ができない汚い仕事を俺たちが引き受けているんだ」という言い分にも一理はある。
個人の権利を強くすると、公共の利益が阻害される一面はあるのだから、個人と公共の共存は難しい。
一方の宗教法人は、その税制の有利性を悪用するための法人も多くあるようで、全国に信じられないほどの宗教法人が存在している。
信教の自由を縦にした寄付行為を悪用して巨額の資金を集めていたり、霊感商法などを行っている新興宗教法人が時々摘発されているが、それは氷山の一角なのだろう。
ここでも天の道教団が好き勝手をやっている。
鬼沢の妻で教祖とされている加藤治子が衝動買い名人として登場し、4500万円の毛皮のコートなどを買い、会館には何枚もの高級毛皮のコートを持っている。
信者からの寄付と言えば何でも通りそうなのも我々からすれば疑問だ。
それにしても今回登場する鬼沢は強烈なキャラクターで、演じた三國連太郎はやはりスゴイ役者だと再認識した。

暴力団が絡んだ地上げの手口も次々紹介されるが、これは本当に行われていたのかもしれない。
マンションの立ち退きを迫るために組事務所を開くなどの嫌がらせをしたり、立ち退きを渋る店主には脅しを入れ、トラックを突っ込ませるなどもやる。
もっともチビ政が言うように、借地人でありながら地主以上の金を得る権利の不当性は分からぬでもない。
僕の知り合いにも、借地でパン屋をしていた家族が営業権を含めた多額の立ち退き料をもらいアパートに引っ越したら、そのアパートがまた地上げにあい、わずかの居住期間で再び多額の立ち退き料を手にした人がいる。
この頃の金を巡る騒乱はひどいものがあり、この作品もその非合法性を描いている。
それでも最後は巨悪は眠らずのような結末で、庶民派代表の僕はは絶望感を感じてしまった。
土地バブルは治まったが、マネーをめぐる狂乱は景気に係わらず存在していて、資金を持たない僕は傍観しているしかない。