おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

はつ恋

2020-01-15 09:25:22 | 映画
「はつ恋」 2000年 日本


監督 篠原哲雄
出演 田中麗奈 原田美枝子 平田満
   仁科克基 佐藤允 真田広之

ストーリー
会田聡夏(さとか)17歳の春休み。
母・志津枝の突然の入院で、父・泰仁との、妙にギクシャクした生活が始まる。
検査の結果が思わしくないとわかった次の日、志津枝が大事にしていた、鍵を無くして聞けなくなったオルゴールのねじを、聡夏は志津枝に内緒でひとつひとつはずしていく。
しかし中から出てきたのはメロディーではなく、古い封筒と一枚の写真だった。
封筒に書かれている住所は志津枝の故郷と同じ長野県上伊那郡。
宛名には聡夏の知らない名前があった。
藤木真一路様・・・。
封筒の中身を盗み見する聡夏。
「わたしたちはこのまま終わりになってしまうのでしょうか?あの願い桜の下でもう一度だけ会ってください・・・。桜が咲いたらもう一度」
それは24年前に母が、父ではない人に書いたラブレターだった。
この人を探しに行こう、24年前のお母さんの約束を、私が絶対にかなえてやると聡夏は意を決する。
しかし探し当てた藤木真一路はみすぼらしい生活をおくっていた。
なんとか母の夢を壊さないで会わせるために聡夏の奮闘が始まり、真一路も身なりを整え始める。
そして、あの願い桜の下で待つ志津枝と聡夏のもとへ・・・。


寸評
病院を抜け出して行った満開の夜桜(願い桜)の下で、「どうして手紙を出さなかったの?」と尋ねる聡夏に、志津枝は次のように答える。
「出して会っていたら別れずに済んだかどうか解らない、それで良かったのかどうなのかも解らない、今となっては・・・。あの時の桜はどこにも咲いていない・・・。でもこの人生が理想と違ったものだったとは思っていないのよ・・・。お父さんと結婚していなかったら、貴女のような最高の娘に出会えなかったかもしれない・・・ありがとう・・・」と。
その抑揚もなく、それでいて確信に満ちた志津枝の言葉に、感動のあまりとめどなく涙があふれ、どうして母親と男を会わせたがるのかということに対する説明不足など吹っ飛んでしまった。
平凡だったとしても、もしかしてという事があったとしても、人生の終わりには、悔いのない人生だったと言いたいし、理想と違ったものだったとは思いたくはない。
一生の半分以上過ぎた私にとって、切々と語る志津枝の言葉がこの映画の全てだった。
オルゴールの曲と子供にプレゼントしたレコードの曲は同じだから、藤木真一路はその曲にかかわった二人の大事な女性を失ったことになる。
しかし、三人目の女性まで失くさない(たとえ自分のもとに戻らなくても)救いも良かったと思う。
登場人物はどうしてこんなにも素直でいい人なのだろう。
タクシー運転手の佐藤允などは田舎に行くと、きっとお目にかかれるだろう好人物だ。
私も沖縄で乗ったタクシーの運転手とサトウキビの話になった時、その運転手が畑の中へ駆け出して、畑の持ち主らしいお百姓さんに交渉してサトウキビを一本もらってきてくれて、トランクから取り出した錆びたナイフで小さく切って持たせてくれたことを思い出した。
長いサトウキビを肩に担いで、靴を汚しながら畑の中を掛けるあの運転手を見る思いだった。
真田広之がこないとわかっている場所に、夫の平田満が現れたときの「お父さん・・・」と微笑む原田美枝子の笑顔が忘れられない。
彼と結婚したことに対する後悔のなさ、一生懸命生きてきた自信を表していたと思う。
そして待ち合わせの場所を書いた地図を渡したのは真田広之だろうことは想像できるので、なおさらジーンと来る。
田中麗奈の映画なんだけれども、これだけ脇役人を固めると引き締まってくる。
田中麗奈、原田美枝子、平田満、真田広之、佐藤允など登場人物はみんな素敵で、桜の花のシルエットが映画の雰囲気をさらに盛り上げる。
私は死ぬとき "はつ恋" の人に会いたいと思うだろうか?
あえば何て言うだろうか?
やっぱり「や、元気?」なのだろうか?