おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

反撥

2020-01-31 11:37:36 | 映画
「反撥」 1964年 イギリス


監督 ロマン・ポランスキー
出演 カトリーヌ・ドヌーヴ
   イヴォンヌ・フルノー
   ジョン・フレイザー
   イアン・ヘンドリー
   パトリック・ワイマーク

ストーリー
キャロルは姉のヘレンとロンドンのアパートで暮している。
姉のヘレンが活動的な性格なのに対し、妹のキャロルは内気な女性だった。
姉には妻子持ちの男マイケルという恋人があり、毎日のようにアパートに連れて来て泊め、神経質で潔癖なキャロルに嫌悪感を抱かせた。
毎晩のように姉の喘ぐ声が聞こえてくる。
神経質で潔癖性のキャロルは、男性恐怖症になると同時に男に犯される夢を見るようになり、徐々に精神的に壊れて行く。
キャロルにもコリンという恋人があったが、接吻されただけで身の毛がよだち、アパートに帰って口をすすがずにいられない。なぜだろう。
ある日姉たちは旅行に出かけた。
一人残されたキャロルはある晩、男に犯される夢を見たが、不思議にもそれを肌身に感じた。
店も休むようになり、ぼんやり部屋で過すようになった。
部屋の壁が大きく裂けたり、粘土のようにやわらかくなるのも彼女の幻覚なのか事実なのかわからない。
そんな時、会えないと苛立つコリンが訪ねてきて、ドアを無理に開けて入ってきた。
キャロルにとって男はただ嫌悪の対象でしかなく、すきを見て彼を殴り殺して浴槽に沈めた。
姉からピサの斜塔の写真が入った絵葉書がきて「家賃は払ったか」と書いてある。
その間も壁から男に掴まれる妄想に駆られ、姉の不倫相手の妻から電話もあった。
家主がやってきて、家賃を渡したら「精神病院さながらだ」と言われ、腐ったウサギを見つけられる。
家主はネグリジェ一枚で放心したようなキャロルに欲望を感じて迫る。
彼女を抱きしめたとき、キャロルはマイケルの残していた剃刀で滅茶苦茶に切りつけ、彼さえ殺した。
完全に狂ったキャロルはコンセントに挿してないアイロンをかけ、ベッドでまた襲われる夢を見た。


寸評
ミュージカル映画「シェルブールの雨傘」のヒットで世界的スターの座をつかんだカトリーヌ・ドヌーヴだが、彼女のキャリアの中ではこれが最高の映画じゃないかと思う。
オープニングのクレジットタイトルの背景は監督が執拗につきつけてくるドヌーヴの右目の接写で、きれいな瞳がかすかにまばたきするのを映し続けている。
ミステリアスな雰囲気がその映像表現で伝わってくるオープニングである。
ドヌーヴはほとんどセリフを言わない。
言ったとしても二言か三言の非常に短い会話である。
大きな顔、ブロンドの髪のドヌーヴは肢体そのものが感情を持たない人形の様である。
動作はノロノロとグズそうだし、なにをやらしてもテキパキしない。
彼女の発するセリフは棒読みに近い。
彼女の周りの人々は気がついていないのだが、観客である僕たちはとっくに気がついている精神異常をきたした女性をドヌーヴは見事に表現している。

壁に入る大きなひび割れ、窓から見下ろす下界の様子、通りを歩く芸人、すさんだ室内の様子、それらの映像がサイレント映画のように写しこまれ、モノクロ作品であることでより一層の不気味感を醸し出す。
キャロルは男性への嫌悪感があるのに、どのようにして恋人らしいコリンと親しくなったのか不思議だ。
姉の不倫相手の男性が使うものが自分のコップに立てられているとそれを捨て去る。
男の残したシャツの匂いを嗅いではえずいてしまう。
コリンにキスされると急いで家に帰り口を洗うという具合だ。
キャロルはまた姉に依存している。
姉は滞納していた家賃をやりくりし、キャロルに払っておいてくれと頼んで男と旅行に出ると、キャロルは棄てられたような気がしてくるのだ。

だれもいない部屋にひとりいるうちに、キャロルの意識は日常から乖離していき、幻想と幻影に襲われる。
僕は徐々にドヌーヴが素晴らしいと感じてくる。
彼女は男に犯される夢を何度も見るようになる。
多分それは幻影なのだが、もしかすると本当に誰かが入って来て犯されていたのではないかとも思えてくる。
妄想はさらに強くなり、壁の両側からニョキニョキと腕や手首が出てキャロルをつかまえようとし、侵入者に何度も犯される。
彼女は妄想することで生じる幻影にずっと悩まされているが、それが現実のものとなって彼女を襲ってくる。
コリンもそうだし家主もそうで、彼等は妄想の産物ではない。
キャロルはなぜ男性恐怖症になったのかは最後まで不明のままである。
しかし彼女の姉依存は両親からの愛情不足にあったのではないかと僕は想像する。
少女時代の家族写真を見ると、反抗的な視線を送るキャロルの姿に彼女の犯行が見て取れる。
ポランスキーは連続殺人を犯したキャロルを生かしておいただけでなく罰するふうでもない。
楽しくはない映画だし、スッキリした気分になれない結末なのだが、脳裏に残る非常に印象深い作品だ。