おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

箱入り息子の恋

2020-01-07 08:58:08 | 映画
「箱入り息子の恋」 2013年 日本


監督 市井昌秀
出演 星野源 夏帆 平泉成 森山良子
   大杉漣 黒木瞳 柳俊太郎
   竹内郁子 佐山こうた 中林薫平
   柴田亮 高橋一路 神原哲
   武井哲郎 古舘寛治

ストーリー
35歳の健太郎(星野源)は市役所勤めをしながら、部署の中でも目立たずひっそりと過ごす。
趣味は貯金でペットはカエル。酒も飲まず、タバコも吸わず、ギャンブルもしなければ、女遊びもしない。
35歳にして彼女いない歴35年。これじゃ童貞でも何の不思議もない。
見かねた健太郎の父・寿男(平泉成)と母・フミ(森山良子)は、親同士が婚活する"代理見合い"に参加。
そこで知り合った裕福そうな今井晃(大杉蓮)とその妻・玲子(黒木瞳)の一人娘・奈穂子(夏帆)と正式にお見合いするチャンスをつかんでくる。
実は奈穂子は、8歳のとき視力が落ちていく病気にかかり、今ではまったく目が見えていなかった。
そんなことは知らずに一人息子の初めてのお見合いに舞い上がる雨雫家と、健太郎を全く気に入っていない今井家の波乱含みのお見合いは幕を開ける。
父親は健太郎が気に入らず「お前に菜穂子が守れるのか」と怒鳴ってしまい、健太郎を見下げた発言に健太郎の母親もブチ切れてしまう。
見合いは失敗に終わったかに思えたが、菜穂子と母は健太郎が気に入ったみたいで、デートを重ねることに…。
清楚で美しい菜穂子に健太郎は生まれて初めて恋に落ちる。
菜穂子の目が見えないことはものともせず、好きという感情を爆発させる健太郎。
真剣だからこそぶざまで、滑稽だからこそ心に刺さる"35歳の童貞男"が突っ走る。たった一度の恋の行方は果たして――。


寸評
自分の人生を諦めてしまっている健太郎が、恋の力で自分の殻を破って成長する話だ。
引っ込み思案で根暗な男、会話に入れず浮いている感じの奴、あるいは引きこもり。
そんな現代病ともいえる男は、自分の周りを見渡すと案外と存在していることに気がつく。
結婚できない(しない)男と女が増えているらしい。
出会いの場がないのか、する気がないのか、初婚年齢は男性が30歳を超え、女性も29歳を超えたということらしい。
結婚していない男だってニュースの世界は本当で、自分の周りにも案外と存在していることに気付かされる。
単に金銭的な問題だけが原因でないような気がする。
社会の在り方、価値観の変化、自由と個性と権利だけを教え込んだ教育など根深いものが有るように思う。
いや、これは私だけのうがった見方なのかもしれない。

主人公の健太郎は会社(市役所)と自宅を往復するだけで、老後のための貯金だけは真面目に行ってはいるが、まるで世捨て人の様な生活を送っている。
この映画では、健太郎のような男を目覚めさせるのは、やはり恋の力だったのだと言いたげだ。
しかし、健太郎が本当に目覚めたのは恋ではなく、自分自身に対する自信だったのだと思う。
健太郎は自分の意見を持っていないわけではない。
見合いの席上で菜穂子の父親に堂々と意見する。
それをいつでも出せばと思ったりするのだが、社会の中ではそれがなかなか出来ないのだろう。

恋愛下手な主人公が、不器用ながらも関係を深めていくエピソードの数々は、自分の青春時代の恋愛体験を思い出させて胸キュン状態になる。
目の不自由な女性に初めての恋をするとなれば、これは純愛映画のパターンなのだが、本作はそうはならない。
随所に散りばめられた笑いが、話を深刻にせず、ある種の冗談も内包した青春時代の恋愛に専念している。
したがって、菜穂子の母親である玲子は夫でもある父親の私生活の影の部分をなじったりするが、そのことを描くことはしていない。
そういった重たくなるような深刻問題はあえて省略している。

主人公達は青春というには年齢がいき過ぎていると思うのだが、描かているのは正に青春映画だ。
最後は少しハジケ過ぎではないかと思うのだが、このスタンスが恋の喜びや悲しみ、切なさや滑稽さを写し出した青春ドラマに昇華させていたのだろう。
もっとも、娘のあの場面を見たら私でも同じような行動を取ったと思うが…。

吉野家の牛丼並盛280円で、しんみりさせられ、涙を流してしまえるなんて、やっぱ、映画はスゴイ!
牛丼が食べたくなった。
ラストシーンも大いに余韻を残し、二人を応援したくなる気持ちを持たせて、単純なハッピーエンドで終わらせていないところも良かったと思う。