おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

花とアリス

2020-01-24 11:23:43 | 映画
「花とアリス」 2004年 日本


監督 岩井俊二
出演 鈴木杏 蒼井優 郭智博
   相田翔子 阿部寛 平泉成
   木村多江 坂本真
   大沢たかお 広末涼子

ストーリー
おてんば娘アリス(蒼井優)と、一見おとなしい少女ハナ(鈴木杏)。
中学卒業を控えた2人は同じバレエ教室に通う親友。
ハナは高校生の宮本(郭智博)に秘かな想いを寄せていて、宮本を尾行しては隠れて写真を撮りまくっていた。
やがて彼女とアリスは宮本と同じ高校へ進学する。
一目惚れした先輩・宮本と同じ落語研究会に入部した高校生のハナ。
”寿限無”の完全制覇に余念がない宮本は、ある日いつものように歩きながら落語の本を読んでいて、シャッターに頭をぶつけ転倒してしまう。
後をつけていたハナは慌てて駆け寄るが、宮本が記憶喪失らしいと知ると、とっさに恋人のフリをしてしまう。
一方、アリスは街でタレント事務所にスカウトされたが、なかなかオーディションに受からない。
ハナは自分のついた嘘の為に、アリスを宮本の元彼女役=共犯者として巻き込んだ。
ところが、このことがきっかけで宮本はアリスに好意を寄せるようになり、アリスもまた宮本に心惹かれるようになっていく。
ハナに隠れてデートを重ねるアリスと宮本。
しかし、そんな関係がいつまでも続く筈がなく、アリスはハナの為に身を引くが、ハナの嘘も宮本にばれ、彼女は失恋するのであった・・・。
その後、オーディションでバレエを披露し合格したアリスがファッション誌の表紙を飾り、それを機にハナとアリスは仲直りする。


寸評
鈴木杏と蒼井優が等身大の女子高生を演じて瑞々しい。
時にコミカル、時にファンタジー、時にシリアスに青春を切り取っていく岩井俊二の演出が素晴らしい。
仲の良い女の子ってこんなだろうと思わせる。
オープニングは寒い朝だ。ふたりの吐く息が白く早朝と思われる。
中学生の彼女たちは電車通学をしているが、学校の最寄り駅を乗り過ごして、憧れる男子高校生と同じ電車に乗り換えて引き返してくる。
そのための乗越なのだが、冒頭のこの場面で女の子ワールドに一気に引き込まれてしまう微笑ましいシーンだ。
異性である岩井俊二がこのような雰囲気を描き出すことに感心してしまう。

ハナが宮本と雨の中を走るシーンで繋いだ手から泡が吹き出す場面があるが、その後に宮本はハナとの関係を疑い出していたから、あれは二人の仲がバブルで中身のないことを表していたのだろうか?でもこういうシーンは映画的だ。
アリスの両親は離婚していて、同居している母親(相田翔子)は片付けもできないし、新しい男(阿部寛)の前ではアリスを他人のように扱う。
アリスは父親(平泉成)と会って入学祝いに万根筆をもらうのだが、ここでの父が語る万年筆論は味がある。
父親はインクが切れたりすると面倒になって使わなくなるが、なかなか捨てきれないのが万年筆だと言うが、それはまるで娘と父との関係のようでもあった。
鎌倉で父親と過ごす時間に、上記の万年筆に始まり、うな重、ところてん、トランプマジック、携帯電話などの小道具が登場するが、それぞれが微妙に絡んでくるのもいいと思う。
アリスが別れ際に電車の中から「ウォーアイニー」と言うと、父親は「サイチェンだ」と返す。いい場面だ。

元カノとして宮本とデートを重ねるうちにアリスも初めてのデートの場所だとか、初めてキスをした場所だとか嘘をつき始める。
そのことでアリスの宮本に対する気持ちの変化を表していたが、あることで嘘をついていたことがバレてしまう。
その時の蒼井優はたまらなくいい。
たまらなくいいといえば、彼女のバレーを踊るシーンも素敵だ。
前半に同じ高校の女生徒がバレエ教室の生徒たちを写真に撮るシーンがあって、あどけなさの中でエロチックでもありちょっと幻想的とも言えるシーンがある。
その時の華やかさとは違って、この時は凛としたバレーだ。
ミニスカートで踊らされ、「中が・・・」と言われるが「減るもんじゃありませんから」と踊り続ける。
皆が見とれるが編集現場担当者(広末涼子)は私用電話で外にいる。
彼女が戻ってきたところで演技は終わり、ピタリとポーズが決まる。
このシーンのためにバレーができる蒼井優がキャスティングされたと聞く。
長いシーンだが最後の盛り上がりを見せた。
大森南朋、テリー伊藤、虻川美穂子、叶美香、アジャ・コング、ルー大柴、大沢たかお、木村多江などがちょっとした役で出るわ出るわで、これは岩井俊二監督の交遊録だったのだろうか。