おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

奕打ち 総長賭博

2020-01-03 18:04:50 | 映画
「奕打ち 総長賭博」 1968年 日本


監督 山下耕作
出演 鶴田浩二 藤純子 若山富三郎
   桜町弘子 名和宏 曽根晴美
   佐々木孝丸 三上真一郎 沼田曜一
   香川良介 中村錦司 服部三千代
   金子信雄 曽我廼家明蝶

ストーリー
昭和九年。江東地区に縄張りを持つ天竜一家の総長荒川が脳溢血で倒れ、跡目相続が問題になった。
六人衆中井組組長信次郎(鶴田浩二)は二代目を推挙されたが辞退、兄弟分の松田(若山富三郎)を推した。
しかし、松田は服役中で、荒川の舎弟分の仙波組長(金子信雄)は荒川の娘婿の石戸(名和宏)を指名し、信次郎の反対を押し切って、石戸が二代目を継ぐことを決定した。
その二代目披露の大花会が行なわれる一ヵ月前、松田が出所した。
事の次第を聞いた松田は兄貴分の自分をさしおいての石戸二代目決定に怒り、信次郎の妹で松田の女房である弘江(藤純子)や、子分の音吉(三上真一郎)の制止もきかず、石戸に殴り込みをかけたのだった。
このため松田は謹慎に処せられてしまった。
仙波は松田を失脚させ、石戸を抱き込んで荒川一家を乗っ取ろうという腹づもりだった。
松田の気持ちを理解できる信次郎は花会を取仕切るという責任があり、女房のつや子(桜町弘子)が、松田と音吉が再度石戸組に殴り込むのを阻止できなかった責任を取って自害した時、ついに松田と兄弟分の緑を切らねばならなかった。
松田はそうした信次郎の気持ちを知りながらも、石戸の二代目披露を叩き潰すのが最後の意地だと言った。
やがて花会の日。石戸は信次郎から、仙波が荒川一家を政界のボス河島(佐々木孝丸)の握る国志会に組込もうとしているのを知らされ、反対した。
そのため、松田に襲われて傷を受けながらも跡目相続を済ませた石戸は、その直後に仙波組代貸の野口(沼田曜一)に殺されてしまった。
仙波を鋭く追及した信次郎は、逆に自分が松田と結託して石戸を殺したと濡れ衣を着せられ、荒川一家存続のために松田を斬って身の証しを立てねばならなかった。
松田を斬った信次郎は、その刀をひっさげて、荒川一家を売ろうとする張本人の仙波に迫った。


寸評
任侠映画と称される作品群の中では群を抜く構成力を持った作品で、95分という上映時間に関係なく大作に劣らぬ重量感を感じさせる作品となっている。
笠原和夫の脚本が素晴らしく、山下耕作の演出も堂々としていて彼の1本を挙げるとすればこれだろう。
意地、義理、人情が絡み合って登場人物たちが悲劇に向かって吸い寄せられていく様は息をつかせない。
娯楽作品であるのに息をするのを忘れさせ、見終ると肩の力が抜け大きなため息が出る作品となっている。
五厘下りだの一分上がりだのヤクザ社会の序列が語られるが、その仕組みが分からなくても意味することは感覚として感じ取れ、若山富三郎の意地は男の僕には十分すぎるくらい理解できるものである。
中井と兄弟分であり、中井の妹である弘江を妻に持つ松田は、次期総長に自分がなるのが筋のところだが、兄弟分の中井がなることを納得できても、弟分の石戸がなることに我慢がならない。
異論を唱える若山富三郎=松田の意地が画面にほとばしる。
一家への忠誠心と松田との友情の板挟みになるのが鶴田浩二=中井である。
中井は何とか八方丸く収まるように苦心するが、双方に利益がもたらされ、お互いの顔が立つように収めることは至難の業であることは、サラリーマン社会でその任に当たった経験のある者なら思い当たるふしがあるはずだ。
意地を押し通す若山の面構えと、間で苦悩する鶴田の苦み走った表情が画面を引き締める。
両雄が向かい合って対決するシーンは圧巻である。
着物姿の鶴田と、上半身裸で入れ墨を施した若山を、カメラはローアングルに構えて二人をとらえ続け2分半以上に及ぶカット割りがない長回しである。
この映画の名場面の一つと言っていいだろう。

もう一つ名場面を挙げるとすれば落とし前をつけて自ら命を絶った中井の妻つや子の墓参シーンである。
墓前にたたずむ中井と立ち尽くす弘江と中井の子分たち。
さした和傘を突き破るような雨が降りしきる。
そこに松田が現れ一触即発となるが弘江の必死の訴えでそれぞれが思いとどまる。
着物は雨でずぶ濡れで、彼等の心の内を表しているようだ。
弘江の死は本格的な悲劇の幕開けだが、序章はあった。
松田の気持ちを察した子分の音吉が石戸殺害に失敗しどうにもならなくなるが、松田は子分の音吉を見捨てることが出来ないという情けを見せる。
音吉は弘江の店「千鳥」の使用人である久美との愛よりも、松田に対する恩義を重要視し、世話になり仲良くしていた中井組の岩ちゃんを殺してしまうハメになっているのである。

騙されて二代目総長になった石戸の名和宏はもっぱら悪役専門のような俳優だったが、ここではそんなキャラクターを生かす微妙な立ち位置で、悪者かと思うとそうでもなく、案外といい奴なんだと思わせる描き方がいい。
中井が妹の弘江から「人殺し・・・」と言われ、それが最後の決め台詞にうまく結びついているのもいい。
意地と義理の板挟みにあっていた中井の殴り込みだけに、大勢との立ち回りはなく仙波から「それがお前の任侠道か」と言われ、「そんなものは俺にはねえ、俺はただのケチな人殺しだ」と言ってドスを突き立てる。
もがき苦しんでも人の力ではどうにもならず、見えない力でひたすら悲劇に向かう壮大なドラマでもあった。