おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

第三の男

2019-09-30 14:31:27 | 映画
「第三の男」 1949年 イギリス


監督 キャロル・リード
出演 ジョセフ・コットン
   オーソン・ウェルズ
   アリダ・ヴァリ
   トレヴァー・ハワード
   バーナード・リー
   ジェフリー・キーン
   エルンスト・ドイッチュ

ストーリー
米国の西部劇作家ホリイ・マーティンス(ジョゼフ・コットン)は、旧友ハリー・ライムに呼ばれて、四カ国管理下にある戦後のウィーンにやって来たが、ハリーは自動車事故で死亡していて、まさにその葬式が行われていた。
マーティンスは墓場で英国のMPキャロウェー少佐(トレヴァー・ハワード)と連れになり、ハリーが闇屋であったときかされたが、信ずる気になれなかった。
ハリーは生前女優のアンナ(アリダ・ヴァリ)と恋仲であったが、彼女と知り合ったマーティンスは、彼女に対する関心も手伝ってハリーの死の真相を探ろうと決意、ハリーの宿の門衛(パウル・ヘルビガー)などに訊ねた結果、彼の死を目撃した男が三人いることをつきとめた。
そのうち二人はようやく判ったが、“第三の男”だけはどうしても判明しないまま、マーティンスは何者かに脅かされはじめ、門衛も殺されてしまった。
一方アンナは偽の旅券を所持する廉でソ連MPに粒致されることになり、それとも知らずに彼女の家から出て来たマーティンスは、街の物蔭に死んだ筈のハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)をみつけた。
ハリーが悪質ペニシリンの売りさばきで多数の人々を害した悪漢であることを聞かされていたマーティンスはこれをMPに急報し、アンナの釈放と引きかえに彼の逮捕の助力をするようキャロウェイから要請された。
マーティンスはハリーとメリイゴウラウンドの上で逢い、改めて彼の兇悪振りを悟って、親友を売るもやむを得ずと決意したが、釈放されたアンナはマーティンスを烈しく罵った。
しかし病院を視察してハリーの流した害毒を目のあたり見たマーティンスは結局ハリー狩りに参加、囮となって彼をカフェに侍った。
現れたハリーは警戒を知るや下水道に飛込み、ここに地下の拳銃戦が開始され、追いつめられた彼はついにマーティンスの一弾に倒れた。


寸評
アントン・カラスの奏でるチターのメロディが最初から流れ続け、その弦音が心を掻き立てるように鳴り響く。
ストーリー的にすごく凝っていると言うわけではないが、見せつけられる映像によってサスペンスの世界に否が応でも引き込まれていく。
何といっても撮影が素晴らしい。
夜のシーンが多いので暗闇にさし込む光がこれ以上ないという効果を生み出している。
ハリー・ライムが親友のマーティンスの前に姿を現す場面などは、分かっているのにドキリとする興奮を持たらす。
暗闇に人がいるのは分かるが足元だけに明かりが射している。
そこに猫がやって来て靴紐にじゃれるが、直前にその猫はライムにしか懐かないと述べられていたので、この男はライムであることが想像できる。
そして路上の騒音に怒った向かいのビルの住人が部屋に明かりをともし窓を開ける。
サッとその光がライムの顔だけに差し込むシーンには分かっているのに感動してしまうのだ。
この光の使い方、陰影による表現はモノトーン作品だけに一層の効果を上げていた。

感心するのはその光のとらえ方と共に時々使用される斜めに切り取った画面だ。
傾いた画面が緊張感を生み出しているのだが、唸ってしまうのはそのような画面だけではなく、スクリーン上に展開される映像の構図だ。
絵画的であり、演劇的であり、藝術写真的であり、何よりも映画的な構図で迫ってくる。
ビルの上からの俯瞰であり、遠くを望む広角的なショットであり、印象的な背景だ。
マーティンスとライムが落ち合う観覧車のシーンなどは脳裏に焼き付いて忘れることのない素晴らしいショットだ。
その後に交わされた会話は覚えていなくても、空一杯にそびえ静かに回転する観覧車の巨大な姿は忘れることはないだろう。
地下水道を走り回る靴音の響きと壁面に映る影の動きも緊張を高めた。
戦争が終わった後のウィーンが舞台で、いたるところに崩壊したビルや瓦礫の山があり、そこに現れるライムのショットも素晴らしい。
これだけ光と構図に凝った作品も珍しいものがある。

出演者の中ではアンナのアリダ・ヴァリがよくて、特にラストシーンが彼女を際立たせている。
マーティンスは結局ライムをMPに売ったことになり、彼の埋葬を終えアメリカに一人帰っていく事になる。
友は悪の道に踏み込み、その友を自分が射殺し去っていくのだが、その前にもう一度女性と言葉を交わしたいと男は待ち受けている。
墓地の中の枯葉の舞う長い一本道を女性は歩いてくるが、待ち受ける男には一瞥もくれず、まっすぐに正面を見据えたまま無視するがのごとく通り過ぎてフレームアウトする。
静かだった長いシーンが終わるとチターのメロディが響き渡る。
う~ん、いいわあ!
映画が娯楽として存在していながら芸術としての存在を見せつけた一つの到達点の様な作品である。
キャロル・リード渾身の一作で、彼の最高傑作だと思うし、映画史に残る作品だとも思う。