おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

バベットの晩餐会

2020-01-27 09:00:31 | 映画
「バベットの晩餐会」 1987年 デンマーク


監督 ガブリエル・アクセル
出演 ステファーヌ・オードラン
   ビルギッテ・フェダースピール
   ボディル・キュア
   ビビ・アンデショーン
   ヴィーベケ・ハストルプ

ストーリー
19世紀後半、デンマークの辺境の小さな漁村に、厳格なプロテスタント牧師(ポウエル・ケアン)の美しい娘、マーチーネ(ヴィーベケ・ハストルプ)とフィリパ(ハンネ・ステンスゴー)は住んでいた。
やがてマーチーネには謹慎中の若い士官ローレンス(グドマール・ヴィーヴェソン)が、フィリッパには休暇中の著名なオペラ歌手アシール・パパン(ジャン・フィリップ・ラフォン)がそれぞれ求愛するが、二人は父の仕事を生涯手伝ってゆく決心をし、歳月がたち父が亡くなった後も未婚のままその仕事を献身的に続けていた。
そんなある嵐の夜、マーチーネ(ビアギッテ・フェザースピール)とフィリパ(ボディル・キェア)のもとにパパンからの紹介状を持ったバベットという女性(ステファーヌ・オードラン)が、訪ねてきた。
パリ・コミューンで家族を失い亡命してきた彼女の、無給でよいから働かせてほしいという申し出に、二人は家政婦としてバベットを家におくことにした。
やがて彼女は謎を秘めつつも一家になくてはならない一員となり、祖国フランスとのつながりはパリの友人に買ってもらっている宝くじのみであった。
それから14年の月日が流れ父の弟子たちも年老いて、集会の昔からの不幸や嫉妬心によるいさかいの場となったことに心を痛めた姉妹は、父の生誕百周年の晩餐を行うことで皆の心を一つにしようと思いつく。
そんな時バベットの宝くじが一万フラン当たり、バベットは晩餐会でフランス料理を作らせてほしいと頼む。
姉妹は彼女の初めての頼みを聞いてやることにするが、数日後、彼女が運んできた料理の材料の贅沢さに、質素な生活を旨としてきた姉妹は天罰が下るのではと恐怖を抱くのだった。
さて晩餐会の夜、将軍となったローレンス(ヤール・キューレ)も席を連ね、バベットの料理は次第に村人たちの心を解きほぐしてゆく。
実はバベットは、コミューン以前「カフェ・アングレ」の女性シェフだったのである。


寸評
宗教映画の様相を呈していて、キリスト教に馴染んでいない僕はその信仰の奥にあるものがよくわからない。
信仰に根付いた精神文化が理解できれば、この映画から受ける印象はまた違ったものになっていただろう。
貧しそうな村に住んでいる姉妹が結婚もしないで奉仕活動を続けているが、その姉妹にも若い頃に恋愛経験の様なものがあったことが描かれる。
すごく抑えた色調と、二人の恋模様が表面的にしか描かれていないのでなおさら宗教的なものを感じてしまう。
若い士官ローレンスとの係わり合いの経緯、およびそのローレンスが姉妹の父親である牧師から受けた教示を役役立たせて出世していく経緯があっさりと描かれる。
歌唱指導したオペラ歌手のアシール・パパンとの交流はオペラもどきで描かれる。
突如その演出で恋心が歌いあげられ、二人の関係はいわゆる悲恋で終わるのだが、その経緯もそのことに主眼が置かれていないので手紙を預けるだけで終わってしまう。
パパンはまるでバベットを二人の家政婦として送り込むためだけに登場してきた人物の様な扱いである。

さてここからバベットの家政婦としての生活が始まる。
長い年月の間にバベットのやりくりで姉妹の生活が金銭的にも時間的にもゆとりあるものになってきたことが描かれ、バベットがこの村に溶け込んだことが分かる。
食べ物の施しを受けていた人たちがバベットの料理に慣れて、姉妹の味には戻れないことがチラリと示されるのもその事の一端だ。
バベットはフランスからデンマークに亡命してきた女性で、姉妹はバベットがいつの日かフランスに帰ってしまうのではないかと思っているので、バベットが宝くじに当たった時に「神は与え、そして奪っていく」とつぶやく。
姉妹の気持ちを表す、なかなか気のきいたセリフだ。

そしてここから題名になっているバベットによる晩餐会の準備が始まり見せ場に突入していく。
見せ場であることに違いはないが、その見せ場はドラマチックなものではなく、ここでも映画は静かだ。
バベットの用意する食材を見た姉妹を含む村の人々は恐れおののき、晩餐会では料理の話はしないでおこうと相談するが、そんな打ち合わせがされているとは知らない、今は将軍となって出席することになったローレンスが加わったことで、彼の料理に関するうんちくと村人のからみが愉快に繰り広げられる。
創作料理も含めて本物の食材を使った本格的な料理が提供され始めると、俄然参加者の顔が和んでくる。
美味しいものを食べると人の気持ちは自然と和やかなものになるものなのだろう。
大したものを食べているわけではないが、僕だっておいしい料理とワインがあれば幸せな気分になる。
バベットは十数年間披露することがなかった料理の腕を存分にふるう。
バベットは「芸術に貧しさはない」と言い切り、人にとって持てる才能を発揮する場所に出合うことが幸せなことなのだと告げる。
長い人生で選択を迫られることは数多くあるだろうが、どの選択をするかが重要なわけではない。
何を選択してもその前には無限の可能性が広がっているのだ。
僕は何がしたいとかで入った会社ではなかったが、与えられた場所で持てる力をすべて発揮出来たと思えていることに幸せを感じている。