おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

母なる証明

2020-01-26 10:40:22 | 映画
「母なる証明」 2009年 韓国


監督 ポン・ジュノ
出演 キム・ヘジャ
 ウォンビン
   チン・グ
 ユン・ジェムン
   チョン・ミソン

ストーリー
とある静かな町。漢方薬店で働く母(キム・ヘジャ)は、一人息子のトジュン(ウォンビン)と2人暮らし。
ある日、トジュンが猛スピードの車にはねられる。
幸い軽傷で済んだトジュンは、友人のジンテとともに逃げた車を追いかけ、乗っていた男たちを襲う。
警察署ではトジュン、ジンテ、車の男たちが捕まり、絞られていた。
迎えに来た母は、息子を心配し、ジンテとは付き合わないように忠告する。
ある日、ジンテに待ち合わせをすっぽかされたトジュンが酔って歩いていると、1人の女子高生に出会う。
声を掛けるトジュンだったが、返事の代わりに石が飛んでくるのだった。
翌朝。ビルの屋上でその女子高生の無残な遺体が発見される。
数年ぶりの殺人事件にいきり立つ警察は、大規模な捜査を展開。
数日後、トジュンが名前を書いたゴルフボールが現場に落ちていたことから、容疑者として逮捕されてしまう。
母も息子の無実を警察に訴えるが、全く相手にされない。
やむなく母は、自分で真相を突き止めることを決意。
まず疑ったのは、事件当夜トジュンが会い損ね、ゴルフボールの件をしっているジンテ。
ジンテの留守宅あった怪しいゴルフクラブを警察に届けたところ、それは凶器ではなく却ってジンテとの関係を悪化させてしまうが、会話の中で事件についての疑問が生じる。
死体を隠すなら埋めるのが普通だが、女子高生の遺体は、これ見よがしに屋上に置かれていた。
しかも、彼女には以前から色々な噂があった。
彼女を調べる必要があるのではないか?土砂降りの雨の中、遺体発見現場へ走り出す母。
そこは町中が一望でき、遺体を隠すには目立ちすぎる場所だった。
息子を救うべく、母は1人で走り出す……。


寸評
「殺人の追憶」「グエムル -漢江の怪物-」のポン・ジュノ監督作品とあって変化に富んだ結末を迎え驚かされる。
最初はだれるところもあったが結末に向かってそれまで鬱積していたものが一気に吐き出されるように結末に向かって動き出す。
これでもか、これでもかの展開で唸らされ、流石にポン・ジュノ監督と思わせた。

プロローグで小高い丘の上で踊るキム・ヘジャの姿が映し出され、何がなにやらわからない不思議なシーンに引き込まれているうちに、場面が変わると漢方薬店で薬草を切る彼女の姿が映し出される。
映画の常套としては最後にオープニングのシーンが何であったのかが明かされるはずだからと記憶の隅にとどめて見始める。

トジュンは少し知恵遅れで記憶力も乏しい。
こめかみをグルグルと押しつけたりすると記憶力が戻ることがあるらしい。
ゴルフ場で拾ったゴルフボールや、ジンテが拾いに戻るゴルフクラブ、時間設定などが何気なく伏線としてまき散らされる。
トジュンは知恵おくれではあるが、バカと言われると怒りだし笑いを誘うが、それも重要な伏線となっている。
その伏線の多さが前半部分の展開の遅さになっていたと思うのだが、結末のためだったとわかるとその不満は一気に解消される。
特にトジュンが母との間にあったことを突如思い出すあたりから盛り上がりだす。
この盛り上がりがこの映画を単なる母ものにしていないし、単なる冤罪はらし映画にしていない点だった。
アジョン殺しの真犯人が判明するあたりは衝撃で、なぜ彼女が街のすべての人が目にすることができる屋上で殺されたのかも明らかになる。

なりふりかまわずに、息子の悪友や被害者の女子高生の周辺を追いかけ、執念で真相を探ろうとする母親。
二転三転する展開はまったく先が読めず、緊張感の途切れないスリリングな展開はサスペンスとしての面白さをどんどん増していった。
このあたりは韓国映画の特性なのか、ポン・ジュノ監督の力量なのか、エンタメ性にすごく飛んでいる。

そして息子を守るためにとる母親の狂気じみた捜査と行動。
それを知らないトジュンが無意識のうちに再び知る母親の秘密。
彼はあるときそのことを突如思い出すであろうことが暗示されているようでもあった。
バスの中で自身の太ももに針を打ち踊り狂う母の姿は衝撃的だった。
母親の愛は海より深いと言うが、その盲目的な愛は恐ろしいまでの愛であることも事実なのだと迫ってきた。
これはミステリー映画であるとともに哲学映画でもあったと思う。
まだまだスゴイぞ、韓国映画の秘めたるパワー。