おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

万引き家族

2020-04-24 09:25:44 | 映画
「万引き家族」 2018年 日本


監督 是枝裕和
出演 リリー・フランキー 安藤サクラ
   樹木希林 松岡茉優 城桧吏
   佐々木みゆ 池松壮亮 柄本明
   緒形直人 高良健吾 池脇千鶴

ストーリー
再開発が進む東京の下町のなか、高層マンションの谷間にポツンと取り残されたように建つ古びた平屋の一軒家があり、そこに治(リリー・フランキー)と妻・信代(安藤サクラ)、息子・祥太(城桧吏)、信代の妹・亜紀(松岡茉優)、そして家の持ち主である母・初枝(樹木希林)の5人が暮らしていた。
治は怠け者で甲斐性なし。
彼の日雇いの稼ぎは当てにならず、一家の生活は初枝の年金に支えられていた。
治と息子の祥太は、生活のために“親子”ならではの連係プレーで万引きに励んでいた。
その帰り、団地の廊下で凍えている幼い女の子ゆり(佐々木みゆ)を見つける。
思わずゆりを家に連れて帰ってきた治に、妻の信代は腹を立てるが、女の子の体が傷だらけなことから境遇を察し、面倒を見ることにする。
翌日、治は日雇いの工事現場へ、信代はクリーニング店へ出勤する。
学校に通っていない祥太も、ゆりを連れて"仕事"に出かけ、駄菓子屋で店主(柄本明)の目を盗んで万引きするが、店主は祥太の万引きを知っていた。
亜紀はマジックミラー越しに客と接するJK(女子高生)見学店で働き、"4番さん(池松壮亮)"と名付けた客と共鳴するものを感じる。
ある日「5歳の女の子が行方不明」というニュースが流れ、ゆりは「じゅり」という名前だったことが分かるが、じゅりは「りん」と名前を変え元の家に帰ることを拒否する。
それでも一家には、いつも明るい笑い声が響き、家族全員で電車に乗って海に出かけることもあった。
だが祥太だけは"家業"に疑問を持ち始めていたのだが、そんな時、ある事件が起きる・・・。


寸評
この一家は疑似家族である。
信代は、ゆりが帰りたいと言えば戻すつもりだったが、ゆりはこのまま一家と暮らすと言う。
この一件を通して一家の絆がより鮮明になり、信代も絆は自分で選んだ方が強いのだと語る。
彼ら6人が本物の家族に見えてきたところで、どうやら血のつながりがないことががわかってくる。
それを通して「家族とは何か?」「血のつながりがなければ家族ではないのか?」といった問題が観客に提起されてくる。
ゆりの母親は「産みたくて産んだんじゃない」とわめいていたが、そんな親より信代のほうがよほど母親らしい。
信代が母親らしいのには理由があって、それには過去の犯罪が絡んでいて、祥太も関係していることが判明するというひねったものだが、結論は「血のつながりがなくても家族として成り立つ」という単純なものだ。
実際、この家族は幸せそうなのだ。

この映画にはミステリーとしての要素も内在しているのだが、信代とゆりが同じ傷を負っていることが示されるシーンとか、初枝と亜紀の関係が明らかになるシーンなどは観客をもっとハッとさせても良かったのではないか。
治や信代の過去が明らかになる場面でも劇的な演出は避けている。
この家族を静かに描きたいと言う是枝監督の演出だったのだろうか。
初枝は亜紀の実家をある理由から訪問しているのだが、幸せそうで理想的な家庭に見える。
しかし、両親は亜紀の実態を全く知らないでいる虚構の幸せの中にいる。
亜紀は今いる家庭に幸せを感じていて、両親がいる家庭を捨てているのだ。
この家庭の全容が明らかになる過程もドラマチックな演出を排除しているから、やはり是枝の意図を感じる。

治も、信代も人がいいし、人に対する優しさも持ち合わせている。
貧困ということ、万引きという犯罪を繰り返していることを除けば、いい家族なのだ。
家族で電車に乗って出かけた海辺のシーンは祖母の初枝が幸せを感じるシーンとなっている。
樹木希林のアップが映し出されるが、その口元は「ありがとう」と言っているように見える。
信代も家族を作ったことで得たものは、比べることなどできないほど大きかったと言う。
家族ほど煩わしいものはないが、家族ほど大切なものもないのだ。
最後に描かれる後日談で、単純な結末を示していないのがいい。

僕は犯罪一家の物語として、大島渚の「少年」を思い出していた。
あちらは"当たり屋"一家を描いていたが、うけた衝撃と映画としての迫力は「少年」の方が勝っていた。
随分と前の映画なので、僕の中で誇大化しているのだろうか?
「万引き家族」、僕は途中で少しダレたが、後半、よく盛り返したと思う。
でも是枝裕和監督の最近は水準以上の作品を撮って頑張っていると思っている。
ハズレがなくなってきたのは嬉しいことだ。
映画監督は脚本も書けないといけないと思うのだが、この作品は是枝裕和がすべて一手に引き受けていて、そのことも評価できる。