おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

パッチギ!

2020-01-18 13:30:37 | 映画
「パッチギ!」 2004年 日本


監督 井筒和幸
出演 塩谷瞬 高岡蒼佑 沢尻エリカ
   楊原京子 尾上寛之 真木よう子
   小出恵介 波岡一喜 オダギリジョー
   光石研 加瀬亮 キムラ緑子
   余貴美子 大友康平 前田吟
   笑福亭松之助 ぼんちおさむ

ストーリー
1968年の京都、敵対する朝鮮高校に親善サッカー試合を申し込みに行くよう、担任の布川(光石研)に言われた府立東高校2年生の康介(塩谷瞬)は、そこでフルートを吹く女子高生・キョンジャ(沢尻エリカ)に出会い、一目惚れする。
ところが、彼女は朝高の番長・アンソン(高岡蒼佑)の妹だったのだ。
それでも諦め切れない彼は、彼女が演奏していた『イムジン河』をギターで練習し、帰国船で祖国に帰る決意をしたアンソンを祝う宴会の席で彼女と合奏し、見事、仲良くなることが叶うのであった。
しかしその一方で、アンソンたち朝高と東高空手部との争いは激化するばかり。
遂に、アンソンの後輩・チェドキ(尾上寛之)が命を落としてしまう。
悲しみの通夜に参列した康介は、遺族から日本に対する恨みをぶつけられ、未だ民族間に越えられない壁があることを痛感しショックを受ける。
だがその夜、ラジオの“勝ち抜きフォーク合戦”に出演した彼は、複雑な心境を放送禁止歌の『イムジン河』に託して熱唱。
果たして、それはキョンジャの胸に届き、同じ頃、東高空手部との戦争に臨んでいたアンソンもまた、恋人・桃子(楊原京子)の出産の報せに少年の季節が終わったことを自覚するのであった・・・。


寸評
70年代に青春を送った人間としては、冒頭のオックスのコンサート・シーンで引き込まれてしまうのだ。
彼等は演技でやっていたんだけれども、舞台で失神し、それに触発された観客の女の子達が相次いで失神するという事があり、そしてグループ・サウンズからフォークへと移り変わって行った時代だった。
ザ・フォーク・クルセダーズ(略してフォークル)の唄った「イムジン河」は発売中止、放送中止になったにもかかわらず非常に良く覚えている歌で、当時の自分の年齢や社会的状況が記憶させていると思う。

この映画における「イムジン河」が果たす役割は大きい。
南北統一の象徴でもあるが、日本と朝鮮との理解、引いては松山とキョンジャの恋の象徴でもある。
確かに日本人と朝鮮人との間には感情的な溝が厳然として存在しているのも事実で、その意味では松山とキョンジャの恋は、ロミオとジュリエットの悲恋に通じるものがあるし、ダンスナンバーを喧嘩に置き換えれば、キャッチコピー通りの日本版「ウエストサイドストーリー」なのかも知れない。
しかし、僕は複数のエピソードが密接に絡み合いながら進行して行く画面に引き寄せられた。
京都府立東高校と朝鮮高校の対立と喧嘩の数々、松山と坂崎との交流、朝鮮高校の番長・アンソンと恋人(楊原京子)の妊娠、そして松山とキョンジャの恋の行方などが途切れることなく展開される。

映画は在日のアボジ(笹野高史)が、「お前ら日本人は何も知らん」と叫ぶ辺りから抜群の盛り上がりを見せる。
この映画の中では、松山がキョンジャと丸山公園で「イムジン河」を演奏するシーンと共に非常に印象に残るシーンだ。
「生駒トンネルは誰が掘ったか知ってるか」「国会議事堂の石は何処から運ばれてきたか知ってるか」とたたみかけられ、松山が答えられずに茫然と去って行かざるを得ないシーンだ。

僕は生駒山の近くで育ったので生駒トンネルという単語が気になった。
僕の育った家は寝屋川の川べりにあって、当時は高い建物もなかったから、夜になると生駒山を近鉄電車の車内灯が一本の細い筋となって横切っていくのが見えた。
やがてそれは生駒トンネルに吸い込まれて消えていくが、夜目にはまるで空中を飛ぶ蛍のようだった。
1910年の「韓国併合」からわずか10ヶ月後に開始された旧生駒トンネルエ事の現場に朝鮮人労働者が従事し1913年1月26日午後、トンネル内部で大落盤事故が発生。労働者150人前後が閉じこめられ、20人が犠牲になったらしいのだが、祖母の話には朝鮮人労働者のことはなくて、トンネルに其の時の幽霊が出るらしいとの内容だったように記憶している。

いずれにしても、朝鮮人の日本人への感情を吐露したそのシーンが、そして鴨川を挟んでの大乱闘シーンが、ラストの微笑ましい光景を際立たせていたと思う。
乱闘は引き分けで終ったようだが、彼らにとって鴨川はイムジン河だったのかも知れない。
井筒監督作品としては喧嘩に明け暮れる、非常に元気の出る「岸和田少年愚連隊」が好きだけれど、その荒々しさが消えた分、より洗練された良質の青春ドラマを見せてもらったと思う。
KBSのディレクター役の大友康平など、出演シーンが少ない脇役陣がしっかりしていた印象がある。